手紙の真相 1
「さて……家事をしましょうか」
三人の侍女たちが、なぜかチラチラとこちらを窺っているのは気になるが、フェリオが帰ってきてからよくあることなのでメリッサは気にしないことにした。
「マーサ、メアリー、洗濯物をお願いしてもいい?」
声をかけると三人は我に返ったようにこちらに走り寄ってくる。
そして、いつものように優雅に礼をした。
「もちろんでございます、奥様。そして私共は本日は大変腰の調子が良いようで……奥様は無理をなさらずゆっくりとお過ごしください」
「でも、掃除は……」
「それは私にお任せくださいませ」
「そう……?」
三人が妙に気遣ってくるのでメリッサは首をかしげる。
暇になるとついついフェリオのことばかり考えてしまうため、家事をしていたほうが気が楽なのだが三人は頑として譲らないようだ。
そこで、メリッサは久しぶりに図書室へと向かうことにした。
――ロイフォルト伯爵家の図書館は、貴重な蔵書が多い。
「……全属性の魔力を持った人は少ないと聞くけれど」
現在、全属性の魔力を持つと公にされているのはこの国ではフェリオだけだ。
魔術師副団長や、ラランテスも複数属性を持っているが全ての属性は持たない。
そもそも、メリッサのように魔力を持たない者や、魔力を持っていても魔法の行使までは至らない者の方が多い。全属性を持つことはとても特異なのだ。
「それに気になるのは……」
メリッサは、この国の魔術師についての歴史書を取り出した。
そして読み進めていく……そこで、魔術精霊主義についての項目が目に留まる。
「ずいぶん過激なのね……」
過去、魔術精霊主義者は、魔力が強い者は精霊に選ばれた者、という思想に基づき、魔道具の開発に反対し、政治に介入し続けてきた。時に苛烈に、時に影に潜むように……。
一方、フェリオやラランテスは魔力とは人々の幸せのために与えられたもので、誰でも使えるように活用すべきという考え方をしている。
メリッサの手紙が全て届かなかったことや、フェリオからの手紙が届かなかったことは魔術精霊主義に傾倒する貴族によるものである可能性が高かったという。
戦場で通信文が途絶え、フェリオが窮地に追い込まれることもあったらしいから、メリッサの手紙の件は恐らく氷山の一角なのだ。
「つまり、第八王女殿下は利用されたということよね……」
先日のお茶会でも、双子に心ない言葉を浴びせたという第八王女。
それにフェリオが帰る直前には、メリッサにも『フェリオと別れるように』と手紙を送ってきた。
彼女は幼く、利用しやすかったことだろう……。
「でも、行動は間違っていても、王女殿下の気持ちを利用するなんて許せないわ」
フェリオであれば利用されるような王族は生き残れないと切り捨てるのだろう。
けれど、メリッサは情が厚く、正義感が人よりも強い。そんな彼女だからこそフェリオは彼女と結婚し双子を預けたのだが……。
「――今日はラランテス先生が来る日だったわね」
フェリオは、今回の件については進捗はあると言ってはいたが、内容は教えてくれなかった。
もちろん、王族が絡む事柄なのだ。家族だからと言って話すことはできないだろう。
しかし、メリッサは当事者の一人なのだ。
聞き取りすらされないというのはいかがなものか。
「――なんとなくだけれど、フェリオ様は私を巻き込むまいと、伝えるべきことまで伝えてない気がするのよね」
メリッサは今日この日まで、高位貴族としての考え方や、王族や貴族たちの情報や付き合い方、王国で問題が起こったときどのように処理されるのかなどありとあらゆることを学んできた。
ルードとリアのために屋敷を訪れていた家庭教師たちは、メリッサが磨けば光る原石でやる気まで持ち合わせているとわかるや、こぞって自身の得意分野を教え込んだのだ。
だから、彼女の分析はあながち外れてはいない。
フェリオが彼女を巻き込みたくないと考え、情報を伝えず協力を求めていない、それは事実なのだ。
来客を告げるベルの音が聞こえる。恐らくラランテスが屋敷に来たのだろう。
メリッサは分厚い本に栞を挟んで閉じると席を立ち、ラランテスを出迎えるためエントランスホールへと向かうのだった。
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