社交界と侍女たちの活躍 1
「「「ひとまず」」」
三人は揃って優雅に微笑んだ。
しかし、その眼光は鋭く何かを決意しているようだった。
メリッサの喉が、知らず知らずゴクリと音を立てる。
「本日はごゆるりとお過ごしくださいませ」
マーサは優雅に微笑んだ。メリッサは慌てる。
「え? 私も準備を……」
「ご心配なく。明日は緊張の連続でしょうから」
メアリーの微笑みは今日も慈愛に満ちている。相手を納得させてしまう笑みだ。
「――でも」
「戦う前に休息を取り最大限の結果を出す――優秀な戦士としての基礎でございます」
ダリアはまるで戦場に向かう直前の戦士みたいな顔をしてそう言った。
「え、え? 戦士!?」
話が大幅にずれているような気がしたが、ここは三人の言うとおりにした方が良いだろう。
なんせメリッサは貧乏子だくさん男爵家の生まれなので、社交界とはほど遠い生活をしてきたのだ。
貴族が全員参加する夜会も、弟や妹がいるので子どもが小さい貴族向けの特例を使用してご遠慮させていただけるように申し出て許可を得ていたくらいだ。
ロイフォルト伯爵家に嫁いできてからも、三歳の双子を連れて参加するわけに行かなかった。それに不慣れな場所に一人で参加して失敗したらロイフォルト伯爵家に、フェリオに迷惑を掛けると思って、やはり特例を使い辞退していた。
「私……社交界デビューの日以来、大きな夜会や宴に参加したことがないのですが」
「――問題ありません。この三年間の努力の成果を皆に見せて差し上げましょう」
「三年間……」
メリッサはマーサの言葉に、フェリオ不在のこの三年間を振り返った。
双子の家庭教師として訪れた教師たちは、誰も彼も親切に本来の仕事ではないにもかかわらずメリッサに教えてくれた。
いつも忙しくて姿を現すことがない穏やかで小さくて可愛いおじいちゃん執事長も、ごく稀に現れてはメリッサに領地の管理や文書の確認方法を教えてくれたし、日々のマナーは侍女たちが教えてくれていた。
この三年間、メリッサは本当にがんばったのだ。
「とはいえ、失敗してしまったら」
「――私たちの奥様は、社交界で一番光り輝くお方になります。そのようにサポートいたします」
「サポート?」
メアリーの言葉にメリッサは首をかしげた。
メリッサ自身は社交界で壁の花になる未来しか浮かばないのだが……。
「ああ、少しだけ惜しいですね」
「ダリア? 何が惜しいというの」
「私たちだけの美しく聡明でお優しくて上品で白い薔薇の花のように可憐でキュートな奥様が、周囲から認められていく……いいえ、後方侍女面をしてそれを見るのも素敵ですね」
「こうほう……え? なに? それに誰の話をしているの?」
「自覚がないのもまた愛らしい……私たちの奥様を我らは永遠に推し続けます」
メリッサにはよくわからない話になってきたが、ここまでの熱意を持っているのであれば三人にお任せした方が良いのかもしれない。
三人はスクラムを組んで気合いを入れている。
「――あの三人にここまで認められるとは、ロイフォルト夫人は底が知れないな」
「あの三人って……?」
「ああ、それは」
「「「ディグムート様、奥様は坊ちゃんとお嬢様がお昼寝から目を覚まされるまで、図書室で過ごされるのが日課です。護衛をお願いいたしますわ」」」
「――殺気」
「「「まあ、何を仰っていらっしゃいますの?」」」
「……承知した」
ディグムートにエスコートされ、メリッサはもう一度三人の様子を見ようと振り返る。
しかしすでに三人は、ものすごいスピードで分散して走り出しているところだった。
そのあと、ルードとリアが目覚めるまでメリッサは図書室で夜会の作法の本を読んでおさらいして過ごしたのだった。
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