お揃いの盛装
――ドレスを着ると、まるで違った自分になるようだ、とメリッサは思った。
「まあ……なんてお美しいのでしょう」
いつもより大人びた化粧をメリッサに施したマーサが感嘆の声を上げる。
「このドレスをここまで着こなせるのは、きっと奥様だけですわ」
ドレスのリボンを整え終わったメアリーが嬉しそうに言う。
「これは困りましたね……」
「どうしたの? ダリア」
それなのにダリアは困り顔だ。
何か問題があったのかとメリッサが心配していると、ダリアは頬に手を当ててコテンと首をかしげた。
「これでは、会場中の令息たちが恋に落ちてしまいますわ」
「……」
「「「確かに……これは大変なことをしてしまったかもしれません」」」
誰一人恋になんて落ちないわ!? と思いつつ、メリッサがスンッと表情を消して三人になんて言えば良いのかと困惑していると、バタバタという足音が聞こえてきた。
「「おはようー!! わぁっ、お姫様がいる!!」」
双子はそのままメリッサの目の前まで走り寄ってきた。
そして、キラキラとアイスブルーの瞳を輝かせてメリッサを見上げた。
「僕……メリッサをお嫁さんにする」
ルードが真剣な表情を浮かべ、決意を込めた告白を口にする。
「もう……ルード! メリッサは、叔父さまのお嫁さんよ!」
「叔父さま……ズルい!!」
「気持ちはわかるけど……ところでどこに行くの?」
ルードを軽く窘めたリアが、アイスブルーの目をスッと細めた。
「フェリオ様たちの活躍で魔獣との戦いに勝利したから、そのお祝いのパーティーへ行くのよ」
「「一緒に行く!!」」
双子たちは気合いを込めて叫んだ。
普段であれば止めなければならない事態だが、今回国王陛下は双子のことも招待しているのだという。
もちろん双子もお城のパーティーに行くのだ。
「「「坊ちゃま、お嬢様」」」
「「やだ! 行く!」」
「「「ええ、お二人も行くのですよ」」」
「「……本当に?」」
双子はそれはそれで予想外、という顔をした。
「さあ、まずは坊ちゃんからですよ」
「……ほんとに?」
ルードはマーサに捕獲されるように連れ去られていった。
「さてさて、お嬢様はこちらにいらしてくださいね~」
「え、お留守番じゃないの?」
リアはメアリーとダリアに捕獲されるように連れ去られていった。
五人が去ると、部屋の中は急に静まり返る。
「はあ……嵐が去ったように思えてしまうわ」
そのとき、ふいにメリッサの背後に人影が現れる。
「おめでとうございます。奥様」
「きゃ!?」
振り返ると、メリッサと同じくらいの背丈の老紳士が目の前にいた。
彼は柔和な顔つきをして、背筋をしゃんっと伸ばしている。
――そう、彼こそが存在はしていても忙しすぎるために滅多に行き会うことがないこの屋敷の幻の執事長セバスチャンだ。
「セバスチャン……極秘事項のやり取りがあると言ってたけれど……終わったの?」
「ええ、滞りなく。今日この日ばかりは奥様と坊ちゃん、お嬢様を送らせていただかねばなりませんので最速で片付けて参りました」
「――ふふ、セバスチャンに教わったことを活かせるように頑張るわね」
セバスチャンは時々メリッサの前に現れては、この国の貴族家のことや国の機関同士の関係、各領の繋がりや物流……さらには、貴族たちの弱みまで教えてくれた。
しかし、それを終えるといつの間にか姿を消してしまう。
それでいて、屋敷内や領内の書類や手続きは滞りなく行われているのだ。
謎多き執事――それがセバスチャンなのである。
しかし今日はそんな彼は、執事長らしくメリッサたちを見送ってくれるらしい。
* * *
しばらくすると、めかし込んだルードとリアが現れた。
リアは銀色の髪をサイドに流し、白い薔薇の花の髪飾りをつけている。髪型までメリッサとお揃いだ。
ドレスの色は瞳の色と同じアイスブルーだが、白いレースでふんだんに飾り付けられているため可愛らしい印象だ。
ドレスのスカート部分の刺繍は金色で、やはりメリッサとお揃いの意匠だ。
ルードは膝が隠れるズボンの盛装姿だ。アイスブルーと白を基調にしているため、とても上品でまるでおとぎ話の中から飛び出してきたように可愛らしい。ジャケットの袖口と襟部分に控えめにほどこされた金色の刺繍はやはりロイフォルト家の家紋をモチーフにしている。
「ほら、リア」
「ええ、ルード」
ルードが手を差し出すと、慣れた様子でリアがエスコートされる。
二人の動きは洗練されていて大人びているにもかかわらず、背伸びしている感があってあまりにも可愛らしい。
「可愛すぎる。二人が攫われないように細心の注意を払わなくては」
メリッサは本心からそう思い、口にした。会場の視線はすべて二人に集まることは想像に難くない。
「「「大丈夫でございます。私どもが御守りします故」」」
振り返ると、装飾が少ないが上品なドレス姿の侍女たちが三人の後ろから現れた。
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