双子と魔法とお母さま 1
話を聞くところ、第八王女がメリッサを『たかが男爵家の生まれ』と言ってしまったことが始まりだったようだ。
『『お母さまは、上品で優しくどんな貴婦人より素晴らしい方です。とても大切にしていただいています』』
もちろん双子は内心ひどく腹を立てた。それでも王族の手前、和やかな笑みを崩さなかった。
――ところが。
『はは、身分の低い女を母と呼ぶなど』
『お母さま? お前たちの母ではないだろう』
追い打ちを掛けるような第一王子と第三王子の言葉に、堪忍袋の緒が切れてしまったとして、誰が幼い二人を責められようか。
『ねえ、ルード』
『ああ、リア』
『兄上、ロイド! 王太后陛下の招かれた客人に対し、あまりに失礼だぞ……お二人とも誠に申し訳ない。どうか許し……』
『『これ以上、お母さまを侮辱するな!!』』
二人がそれでも魔法のコントロールを失わなかったのは、第二王子の言葉に自分たちへの配慮を感じたからだ。そうでなければ、庭はグチャグチャになっていたことだろう。
「……そんなことが」
「「ごめんなさい」」
「いや、お前たちは悪くない」
「「……叔父さま」」
「我がロイフォルト家は、一族を侮辱する者を許さない。誰が相手であろうと」
フェリオがこんなに怒るなど、戦場でもないだろう。しかも笑みを浮かべているところが余計に恐ろしい。
「旦那様、やってしまいましょうか」
「まって、マーサ何をする気なの!?」
いつも穏やかなマーサまで不穏な言葉を発した。
「そうですわね。王太后陛下のお顔は立てなければいけませんから闇から」
「ね、ねえメアリー、闇ってなに!?」
上品に言葉を濁したようでメアリーの言葉はさらに物騒だ。
「……」
「ダリア……」
ダリアは言葉を発さない。
メリッサは一人だけでも冷静になってくれて良かったとホッとしていたが、ダリアは不意に袖をめくった。
そこには魔石がはめられた腕輪が一つ。
「まさか再びこれを使うことになろうとは」
魔石が緑の怪しい光を放ち始める。
「よくわからないけれど、それは使ってはいけない気がするの!!」
メリッサが涙目で止めると、全員が彼女を見つめ毒気が抜かれたようにため息をついた。
「ひどく言われたのはお母さまなんだよ」
ルードが口を尖らした。
「でも、本当に男爵家、しかも貧乏男爵家出身だから……」
「だめっ!! 私たちのお母さまなの!」
リアも口を尖らした。
「そうね……あなたたちの気持ちが嬉しいわ」
「「でも」」
今度こそ二人は涙目になった。
あまりに切なげなその表情に、メリッサまで胸が締め付けられるように思えた。
「「でもメリッサは本当のお母さまじゃない……?」」
メリッサは返す言葉がなかった。
だから行動で示すしかなかった。
そして、ただ双子を強く抱き締め、答えを探した。結論は一つだ。だって、メリッサにとって二人は大切な……子どもたちなのだ。
「答えなんて一つしかない。あなたたちは私の命より大事な……子どもたちよ」
「「本当に」」
「本当よ!」
「「じゃあ今日からメリッサは本当のお母さまだよね? ねえ、お父さま!」」
双子はニッコリと笑い、フェリオに視線を向けた。
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