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可愛い双子の子育てと契約妻は今日で終了予定です【書籍化決定】  作者: 氷雨そら


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夫婦と新たな手紙 1


 家に帰り着き、双子は早めに就寝した。

 とは言っても、いきなり起きてくることが多いため油断はならない。


「どうでしたか?」

「完全に眠っておられます」

「――今夜こそ」


 オレンジ色の光に照らされ、三人の密談は続く。


   * * *


 一方、フェリオとメリッサは夫婦の部屋で二人で過ごしていた。


「疲れただろう」

「ありがとうございます」


 フェリオが差し出したのはもちろん、ノンアルコールカクテルだ。

 メリッサは先日、フェリオと一緒にお酒を飲んだ。

 そして、酔うとすぐに眠ってしまうタイプだということが判明した。


 ――もちろん、これから慣れればそれも変わってくるのかもしれないが……。

 フェリオはメリッサに対してとても過保護なので、無理に飲ませることは金輪際ないだろう。


 グラスの中のカクテルは淡いピンク色をしていて、炭酸の泡がポコポコと浮かんでは消える。

 ピンが刺されたさくらんぼがグラスの縁に掛かっていてとても可愛らしい。

 

「まさか……フェリオ様が作った……わけないですよね」

「レシピ通り作っただけだが……」

「え、可愛い、すごい!」

「君をイメージしてみた」


 サラリとそんなことを言うフェリオ。彼は今まで誰かと真剣に交際したことがないらしいが、それが真実なのか判断に迷うところだ。


「これが、ロイフォルト家の血のなせる技」

「――どういうことだ?」

「双子たちも、私が家に来て初めての誕生日には、グラスにジュースを注いでお祝いしてくれました。テーブルをびしょびしょにしながら」


 三歳の頃の双子は本当に可愛かった。

 今ももちろん可愛いのだが、ほかに言葉が見つからないくらい可愛かったのだ。


「そうだったのか……。そういえば、君の誕生日はもうすぐだな」

「ご存じだったのですか」

「家族の誕生日だ、知っていて当然だろう? 当日は、義父上や義母上、弟君や妹君も招いてお祝いしよう」

「……っ、嬉しいです」


 カレント男爵領は、自然に囲まれたのどかな場所だが、王都からは少し遠い。

 メリッサには弟が三人、妹が二人いる。

 しかし彼らは、メリッサと年齢が近く、末の弟も今年王立学園を卒業した……。

 これからはそれぞれの道を歩み、全員が集まる機会も少なくなることだろう。


「フェリオ様?」


 懐かしい実家を思い出して小さな笑みを浮かべたメリッサを、フェリオは穏やかな表情で見つめていた。フェリオは笑みを浮かべていたが、その表情からは一抹の寂しさが感じられるようだ。

 メリッサはふと、彼の境遇に思いを馳せた。

 

「フェリオ様は、どんな子どもだったのですか?」

「俺の子ども時代など、聞いてもつまらないと思うが……」

「聞きたいです!」


 フェリオはしばし過去を思い出すように天井に視線を送り、それから語り始めた。


「――俺は、生まれたときから魔力がとても強かった。だから物心ついたときから厳しい訓練を課せられていた」

「物心ついたときから、厳しい訓練を……」

「幼い頃の俺は、両親に褒められて楽しそうにしている兄と自分をよく比べていた」

「……」

「今なら両親は俺が強大な魔力に飲み込まれて命を落とさないよう、厳しくしていたのだとわかるが、幼い頃はそれが理解できなかった」


 双子も魔力を無理に使いメリッサを助けようとしたあと、ひどい熱を出して苦しんでいた。

 今のメリッサなら、フェリオの両親の気持ちもわからないではない。

 けれど当時子どもだったフェリオが、可愛がられて自由に育っている兄と自分を比べ、愛されていないと感じてしまったのも仕方がないことだろう。


 メリッサは、知らずソファーの隣に座ったフェリオの手を握っていた。

 それは双子を落ち着かせるときのように半ば無意識の行動だったのかもしれない。

 メリッサの手は温かい。フェリオは口の端を軽く緩め、思い出すことを避けていた過去と向き合った。


「魔力をほぼ制御できるようになると同時に、魔術師団の見習いとして過ごすようになった。その後は王立学園に通いながら、魔術師団の見習い過ごし、卒業後からは戦場で過ごす時間の方が多かった」

「……そうだったのですね」


 まだ十五歳くらいのフェリオが過酷な戦場に送られたことを想像し、メリッサの瞳は思わず潤んだ。

 それから彼は戦い、この国を魔獣から守り続け、英雄と呼ばれるようになったのだ。


 その後、彼は兄夫婦の訃報により、急遽ロイフォルト伯爵家を継ぐことになった。そして遺された双子のためにメリッサを妻に迎えた……この部分の経緯についてはメリッサも知っているつもりだったが、そこに秘められたフェリオの過去を鑑みることはなかった。


 潤んでしまった目を見られまいと俯いたメリッサを見つめ、フェリオは口を開く。


「子どもの頃の君は可愛かっただろうな……どんな子どもだったんだ?」

「そうですね、少々やんちゃで弟や妹たちと野山を駆けまわっていました……貴族令嬢らしくないですよね」

「はは、さぞや明るく可愛い子どもだったのだろう」

「……」


 重ねられていた手を引いて、フェリオはメリッサを抱きしめた。


「……君が双子を愛してくれて、その様子を手紙で読んで、救われた気がしたんだ」


 メリッサがこの家に来たとき、双子も物静かで三歳とは思えないほど良い子だった。

 そして魔力が強い双子も、まだ物心ついたばかりだというのに厳しい訓練を課せられていた。

 魔力が暴走すれば命の危険がある。それ自体は仕方がないことだと思ったが……メリッサは、その代わり子どもたちを連れ出しては庭で遊んで、遊んで、遊びまくった。その結果、双子は少しばかりやんちゃに育ってしまった……。


「……手紙」


 半月に一度書いたにもかかわらず、半年に一回、ラランテスの手からしか届かなかったメリッサからの手紙。しかも、フェリオが書いたという手紙はメリッサの手には届かなかった。


 詳しい内容については魔術師団の上層部のみで共有され、メリッサは詳しく聞いてはいないが調査は進んでいるという。


「そういえば、こちらを」


 メリッサはフェリオから離れ、引き出しから封筒を取り出すと駆け戻ってきた。


「……これは?」

「手紙を書きました! でも、恥ずかしいから読むのはお一人の時にしてくださいね」


 メリッサはにっこりと微笑む。

 封筒は分厚い。だって、以前送った手紙の内容を思い出せるだけ思い出して書き綴ったのだから。




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