双子からの手紙 6
「二人ともこんな夜中にどうしたの?」
二人分くらい距離が離れた状態で、メリッサはソワソワと口を開いた。
ルードとリアはその様子に気がつくことなく満面の笑みで駆け込んでくる。
「目が覚めたらメリッサいないから」
「叔父さまが帰ってきたのかなって!」
ルードが差し出したのは、巻いた紙――もちろん手紙だろう。
リアが差し出したのはハンカチ――刺繍らしきものがあるがむしろ運針の練習だ。
「「はい、どうぞ!!」」
なぜかフェリオはすぐに受け取らず躊躇っているようだ。
「「……叔父さま?」」
不安そうな双子の様子に耐えきれず、メリッサはフェリオの上衣の裾をちょんちょんっと引いた。
フェリオは呆然としたまま二人から手紙とハンカチを受け取った。
「叔父さま、手紙読んでっ!」
「叔父さま、刺繍がんばったの!」
二人は勉強が終わると何やら相談していた。そして早めに就寝した。
二人はフェリオが帰ってくると確信していたようだ。
「「早く早く!!」」
「ありがとう……」
フェリオはまずハンカチを開いた。
「糸と針が使えるようになったのか、リアすごいじゃないか」
「ふふんっ!!」
他に褒めようがない荒い縫い目だが、フェリオが褒めるとリアは自慢気に胸を張った。
「一生大事にする」
「これからもっと上手くなるわ!」
たぶん上手くなるだろう――リアと二人で刺繍するのは楽しそうだ、とメリッサは思う。
「手紙も開けてよ!!」
「ああ……」
フェリオはメリッサの瞳の色をしたリボンを解いて画用紙を開いた。
そして、しばらくの間じっと画用紙を眺めていた。
「覚えていたか」
「「叔父さまが帰ってくるの、ずっと待っていたんだよ!!」」
「すまない、預かってもらえるか」
「はい」
手渡された画用紙には、一緒に眠るフェリオとルード、リア三人の姿が描かれていた。
そこに文字はない。けれど三人とも仲が良さそうだ。
フェリオは双子に近づいてしゃがむと軽く両手を広げた。
二人は突進する勢いでフェリオの腕の中に飛びこんだ。
ドスンッと鈍い音がしたが、鍛えているフェリオには余裕だったのだろう、難なく二人を受け止める。
「……」
メリッサは邪魔をしてはいけないと退室しようとした。けれどその前に双子は顔だけ振り返り、アイスブルーの瞳をメリッサに向けた。
「「メリッサもおいでよ」」
「えっ?」
フェリオはメリッサに視線を向けてほんの少しだけ困惑した表情を浮かべたが、すぐに軽く首を傾げて微笑み「おいで」と言った。
メリッサは双子を後ろから抱き締めるように三人のそばに寄った。
その上から三人を守るようにフェリオが抱き締めてくる。
「「温かいね!!」」
「ああ、温かいな」
「「このままみんなで寝ようよ」」
「……ふふ、それは」
そのとき、閉じかけていた扉がバタンッと開いた。
「「「坊っちゃん、お嬢さま、それはなりません!!」」」
「マーサ、メアリー、ダリア!?」
いったいどこから聞いていたのだろう。
部屋に入ってきた三人の目は明らかに赤い。
双子がいなくなったから探していたのだろう――メリッサはそう思うことにした。
「家族愛、それは一時の燃えるような愛より消えにくく信頼できるものやもしれません」
「故に我ら、黙って見守るつもりでした」
「しかし、お二人はまだ一線すら越えておりません」
三人の語りには熱が籠もっている。
メリッサの頬は知らず赤くなった。
「「そうなの-? でも、二人の邪魔しちゃ悪いよね」」
「「「左様でございます!!」」」
侍女たちに連れられて、ルードとリアはあくびをしながら去って行く。
「もう少しだけ飲むか」
「そ、そうですね」
メリッサとフェリオはなんとも微妙な空気のまま、執務室に取り残されるのだった。
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