星空と夫婦の内緒話 1
フェリオは夜遅くに帰宅した。
ロングコートを脱いで侍女に手渡したフェリオは、夫婦の部屋の扉をそっと開けた。
侍女たちからは先ほどまで起きて待っていた、と聞いていたが今メリッサはすやすやと寝息を立てている。
その姿を見て、フェリオはただ愛しいと思った。
「……家族、か」
双子のことは可愛らしく思っていたし、何があっても守らなければならないと思っていた。
しかしそれは愛情というよりは、彼らの両親を守り切れなかったことに対する贖罪と、親族に対する義務感からだった。
メリッサの手紙を読み、双子はなんと愛らしいのか、と驚いたフェリオは愛をよく知らなかったのだろう。続いてフェリオは子ども部屋へと向かった。
ベッドは各人に与えられているが、二人は同じベッドに眠っていた。
二人の色合いは兄の色合いと同じだ。
神秘的でありながら優しい色合い……兄は誰からも愛される優しい人だった。
そんなことを思い出して、そっと子ども部屋の扉を閉める。
そして夫婦の部屋に戻ると、メリッサがベッドの端に座っていた。
「起こしてしまったか」
「おかえりなさいませ!」
起こしてしまったことに罪悪感を覚えていたが、メリッサは嬉しそうに笑って駆け寄ってくる。
それだけで、とても幸せな気持ちになることがとても不思議だとフェリオは思った。
華奢で柔らかい体を抱き留めれば、今日もメリッサからはほのかに甘い香りが漂ってくる。
「ただいま」
「こんな遅くまで大変でしたね? 待っていようと思ったのですが」
「――ああ、先に寝ていても良かったのに」
「ふふ、私が待っていたいから待っていたのですよ」
メリッサは当然のようにそう言って笑った。
フェリオのことをよく知る前は、言葉通り受け取っただろうが彼を知る度に思うのだ……メリッサを心配しての言葉なのだと。
「聞きたいことがあります」
「――そろそろ聞かれると思っていた」
「わかりやすかったですか?」
正直に言ってメリッサはわかりやすい、とフェリオは思う。
社交界で心の中を見せないように生きている貴族ばかり見ているフェリオにとって、メリッサの素直さは好ましいと同時に危うくも思うのだ。
「では、少し外に行こうか」
「外に?」
「見せたい景色があるから」
フェリオはメリッサに暖かいマントを羽織らせて、さらに首元に襟巻きを巻いた。
そしてモコモコの着ぐるみみたいになった彼女のことをヒョイッと抱き上げ、窓を開け放った。
夫婦の部屋にはバルコニーがある。メリッサはそこで話すのかな、と思った。
しかしフェリオは窓枠に足をかけると、美しい魔法陣をいくつもいくつも描きだし、まるで飛び石の上で跳ねるように夜空へと駆け上がったのだった。
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