双子と騎士団長
「「ラランテス先生は〜?」」
起きてきた双子は早速ラランテスを探していたようだ。
「もうお帰りになったわ」
「「えー。また来てくれる?」」
「ええ、またいらっしゃるわよ」
「「そう…………。えっ、ディグムート卿!?」」
ルードとリアは二人揃って肩を落としたが、ディグムートに気がつくとすぐにぽかんと口を開けた。
そしてお揃いのアイスブルーの瞳をキラキラ輝かせ彼に駆け寄る。
「やあ、はじめまして。しかし、ロイフォルト殿が二人のことを語るときだけは饒舌だったから、以前から知っていたように思えるな」
「「叔父さまと知り合いなのっ!?」」
「もちろん、一緒に戦う仲間だよ。君たちの叔父さんには何度も命を助けられた」
魔術師団長と騎士団長なのだ。面識があるだろうし、お互い命を救い合ってもなんらおかしくはない。
しかし、自分の身内ではない英雄を初めて見たルードとリアはその言葉に驚いた、とでも言うように顔を見合わせた。
「でも、叔父さまって僕たちに甘くて魔術師団長大丈夫かなって思うし」
「お人好しでだまされちゃうんじゃないかなって思うの」
「君たち相手にはそうなのか、愛されているのだな」
ディグムートは普段のフェリオとの違いに戸惑ったかもしれない。しかし双子の前ではそんなことおくびにも出さなかった。
ルードとリアはキラキラした瞳をディグムートに向けてにじり寄った。
「戦場の話を聞かせてほしいです!」
「竜を一人で倒したって本当!?」
「竜はロイフォルト殿と一緒に倒したんだよ」
「「叔父さまと!?」」
「彼は自慢話をしないのか。まあ、彼らしいと言えば彼らしいか」
フェリオ様は確かに自慢話をすることはない。双子もそう言った意味ではまだフェリオとの距離感を測りかねているところがあった。
「ふーん……では、俺の話より君たちの叔父さんがどれほどすごいか教えてやろう」
「「聞きたい!!」」
双子が身を乗り出すと、ディグムート卿は二人まとめてヒョイッと抱き上げた。
メリッサも密かに、フェリオの話が聞きたいな、と思った。
口に出せずにいると、ディグムート卿がニヤリと口の端をつり上げた。
「おや、奥方とはほとんど面識がないから興味を持たれていないと思う、とロイフォルト殿は戦場で言っていたがそんなこともなさそうだ」
「……え?」
「よし、ロイフォルト殿の話をするぞ。ところで、夫人も一緒に話などいかがですか?」
「お茶とお菓子を用意して参りますね!!」
メリッサは慌ててお茶の用意をするため駆け出そうとした。
しかしそこに、ティーセットとケーキスタンドを持った侍女たちが楚々と現れる。
「「「あちらにお席を用意しておりますわ」」」
侍女たちはよそ行きの笑顔でディグムートに微笑みかけた。
「「「私どもはディグムート様を心から歓迎いたします」」」
「ああ、なるほど。とびっきりの話をするとしよう」
「「「まあまあ、素晴らしいこと」」」
ディグムートは話し上手だった。
双子はキラキラ目を輝かせ、フェリオのことをますます尊敬したし、メリッサもフェリオのことを今まで以上に格好いいと思った。
「ロイフォルト殿が全属性の魔法の鎖を出し、竜の動きを留めている間に俺がとどめを刺したんだ」
「「「わああ……!!」」」
メリッサと双子の声が完全に重なった。
ディグムートの話の中のフェリオは、黒い狼の王のように冷たく厳しい孤高の存在だ。
しかし、違う人のようでありながら、弱き者に見せる優しさは屋敷での彼の優しさと同じで、英雄フェリオ・ロイフォルトやはり三人の知るフェリオなのだった。
「「叔父さま格好いい!!」」
「はは、そうだろう、そうだろう」
けれどメリッサはやはりほんの少しだけ、自分とフェリオは釣り合わないのではないか、とも思った。
双子ははしゃぎにはしゃいだせいか、昼ご飯の後すぐにお昼寝してしまった。
静かになった食堂でコーヒーを飲みながら、ディグムートが焦げ茶の瞳をメリッサに向ける。
「夫人は何か言いたいことがあるようだ。もしや、ロイフォルト殿とご自分が釣り合わないなどと思っておられるのか?」
「なぜおわかりに……」
「これでも騎士団長なのでね、人を心の機微は理解しているつもりだ。しかし、ロイフォルト殿が生き延びたのは夫人のお陰だろう」
「えっ……?」
以前フェリオもそんなことを言っていたが、メリッサはそんなはずないと思う。
「少しだけ、俺の知るロイフォルト殿の話をしようか……そうだな、彼は兄夫婦を守れなかったときから死に場所を探しているように見えることがあった」
「……フェリオ様が」
「もちろん遺された二人のことを守るために生き延びようと思ってはいたようだが……彼が変わっていったのは、夫人との結婚のあと、そして手紙が届くようになってからだ」
ディグムートは朗らかに笑った。
メリッサは涙腺が緩みかけるのを感じながら、その話の続きを聞こうとした。
しかし、ディグムートは急に何かを思い出したように席を立った。
「すまない、聞かねばならないと思いながらすっかり忘れていた」
「どうなさったのですか?」
メリッサが何ごとかと驚いていると、彼は一通の封筒を取り出した。
「――ロイフォルト殿から、戦勝祝の宴についての話は聞いているか?」
「え?」
「はあ、その様子ではやはり聞いていないようだな。陛下から夫人と双子も連れてくるようにお言葉を賜っているというのに。危険があると心配してのことか……」
陛下からのお言葉を無下にするなど許されるはずがない。メリッサは慌てた。
「いつなのですか?」
「――明日だ」
「……そ、そんな!」
今さら三人分の戦勝記念のパーティーに相応しい盛装を用意するのは難しいだろう。
しかも服装は魔術師団の正装を着るであろうフェリオに合わせる必要がある。
「「「我らにお任せください」」」
そのとき、侍女たちの自信に満ちた声が高々と食堂に響き渡った。
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