二人の時間に魔法を掛けて
曲が落ち着いたものから可愛らしく元気な印象のものへと変わる。
子どもたちが次々と輪の中に入ってダンスを始めた。
「――踊っていただけますか? リア」
「ええ、もちろんよ。ルード」
二人はおしゃまに微笑み合って、輪の中で踊り始めた。
今日のために練習してきたにしてもたどたどしい子どもたちの踊りの中、ルードとリアだけが完璧で、周囲の視線を一身に集める。
「すごいわ……」
「――俺たちも踊ろうか」
「そうですね。あの、人前で踊るのは三年ぶりなのですが」
あんな風に踊れずにフェリオに恥をかかせるかもしれない。
メリッサが不安げに見上げると、フェリオが余裕の表情を見せた。
「――はは、俺も君と踊って以来三年ぶりだ。では、三年ぶりに君と踊る栄誉をいただけますか?」
「フェリオ様……」
二人で失敗してしまう可能性があるのだから、本来は不安に思うべきなのだろう。
けれどメリッサは、そう言って悪戯っぽく笑ったフェリオの表情に見蕩れたあと、笑顔になった。
「三年ぶりではあるが、今回も君に恥をかかせることはないと約束しよう」
「――え?」
手を引かれ、抱き合うほどの距離に引き寄せられた。
あまりに近い距離にメリッサが頬を赤らめながら見上げると、金色の目が弧を描く。
ふわり、ふわりと体重がなくなってしまったようだ。
そのリードは、人前で踊ったことがないなんて嘘ではないかと思うほど完璧だ。
フェリオに導かれるようにクルリとターンすれば、ドレスの裾がふんわり膨らんで、金色のビーズが会場の明かりに煌めいた。
「まるで、魔法に掛かったみたい」
「それはそうだろう。魔法を使っているのだから」
「――え?」
その直後、メリッサはバランスを崩した。
しかし、フェリオは彼女を完全に支え、強く引き寄せ、もう一度クルリとターンした。
周囲からは二人が完璧にダンスを終えたように見えただろう。
「ありがとうございます」
「当然のことだ。だが、今回は魔法など使わなくても、君のダンスは完璧だったな……。結婚式のあとの披露宴で一曲だけ踊ったときとはまるで別人だ」
「――あのときも、魔法で助けてくださっていたのですね」
フェリオの遠征が差し迫っていたため短時間だけ行われた披露宴で、メリッサとフェリオはダンスを踊った。
男爵令嬢としてダンスの基本は習っていたが、人前で踊ったことがないメリッサは、フェリオのリードでなんとか踊りきった。
周囲からは素晴らしいダンスの腕前だと褒められたが、メリッサ自身はフェリオのおかげだということを理解していた。
だから、この三年間、ダンスの練習は一生懸命したつもりだ。
周囲から拍手が沸き起こった。
会場の端、ルードとリアもダンスを終えて向かい合って礼をしている。
その可愛らしさに、メリッサは思わず笑顔になって二人の可愛さを話そうとフェリオに視線を戻した。
――フェリオはメリッサだけを見つめていた。メリッサの心臓がドキリと音を立て、次いで早鐘を打ち始めた。
「周囲が君の笑顔に見惚れている――あまり見せたくないな」
「まあ……フェリオ様が素敵だから見ているのですよ」
「君は――ああ、二人きりの時間もここまでか」
フェリオが軽く眉根を寄せそう口にした直後、メリッサはグイッと引き寄せられた。
そこで気がつく、フェリオの笑みがよそ行きのものに変わったことを。
フェリオの視線の先にメリッサも目を向ける。そこには第八王女……そしてその横には豪華な衣装を身にまとった老齢の貴婦人が立っていた。
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