双子と魔法とお母さま 2
「お父さま……」
「「そうだよ! メリッサがお母さまになるなら、叔父さまがお父さまでしょう?」」
「俺が、君たちの……?」
フェリオが驚いたような声を出した。
確かに、今まで手紙にはお父さまと書いてあったが、双子たちはいつでもフェリオのことを叔父さまと呼んでいたのだ。二人は再びメリッサにしがみついた。
「「お母さま、本当のお母さまになって!」」
「あなたたち……」
もちろんメリッサにとって二人は可愛い子どもたちだ。
メリッサには弟と妹がいるが、ルードとリアは三歳から育ててきたのだ……兄妹のようだというのとも違う。血は繋がっていなくとも実の子どものように思っていた。
「ルード、リア、この話は家に戻ったら改めて」
しかし、フェリオの言葉に二人はあっさりとメリッサから離れた。
「「……そうだね~」」
ルードとリアは、先ほどまでメリッサに向けていた子どもらしい笑みを消し、微笑んだ。
そして完璧な礼を披露する。
「「それでは王太后陛下……そろそろ失礼致します」」
「ええ、申し訳ないことをしたわ……」
「「第二王子殿下には、よろしくお伝えください」」
「わかったわ」
そしてルードはメリッサに小さな手を差し出した。
「さあどうぞ、お母さま」
「ありがとう」
メリッサはルードにエスコートされる。
身長差がありすぎるので、親子が手を繋いでいるようにしか見えないが……。
「お父さま、お願いします」
「ああ……」
おしゃまに差し出したリアの手をフェリオが取る。
リアの仕草は優雅だったが、身長差があるため、やはりこちらも親子が仲良く手を繋いでいるようにしか見えない。
――四人の様子は微笑ましく、誰が見ても仲がよい家族に見えることだろう。
「「それでは、ごきげんよう」」
ロイフォルト一家は双子の挨拶に合わせるように、雨に濡れた色鮮やかな薔薇に囲まれて優雅に礼をした。
フェリオは厳しい視線を王太后に向けていたが、「王家と子どもたちとの縁はしばし考えさせていただきます」と口にし、この上なく美しく微笑んだ。
こうして家族はようやく家に帰ることになった。
――そして、四人が去った後、三人の侍女も優雅に礼をした。
「あなたたちも、もう帰るのね」
「ええ、王太后陛下――積もる話もありますが、私どもはこの辺りで」
「そうね……王立学園時代の話がしたかったわ。また来てちょうだい、マーサ」
「……ローザ様もお健やかに」
マーサはもう一度美しい礼を見せ、ガゼボから去って行った。
「王太后陛下、先日は手紙の件、ありがとうございました」
「あなたがあんなに必死になるなんて……。陛下に手紙を届けるくらいはお安い御用よ、メアリー」
「――ふふ、そのお礼として差し上げた物はお気に召していただけましたか?」
王太后がチラリとサイドの後れ毛を除けると、そこにはイヤリングが輝いていた。
「……貴重な品をありがとう」
「ローザ様に借りを作ると面倒なことは身にしみておりますから。御身に危険が迫ったときには、どうかそれを床に投げてくださいませ」
「――ありがたくいただいておくわ。あなたたちに借りを作ると後が面倒というのはこちらも同じなのだけれど……今日のことは私の借りにしてちょうだい」
「それは心強いこと」
メアリーも優雅に礼をして去って行く。
王太后は彼女たちと過ごした輝かしい青春を懐かしむように目を細めて見送る。
「……王太后陛下」
「ダリア――秘密裏に私に会いに来るためとはいえ、門番を眠らせたり、鍵を壊すのはいただけないわ」
「あのころから変わらず粗忽者で――お許しください」
「生徒会の鍵を壊して私と陛下を出会わせてくれたことを思い出すわ……でも、あまり派手にされるともみ消すのが大変よ」
「懐かしゅうございますね――しかし、私もそろそろ」
ダリアは優雅に礼をすると、すでに離れたところを歩くマーサとメアリーの元へ駆けていった。
「羨ましいほど元気ですこと」
王太后は自身も立ち上がると、先ほどから控えていた侍女に視線を向けた。
「手紙を書くわ……書き上がったら早咲きした貴重な薔薇と共に両陛下に届けるように」
「はい、王太后陛下の仰せのままに」
「――今日の出来事が歪んで伝わる前に、両陛下にはキッチリとお伝えしなければね」
王太后の笑みには妙な迫力がある。
それはそうだろう。彼女は落ちぶれた伯爵家の令嬢として生まれながら、王立学園在学中に先代国王の心を掴み、王妃として君臨し誰もが跪く日々を送ってきたのだ。
その日々には彼女と学友だった若き日の三人も密接に関わっているのだが……その活躍はすでに思い出の中に朧気に残るのみだ。
「……それにしてもロイフォルト伯爵家の直系は、魔力が強い者らしく大切なものへの執着が強いわね。つまり、相手にするならメリッサ・ロイフォルト夫人ということね」
王太后に気に入られたロイフォルト夫人が頻繁に彼女のお茶会に誘われているらしい――それは、このあと社交界を賑わせる噂の一つとなる。
王太后はもう一度派手な扇を広げると、手紙を書くために屋敷の中へと入っていった。
庭には咲くにはまだ早いはずだった、季節を忘れた薔薇だけが残されるのだった。




