星空と夫婦の内緒話 2
二人の眼下、王都の夜景はまるで宝石箱をばらまいたように広がっていた。
けれどメリッサはあまりに高い場所にいることが怖くて、フェリオにギュッと抱きついた。
「怖い?」
「高いです……」
「そうか、加減したつもりだったが……」
「きゃ!?」
浮遊感に驚いて、メリッサはもっと強くしがみつく。
けれどすぐにトンッと軽やかな音が響いて、フェリオの足元は地面に付いた。
「……」
メリッサが恐る恐る目を開けると、そこは王都の街を一望できる小高い丘の上だ。
「――こんな魔法の使い方をして大丈夫なのですか?」
「使わなければ使わないで体内で過剰な魔力が荒れ狂う……たまには魔法を使わないとな」
「そういうものですか」
「ああ、魔術師というのは案外不便なものなんだ」
フェリオの手に掛かれば、魔力を持たない人が出来ないことだっていとも簡単に魔法で叶えられてしまう。メリッサには魔力すらないから、とても便利だろうな……と思っていたが、魔術師なりの苦労だってきっとあるのだろう。
フェリオとメリッサは、魔力だけでなく生まれも育ちも何もかも違うけれど、これから先も一緒に歩んでいくのだ。
「フェリオ様のことが知りたいです」
「……俺も、君のことがもっと知りたい」
二人は言葉を交わしたあと、同じ景色を眺めた。
小高い丘から見える王都は、幾多の光でキラキラと輝いている。
「わあ……きれいですね」
「そうだな……俺が子どものころは真っ暗だったが」
「……そうですね。明るくなりましたね」
この十年で王都の景色は大きく変わった。
一般にも普及した魔道具は、まず王都から暗闇を消した。
魔術師だけにしか使えなかった魔法。魔道具によってその恩恵を誰もが受けられるようになった。
「悲しいことがあると、この場所で一人王都を眺めたものだ」
「……そうでしたか」
この場所にメリッサを連れてきてくれたことには意味があるのだろう。
暗いからフェリオの表情は見えないが……。
「フェリオ様は一人で抱えすぎなのだと思います」
「君はそう思うのか」
「もちろん守秘義務があるのかもしれませんが……少なくとも私が関わっていることはちゃんと教えてくださいね」
「わかった」
目が慣れてくれば、フェリオが微笑んだことがわかる。
メリッサは彼の上衣に軽く掴まって、もう一度王都の夜景を眺めた。
メリッサには魔力がないし魔法が使えないが、今は魔道具のおかげで簡単に灯りもつけられる。
近い将来、侍女たちの力を借りている洗濯だって魔道具で簡単にできるようになるのかもしれない。
「魔道具がもっと普及したなら……フェリオ様が一番前で戦わなくてすむようになるでしょうか」
「どうだろうな……それはそれで、俺一人が戦っていたほうが良いと思えるような日々がくるかもしれないが」
「ルードとリアも自由に生きられるでしょうか」
「――二人が大人になるまでは、俺たちが守れば良いさ」
「……そうですね」
フェリオがメリッサを見下ろして、手を差し伸べてきた。
その手を掴めば、強く引き寄せられ、二人の間の距離は消えてしまう。
「これからも、そばにいてほしい」
「ええ」
メリッサが微笑んだことが、フェリオにも見えたのだろう。
王都の夜景は美しく、星空は建物の遙か向こうまで続いている。
三年の月日を埋め切るまでは、まだ少しの時間が掛かるに違いない。
それでも二人は手を繋ぎ、フェリオたちが守った王都の平和を眺める。
これから先、メリッサが契約妻だと思うことはもうないだろう。
二人は夫婦としてともに歩み、寄り添いながら本当の家族になっていくのだから。
第一部完結です
【お願い】ブクマや☆を押しての評価がまだの方は、物語が一区切り付いたこの機会にぜひ♪
創作意欲に直結します!!
第二部はルードとリアが王立学園入学編の予定
ドタバタ、時々シリアスな日々はまだ続きます
連載再開に向けて準備中です ぜひブクマをしてお待ちくださいませ。
そして、こちらの作品は書籍化が決定しております!
レーベルやイラストレーター様などお披露目にむけてこちらも準備中ですので、引き続き応援お願いいたします




