双子からの手紙 7
氷がカランッとフェリオのグラスの中で小気味よい音を立てる。
メリッサもカラカラッと軽くグラスを揺らしてみた。
先ほど作ってもらったお酒はまだ半分以上残っている。
それにしても、メリッサはお酒に強いほうではないようだ。だって、物憂げなフェリオを見つめているうちに、どんどん頬が熱くなってくるのだから。
黙り込んでいたフェリオが、金色の瞳をメリッサに向け、口を開いた。
「……しかし、まさかルードとリアが陛下にまで手紙を送るとは思わなかった」
「陛下に……!?」
いくらフェリオが英雄で魔術師団長であり陛下の覚えめでたいからといってそれは許される事なのだろうか。いや、不敬だと罰せられても仕方がないことだろう。
「――子どもだけのお茶会に参加したとき、陛下に手紙を差し上げる約束をしたそうだ。そのとき、願いを書けば叶えてやると話したと仰っていた」
「まあ、陛下がそんなことを仰ったのですか?」
王城に六歳になった貴族の子どもたちが集められ、お茶会が開催されたのは三ヶ月ほど前のことだ。
それは子どもたちにとって、王立学園に入学する前の顔合わせでもあり、一つの社交デビューでもある。
二人お揃いの黒い盛装に身を包んだルードとリアはとても愛らしかった。
「でも、二人はどうやって陛下に手紙を?」
「……あの三人であれば可能だろう」
フェリオは明言を避けたが、メリッサにとってあの三人と言われて思い浮かぶ三人組が困ったことに一組しかいない。
しかし、しょっちゅう腰を痛めている老齢の侍女三人がそんなことできるだろうか。
できる気がする、むしろ腰が痛いのもそんな無茶ばかりしているからという気すらする、とメリッサは思った――だって三人はメリッサより走るのが速いのだから。
フェリオはメリッサの様子を見つめ、今度は重々しく話し始める。
「……そして魔術精霊主義者についてだが、調査の結果を見るにやはり今回のことに関連があるようだ」
「手紙が届かなかった件について、ですか?」
「ああ――それに俺の兄夫婦は馬車の事故で亡くなったが、不審な点がいくつかある」
「まさか」
「……」
フェリオはそれ以上は口にせず、グラスを傾けて空にした。
「――さて、そろそろ寝るか」
「はい」
「そういえば、君のベッドは」
「大破しておりました」
「ふう、やるとなったら徹底的だな……」
フェリオが手を差しだした。
メリッサは少し震えながらその手に自分の手を重ねた。
「心配するな。君の心が本当にこちらに向くまで何もしない」
「私の心は……」
「無理に返答する必要はない。君のことは大切に守ると決めているからな」
「フェリオ様……」
メリッサはもうフェリオのことが好きだ。素敵な人だと思うし尊敬している。
けれどまだ、その言葉の続きを見つけられずにいる。十八歳から二一歳、三年の空白はきっと長すぎたのだ。
足下がフワフワする、と思いながらメリッサはフェリオに手を引かれ廊下を歩んだ。
――たぶん、メリッサはお酒に弱いのだ。
ベッドに寝かされ、そっと頭を撫でられる心地よさに、あっという間に夢の中に落ちていく。
「愛している」
そんな声が聞こえた気がしたが、それはメリッサの都合の良い夢の中で聞いた言葉だったのかもしれない。
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