【番外編】三年前、双子との出会い 1
カレント男爵家は一同揃ってメリッサを見送る。
「姉さん、やっぱりやめなよ……」
「そうだよ、お金のために結婚するなんてさ。僕たちといようよ」
「……でも、ロイフォルト伯爵は素敵よ。お金持ちだし」
「姉さんはロイフォルト伯爵家の図書室が気になったんだと思うの」
「こらこら、勝手なことばかり言うな。結婚は姉さんが決めたことだ。祝いの席では祝おう……どうしてもだめだったら、いつ帰ってきてもいいんだよ、姉さん」
やいのやいの……。控え室は実に騒がしい。
メリッサの三人の弟と二人の妹は皆、一歳ずつしか離れていなくてとても仲が良いが、全員長女のメリッサが大好きだ。
「メリッサ……本当に良いのか」
「フェリオ・ロイフォルト様は王国、そして民のために最前線で戦うお方です。それだけでも尊敬に値すると思いませんか?」
「メリッサ……幸せになるのよ」
「いつでも帰って……」
「あなたまで今からそんなことでどうします!」
メリッサの父と母は仲が良い。
弟妹は皆、平均より強い魔力を持つし学業においても優秀なので奨学金も受けられる。
メリッサがなんとしてもロイフォルト家に嫁ぐ必要はないのかもしれない。
それでもメリッサが、降って湧いたようなフェリオからの結婚の申し込みを受けることにしたのは、尊敬できる人と結婚したいと思っていたことと、手紙の中にあった兄夫婦が残したという幼い双子のことが気になったからだ。
「……まだ三歳だというし」
フェリオは再び最前線に向かわなくてはならないという。
強い魔獣を倒せるのは王国の魔術師のごく一部と騎士団長ディグムート卿だけだ。メリッサが生まれる前には伝説の斧使いが魔獣を屠っていたというが……。
魔力を持たずに人ならざるような力を持つディグムート卿は別格。
通常魔獣と戦うのは魔術師だ。魔力が強く魔法を使いこなせる者は本人の意思にかかわらず戦う義務を持つ。
メリッサが幸せに生きられるのは、フェリオのような強い魔力を持つ者が戦ってくれるからだ。
結婚の申し込み書からは、メリッサと結婚するのは双子のためということが読み取れた。だが、魔力を持たないメリッサは、国のために戦うフェリオの役に立ちたいと思ったのだ。
家族への愛は深いメリッサだが、まだ恋すらしたことがない。
これからするかもわからない。
そんなことを考えていると、控え室に年老いた三人の侍女が現れた。
ロイフォルト家に長年勤めているという侍女たちは上品で厳しそうで、いかにも高位貴族の侍女、という印象だった。
「はじめまして、本日から奥様にお仕えするマーサと申します。後ろの二人はメアリーとダリア……どうかよろしくお願いいたします」
「マーサ、メアリー、ダリア……慣れないことがたくさんあってご迷惑を掛けるかもしれないけれど、これからよろしくお願いします」
メリッサはピョコンッと元気にお辞儀した。誠実さを感じさせるが、高位貴族には相応しくない素朴な礼だった。
「まあ……教え甲斐がありそうですわね」
「ふふ、正直そうではありますけれど」
「可愛いですわ」
「「ダリア!!」」
「あらあら、本音が」
一瞬いじめられるかもと身構えたが、なんとなく仲良くできそうな予感がしたメリッサ。
そこに花嫁のエスコートのため、フェリオが双子を連れて現れる。
ベールで少し視界が悪いが、フェリオの魔術師団長の正装に合わせて作られた白いドレスとタキシード姿の双子にメリッサは目を見開き、駆け寄った。
「かわっ……可愛い!!」
「ルードです」
「リアでしゅ」
リアは緊張したのか舌を噛んだ。
メリッサは初対面にもかかわらず、二人の可愛さに、にへらと笑ってしまった。
そして慌てて表情をただす。ベールがあって良かったな、と思いながら。
「初めまして、フェリオ・ロイフォルトだ」
「はっ!?」
メリッサは慌てて顔を上げた。
フェリオの声は苦笑しているような響きを含んでいた。
「あ、あの、メリッサ・カレントでしゅわ!」
このとき、メリッサはリアと同じように盛大に噛んでしまったのだった。
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