双子と王立学園 9
王立学園の教師は、研究者を兼ねている。
教師をしながら研究ができるように、助手を持つことを許されている。
ただし、王立学園には王族や高位貴族が派閥を問わずに通っているため、助手は身元確かな者である必要がある。
「……私は王立学園の卒業生ではありません。それに魔力がありません」
「だが君は、今すぐに中級書記官が務められるほどの能力を持つし、すでに上級魔術書を読み始めている。他に適任はいないし……」
「ラランテス、申し訳ないがメリッサは」
ラランテスを止めようと、フェリオが口を開く。しかし、ラランテスはモノクルの位置を直すと寂しげな表情を浮かべる。
「他国出身の私には、助手にできるような信頼できる相手が少なくてな……条件を満たすとなるとメリッサ君以外にいないのだよ」
「……っ、ラランテス先生」
こうなってしまうと、お人好しのメリッサがお断りするなど出来はしない。
そのことをフェリオも、もうすでによくわかっている。
「――ラランテス先生、失礼致します」
扉をノックするや部屋に入ってきたのは、青みを帯びた髪の女性だった。
彼女は侍女服を着ている。
「君か……その姿ということは、侵入者が?」
「ええ、おそらく魔術精霊主義者の貴族が放ったかと」
「――第二王子殿下と接触したからか。はあ、それで? それだけのために来たのか?」
「ふふ、先ほどの件について我らの間で意見が割れておりますゆえ」
「ふむ、持ち帰りか。ロイフォルト伯爵だけ残ってくれるか?」
「ああ……学園長にも報告せねばな」
フェリオは重々しいため息をついた。
「屋敷から迎えに来させよう。先に帰ってルードとリアの入学祝いの準備を進めていてもらえるだろうか?」
「ええ……」
「第二王子殿下も護衛をお呼びください。本日はディグムート卿でしたか?」
「ええ、そうです。ラランテス先生……それでは、失礼致します」
「ええ、殿下……これからを楽しみにしております」
すると扉が再びノックされた。
「「お迎えにあがりました」」
「早すぎるわ!?」
迎えに来たのは、マーサとメアリーだった。あまりに早い登場――やはり先ほどの天井からの音は、とメリッサは思った。
「ダリアは?」
ダリアの姿がない……いつも三人は一緒に行動しているのに。
マーサとメアリーはいつものように柔和な笑みを浮かべ、口を開いた。
「「実は……腰を痛めておりまして」」
「まあ……大変だわ! 早く帰りましょう!」
「「ダリアは大丈夫なの?」」
「一週間程度は動けなくなるやもしれませんね」
「無理しましたからね」
三人の侍女は高齢なため、よく無理をしては腰を痛めるのだ。
「ラランテス先生、失礼致します」
「ああ、ダリア君にお大事にと伝えてくれたまえ」
メリッサは、ルードとリアとともに扉の方に向かった。
ボブカットの美女と目が合う。彼女は青い目を細めてメリッサに笑いかけてきた。
その笑顔をメリッサはどこかで見たことがある気がした。
彼女の手首に無骨な腕輪があることに気がつく。この腕輪もどこかで見たことがある気がする。
「それでは、ごきげんよう」
ラランテスは、にこやかにメリッサたちに手を振った。
メリッサが扉を閉めるとき、謎の美女とラランテス、フェリオの三人は深刻な表情で話し合いを始めるところだった。




