手紙の真相 2
「ラランテス先生! お待ちしておりました」
「ああ、メリッサ君。おはよう」
ラランテスが銀色の瞳をこちらに向けた。
色素がないかのように見えて、光の加減で強く輝くその瞳は、いつ見ても美しい。
モノクルをつけた淡い紫色の髪の老紳士は、メリッサと目が合うや口の端をつり上げて笑った。
「何か聞きたげな顔をしているじゃないか」
「――先生にはお見通しなのですね」
「そうだな……君はわかりやすいからな。手紙の件かね」
「ええ、差し障りない範囲で教えていただけないかと」
ラランテスは顎に手を触れて少しだけ考え込んだ……。
「私が話せる範囲ね……」
「……あ、そういえば」
メリッサは手にしていた物を差し出した。
それはギラギラと小さな太陽のように輝く光の魔石だ。
「フェリオ様が好きに使って良いとくださった物です」
「……」
ラランテスは、食い入るように魔石を見ている。
この交渉で、メリッサが優位に立ったのは明らかだ。
「私には価値がわからないので、ネックレスにでもしようかと……」
事実、フェリオは光の魔石のあまりの美しさに感激したメリッサに対して「アクセサリーにでもしたらいい」とポンッと気前よくくれたのだ。
「なるほど……これはこれは」
「差し上げます」
「――交渉成立だ」
ラランテスは元々情で動くタイプではない。
だからこそフェリオは信用して彼をメリッサのそばに置いたのだ。
「しかし、ロイフォルト伯爵にしても夫人にしても少々気前が良すぎるようだ」
「ラランテス先生相手だからですよ」
「はあ……案外人たらしであることもよく似ている」
ラランテスはモノクルの位置を直しながら、しばらく考え込む素振りをして、それからメリッサに視線を向けた。
「しゃべりすぎてあの三人に目をつけられると面倒だからなぁ……かといって、あの視線からして丁度良い部分までは話すことを期待されているようだ」
「え?」
腕を組んで考え込んでしまったラランテスの後ろには、出迎えに来たらしい侍女が三人。
彼女たちは優雅な仕草で客を出迎えようとしている。
しかし、メリッサも理解しつつあった……ラランテスの言っていることが正しいのだと。
「先生、とりあえずこちらでお茶でも飲みながら」
「先生は甘い物もお好きでいらっしゃいましたね」
「……先生、よろしくお願いいたします」
「君たちは変わらないな……」
「「「ほほほ……先生もお若い頃からお変わりないですわ」」」
ラランテスと侍女三人の距離が近いとは、今までも思っていたが若い頃に親交があったらしい。
新たな事実に驚きながら、メリッサはラランテスを案内し、応接室へと向かうのだった。




