双子と王立学園 8
そのとき、扉が遠慮がちに叩かれた。
「ようやく来たか……入りたまえ」
「失礼致します」
ラランテスがそう言うと、ゆっくりと扉が開く。
現れたのは第二王子だった。
「ロイフォルト伯爵家の皆さまもいらっしゃいましたか……ご無沙汰しております」
「第二王子殿下にお会いできましたこと、誠に光栄でございます」
先日、王太后のお茶会で会ったときには気が弱そうな印象だった第二王子だが、今日こうしてみれば王族らしい気品と威厳を持ち合わせている。
――もしかすると、自分よりも大人びているかもしれない、とメリッサは密かに思った。
「……先日は大変失礼した。すまなかった」
「――いいえ、恐れ多いことでございます」
王族が謝罪することなどあってはならぬとメリッサは習った。
しかし、第二王子は謝罪した。
「第二王子殿下、どうかこれからも我らの忠誠は王家にございます」
「第二王子殿下、私どもこそ先日の無作法を深くお詫び申し上げます」
ルードとリアも大人びている。
というよりも、大人よりも立派かもしれない。
せめてもと思い、メリッサは背筋を伸ばす。
「さて、君たち三人ともこちらにおいで」
ラランテスがマイペースにそう言った。
彼は王族であるとか伯爵家であるとかそういったことを気にしている様子がない。
「あの……ラランテス先生」
「王立学園では学生はすべて平等である」
ラランテスが口にしたのは、王立学園の理念であった。
もちろんそれは、学園の理想を唱えるものではあるが……。
「メリッサ君、教師の役割とはなんだと思う?」
「……それは、学業を教えることでは」
「三十点だな……教師は理想を教えるのだよ」
「理想」
「ただし、これは私の意見であって正しいかはわからない」
ラランテスの言うことは、いつもちょっと難しい。だが、理想を教えるということについては、メリッサも良いなと思った。
「さて、第二王子殿下とロイフォルト伯爵令息に令嬢がこちらに通うとなると護衛が必要だな」
「……王立学園は」
王族や高位貴族が通う王立学園は、セキュリティがしっかりしていると聞いている。
メリッサが通っていたカレント男爵家領にある学園は、近所の人たちが訪れる自由な場所だったが……。
「魔道具の開発を良く思わない者が多い」
「――――っ」
「そこでだ……ロイフォルト夫人、研究の手伝いに来てくれないかね? それで、安全面の問題は全て解決だ」
「えっ、どうしてですか?」
「だって、そうだろう……なぁ?」
ラランテスが天井を見上げてニヤリと笑ったりしっかりとした作りのはずの学園の天井が、ネズミでも潜んでいるようにカタカタと音を立てた。
――誰かが潜んでいる。
王立学園の警備網をくぐり抜け、天井に潜むことができる誰かが。
だが、メリッサはその人物、いや人物たちは自分の知り合いではないか……そんな予感を拭えないのだった。




