家に入れてもらえない夫
ロイフォルト伯爵家には、侍女が家格に相応しい数いない。
隠された事情ではあるが、フェリオの兄夫婦の死には不審な点が多かったのだという。
ルードとリアを守る意味でも、本当に信頼の置ける使用人を除き解雇されてしまったのだ。
その後、女主人が不在となったロイフォルト家には、メリッサが嫁いできてからも最低限の侍女しかいない。しかも皆、古くからロイフォルト家に仕えているため高齢なのだ。
侍女たちは皆、上品で親切で、男爵家の令嬢だからとメリッサを軽く見ることもなく、どちらかと言えば孫のように大事にしてくれる。ルードとリアに対する態度など完全にひ孫に対するものだ。
しかし元気すぎる双子を相手にしているうちに侍女たちは皆、腰を痛めてしまった。
執事長からは必要な人数を雇ってよいとフェリオに言われていると聞いているが、メリッサが信頼置ける侍女を一人で選ぶことは難しいし、相談したものの手紙の返事がなかったのだ。
そんなわけで、伯爵夫人でありながらメリッサは子どもたちの世話全般を自分で行っていた。
「ほら、あなたたち、早くバスタブにつかってちょうだい!」
「「はーい」」
貧乏なカレント男爵家では、妹と弟の世話は長女であるメリッサも手伝っていた。
むしろこの三年間、可愛い双子の世話をすることを生きがいにしてきた。
双子は大人しくバスタブにつかった。
悪戯好きでやんちゃな二人だが、一つ一つの行動はメリッサが見習いたいくらい高貴な印象だ。
二人の教育は、現国王陛下へも教えたことがある有能で身元確かな家庭教師たちが行っている。ルードもリアもとても優秀だ。そして、メリッサも一緒になって彼らに教えを請うた。
カレント男爵家とロイフォルト伯爵家では、教育水準も住む世界も違いすぎる。
それでも大人向けの内容で、三年間双子と一緒に学んで、メリッサも家庭教師たちから合格点をもらえるようになった。
たった一つ問題があるとすれば、メリッサが主に育てたため、ルードとリアが少々やんちゃになってしまったことくらいだろう。
「それにしても、フェリオ様の帰り……遅いわね」
フェリオがどのくらいの時間に帰ってくるのかはわからない。
責任ある地位にいるのだから、戦後の処理で忙しくしているのだろうが……。
結婚式の直後に旅立ったのだ、もしもメリッサに興味があればなんとか帰ってくるだろう。
お風呂に入って食事をしたあと、慣れないお出掛けに疲れたのか双子はいつもより早くベッドに潜り込んでいる。
三歳の頃は寂しがってメリッサと一緒に寝たがったが、今はもう二人で眠れるようになった。
「来年には二人とも王立学園に入学する……私がいなくなっても大丈夫ね」
そう呟いて窓の外を見ると、灯りが一つこちらに近づいてくるのが見えた。
「フェリオ様がお帰りになったみたい」
メリッサは立ち上がると、出迎えのため玄関へと向かった。
二人の今後について、大事な話をしなくてはいけないのだ。
――もちろんメリッサはフェリオを困らせるつもりなどない。
メリッサの弟妹たちは、ロイフォルト伯爵家の支援のおかげで全員が王立学園を卒業することができた。これからは、それぞれの道を進んでいくことだろう。むしろ、フェリオには感謝しているくらいなのだ。
そんなことを思いながら階段を降りて、玄関ホールに向かう。
「フェリオ様!?」
ランタンの明かりに照らされたフェリオは、困惑した表情を浮かべていた。
つる薔薇が通せんぼするように絡まっていて、フェリオは屋敷に入ることができないようだ。
「何が起こるかわからないから、近づかないように」
驚いてそばに寄ろうとしたメリッサを、フェリオが制した。
そこに眠っていたはずの双子が現れる。二人は交互に叫んだ。
「叔父さまが帰ってきたら、メリッサが出て行っちゃう!」
「そんなのダメダメ! 叔父さま、おうちに入ってきちゃダメ!」
「――メリッサが、出て行く?」
フェリオの声は、予想外の言葉を聞いたような響きを帯びていた。
しかし双子は興奮したまま言葉を続ける。
「メリッサは僕たちとずっと一緒にいるんだ!」
「私たちからメリッサまで取らないで!」
ルードが手を上げるとつる薔薇がグニャグニャと動いた。
ロイフェルト家に生まれた者は皆、魔力が強く、ルードは土魔法が得意なのだ。
リアが手を上げると、滝のような水がフェリオの頭上から流れ落ちた。
やはりロイフェルト家に生まれた者らしく、リアは水魔法が得意なのだ。
ちなみに、メリッサは魔法は全く使えない。
しかし、二人はまだ子どもなので、魔力制御が得意ではない。
扉を塞いでいたつる薔薇は急速に大きく育ち、水は玄関ホールとメリッサまで水浸しにしたのだった。
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