双子と王立学園 5
白髪交じりの淡い紫の髪に、凍り付く月のような銀色の瞳。モノクルが彼ほど似合う人はいないだろう。
白衣をまとった彼には、大人の色気という言葉がよく似合う。
「私はラランテス・ウェイアード。魔道具学の専門家だ。君たちには初級魔術を教える。ところで、この中に魔力を持たない者はいたかね?」
場内は静まり返った。
魔力を持たないということは、この国では蔑まれる要素である。
そして、魔力を持たない者は逆に珍しい。
メリッサの代には、メリッサしかいなかった。
「ふむ、隠したがるか。だが、魔道具であれば、魔力のあるなしにかかわらず力を得ることができる。魔道具は良いぞぉ! どれほど良いかというとだな……」
ラランテスは立ち上がると、白衣をバサッと広げた。
そしてそこから、杖を一本取り出す。
杖を振るとそこからは音楽が流れ出す。
入学を祝う曲だ。
「ふふん、これは魔鉱石をエネルギーにしているから、私の魔力はほんの少しも消費されないのだよ」
そこからの語りは長かった。
「そもそも魔道具の歴史は……」
ラランテスの魔道具への愛の一端を知るには十分すぎる内容だ。
魔道具に興味がある者は、キラキラとした目になって聞いている。
あまりに話が長いので、途中で副学園長が現れて耳打ちした。
「ふむ、そろそろ時間か。残念ながらこの場で勇気ある申し出ができる者はいないようだな」
ラランテスは、ニッコリ笑うと踵を返す。
そのときだった。
「待ってください!!」
立ち上がったのは、第三王子だった。
彼はルードとリアと同じ学年なのだ。
王族である彼は、すでに魔力測定を済ませているという理由で特別に入学式での測定はしなかった。
何事かと周囲が見守る中、彼は止めようとした従者を振り切り壇上へと上がる。
「――ここで声を上げたなら、僕にもラランテス先生に教えを請う資格がありますか?」
ラランテスがニヤリと口の端を歪めて笑った。
メリッサは知っている――この表情は、ラランテスが対象に興味を持ったときに見せるものだ。
「ふふん、よろしい。高い地位にありながら、弱点を隠さず進んでくる覚悟。実に……実に興味深い!!」
「不敬だぞ!?」
第三王子の侍従に詰め寄られたラランテスだが、彼が余裕の笑みを崩すことはない。
「……あまりよろしくない状況だな」
「フェリオ様?」
先ほどから事の成り行きを黙ってみていたフェリオが、ポツリと呟いた。
そこでメリッサは改めて周囲を見渡した。
席に座る教師たちは、様々な表情を浮かべている。驚き、蔑み、怒り、そして隠しきれない敵意。
まだ幼い生徒たちのほとんどは、状況を理解していないようだ。
けれど、ルードとリアは違う。
深刻な表情を浮かべていた彼らは、見つめ合ってひとつ頷いた。
二人は天井に視線を向けて、指先をクロスした。何かの合図だろうか……。
そのとき会場に旋風が起こった。
旋風が運んできたのは、色とりどりの花弁だ。
会場はかぐわしい香りに満たされ、まるで鮮やかに染まっていく。
「これはいったい」
「……三人か」
会場がざわめく中、フェリオが壇上に上がり第三王子を前に礼をする。
「おやおや、これで終わりかね」
「第三王子殿下だけでなく、うちの子どもたちや級友たちの祝いの日ですよ? これ以上は見過ごせません」
「わかったよ。しかし、研究の後ろ盾も見つけたし楽しくなりそうだ。では殿下、研究室でお待ちしております」
ラランテスは第三王子の従者に挑戦的な視線を向け、ニヤリと笑ってから壇上から降りていく。
――波乱の予感。
メリッサはそのあとの長すぎる学園長の話の内容が、全く頭に入らなかった。
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