双子からの手紙 3
メリッサはベッドに横たわり枕を抱き締めた。
――本当に自分らしくないな、と思いながら。
フェリオが帰還し、手紙に関する誤解も解けたことで、メリッサにもようやく自分のことを振り返る時間ができたのかもしれない。
十八歳でこのロイフォルト伯爵家に嫁いできてからは毎日無我夢中だったから。
「でも、これ以上思い悩んでいたらルードとリアが心配するわね」
いつも朗らかでそれでいて貴族然としたところもある二人は聡い。しかし、この三日間メリッサが普段と違うことに気がついていながら、どうしていいかわからないようだった。
心配なことはまだたくさんある。フェリオだけでなくメリッサの手紙まで消えてしまったこと、そして第八王女について……。
それに、メリッサのフェリオに対する気持ちもあやふやだ
自分の身を顧みずに誰かを助けようとする彼のことが心配だ。しかしもう一つ、メリッサの心の奥底には、まだ名前を付けられない気持ちが芽生えつつあるようだ。
メリッサは自分の気持ちを持て余していた――しかし、だからといって双子にまで心配をかけてしまうなんて、自分らしくない、とも思う。
「……うん、今日からいつも通りがんばろう!」
メリッサはガバリと起き上がる。そこで、部屋の扉がほんの少しだけ開いていることに気がついた。
ドアの隙間からは、チラリ、チラリと銀色の三つ編みが覗いている。それから小さな足も。
「ルード、リア?」
扉に近づいてそっと隙間から顔を出すと、後ろ手に何かを隠した双子がいた。
「どうしたの?」
メリッサはいつものようにニッコリと微笑んだ。双子は緊張したように少々硬い表情をしていたが、メリッサの笑顔を見ると嬉しそうに笑ってすり寄ってきた。
上から見ればルードの手にはコスモスのブーケ、リアの手には筒状に巻かれた紙が握られている。
コスモスの花言葉は『家族の調和』だったわね……と、ピンクや紫の可愛らしい花を見つめながらメリッサは思った。
「「どうぞ……っ!!」」
二人は勢い良く花束と筒状の紙を差し出してきた。
花と紙にはメリッサの瞳の色をしたリボンが蝶々結びされている。
「まあ、もしかして私に?」
「「そうだよ」」
「……っ、嬉しいわ。お部屋で見ても良いかしら?」
「「うん!!」」
メリッサは部屋へと戻る、そこで振り返った。
「あなたたちもいらっしゃい。せっかくだからコスモスを飾る花瓶を選んでほしいの」
「「……っ、うん!!」」
ルードとリアは満面の笑みを浮かべパタパタと部屋に駆け込んできた。
メリッサはいくつか花瓶を用意し、二人が真剣に選ぶ姿をニコニコ眺め、そして紙を開いた。
「まあ……」
絵の中で、ルードとリアが手を繋いでいた。そしてルードと手を繋ぐメリッサ、リアと手を繋ぐフェリオが描かれていた。
メリッサの横には『お母さまいつもありがとう』とフェリオの横には『お父さま早く帰ってきて』と幼い文字で書かれていた。そして『だいすきだよ』とも。
双子は普段二人のことを『メリッサ』『叔父さま』と呼ぶ。
けれど絵の中の二人はメリッサとフェリオを父と母と呼び、本当の親子のように幸せそうに笑っている。
「ピンクがいいよ!」
「ううん、水色がいいよ!」
先ほどまで静まり返っていた部屋が、不意に騒がしくなった。
双子の意見は分かれてしまったらしい。
「ふふ、どちらも素敵だから花束を半分こにするのはどうかしら?」
「「そうする!!」」
二人は仲良く花束を半分こにし、それぞれの花瓶に飾ると嬉しそうに振り返った。しかし、メリッサの顔を見て目を見開く。
「「メリッサまで泣いちゃった!?」」
メリッサは、泣き笑いしたまま二人をギュウギュウと抱き締めた。
「「悲しいの?」」
「幸せでも涙が出るのよ」
「「ふーん」」
双子はメリッサに今度こそしがみついた。
そして少しの間身じろぎしていたが、軽く深呼吸して口を開いた。
「「せーの……お母さま、大好き!!」」
メリッサの瞳から今度こそ大粒の涙がこぼれ落ちる。
「っ、私もよ。ルード、リア、あなたたちのことが大好きよ」
その声は完全に鼻声だ。だが、この上なく嬉しそうでもある。
双子はそんなメリッサを見つめてから口を開いた。
「「……ねえ、叔父さまのことは?」」
それは子どもらしい無邪気な質問だっただろう。しかし、メリッサにとってはどう答えていいか迷ってしまうほど悩ましいものだった。
「「……叔父さま、嫌い?」」
「嫌いじゃないわ」
それは迷うことなく答えられる質問だ。そう、メリッサはフェリオを好ましく思っている。
「「じゃあ、好き?」」
「……そうね、好きみたい」
メリッサにとって、口に出したその答えは納得のいくものだった。
双子はわあっと盛り上がった。
その姿を見ながらメリッサも、絵の中のようにずっと一緒に四人で笑って過ごせたら良いな、と心から思うのだった。
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