雨に濡れた薔薇とガゼボ
庭の中心部に置かれたガゼボでは、四人の老婦人が紅茶を飲んでいた。
四人と向かい合うようにルードとリアが椅子に座り、やはり優雅に紅茶を飲んでいた。
雨に濡れる薔薇の庭園とガゼボ……そこでお茶会をする老婦人たちと双子。
物語の始まりを感じるような光景だ。
双子がこちらに視線を向ける、二人が笑みを浮かべると雨は急速に止んで空には虹が架かった。
「――なんて美しいの」
「やはり、二人の仕業か」
「……っ、ここまでの、魔法?」
メリッサとフェリオ、同じ光景を見ながら一番に思ったことは違ったようだ。
しかし、フェリオの言葉を聞いたメリッサは目を見開くと、ガゼボに駆け寄った。
「ルード、リア! こんな魔法の使い方をして体は大丈夫なの!? 熱は出ていないの……!?」
メリッサは双子に駆け寄って、それぞれの額に手を置いて、熱がないことを確認するとホッと息を吐いた。無茶な魔法の行使はときに命にすら関わるのだ。
「――大丈夫みたいね」
心から安堵したような表情を浮かべた後、メリッサはこの庭が誰の者であるか気がつき、慌てて老婦人たちに向き直って礼をした。
「礼儀を欠いた行動――どうかお許しくださいませ」
「――どうか妻をお許しください。それから、姪と甥をお茶会にお招きいただきありがとうございます」
「構わないわ……だって、そもそもこの状態を引き起こしたのは、孫とひ孫たちが原因だもの」
「え……?」
第八王女は国王の末の妹だ。つまり、王太后の孫に当たる。
そしてひ孫は国王の子どもたち……つまり、これからこの国を担う者たちだ。
「子どもは成長で化ける可能性があるけれど、現時点で誰を擁立するか一つの答えが出たわね」
王太后はそう言って紅茶を一口飲んで微笑んだが、その笑みは空恐ろしいものだった。
その横で三人の侍女たちはニコニコと微笑むばかりだ……。
「――第一王子は浅慮。第三王子は周りが見えていない。まあ、二人とも幼いから挽回の余地はあるけれど……アンナーティアは年齢のわりに幼すぎる」
「……」
「あら、お茶会に招いておいて失礼したわ。ほらほら、ロイフォルト伯爵もそんな怖い顔をしないのよ? 取って食ったりしないから」
そう言うと王太后は、小さなため息をついた。
「それにしても……恐ろしいほどの魔力。さすがロイフォルト家の直系」
「お褒めにあずかり光栄です」
「ありがたきお言葉」
ルードとリアはそう言ってにっこり微笑んだ。
今すぐ一流の画家を呼んできたいような美しい双子の笑顔――しかしそれは、完全によそ行きのものだ。しかもなぜか双子はとても怒っている……三年の付き合いから、メリッサにはそのことがわかった。
「何があったの……?」
「「……」」
「まあまあ、ロイフォルト夫人、そちらの席に座りなさい」
「――恐れ入ります」
声を掛けた途端、双子のアイスブルーの瞳は見る間に潤んだ。
メリッサは何があったのかと気をもみながら、二人の隣の席に腰掛けた。
「奥様、どうか坊ちゃんとお嬢様を叱らないであげてくださいませね」
「マーサ……」
王太后の隣から立ち上がり、マーサが双子のそばに寄った。
「――どちらが悪かったかは明らかですわ」
「メアリー」
メアリーがマーサに倣って双子のそばに寄る。
双子と王子や王女の間で、何かがあったようだ。
しかし、王族が相手となれば善も悪となる。今回は王太后がこちら側に立っているとはいえ……メリッサの心中は穏やかではない。
「危ないところでした」
「ダリア?」
「坊ちゃんとお嬢様が行動しなければ、私こそ若き日のように……」
「よくわからないけれど、それは自重したほうが良い気がするの」
「……奥様の仰せのままに」
三人とメリッサの会話を聞いていた王太后が、楽しそうな笑い声を上げた。
「ほほ……まさか、三人がここまで夫人に心酔するとは思ってもみなかったわ」
「王太后陛下……恐れながら」
フェリオは席には着かず、メリッサと双子の後ろに立っている。
しかし、その声は冷たい刃のようだった。
「ええ、申し訳なかったわ。ここまで慕われている夫人を蔑むようなことを言うなんて……本当に周囲が見えず愚かなこと」
王太后は立ち上がり、優雅にドレスの裾をつまんで軽く礼をした。
「私の顔を立てて、お許しくださいな」
「――状況を伺ってからです」
「まあ、そうね。ロイフォルト伯爵が本気になれば王国などあってないようなもの。本当に……恐ろしいこと」
そう言いながらも王太后は余裕の笑みを浮かべる。
メリッサはピリピリとした空気の中、生きた心地がしないのだった。
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