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双子からの手紙 2


 扉を開けたその先で、三人の侍女が輪になって作戦会議をしていた。

 普段の上品で朗らかな印象から一転、三人の姿からはどこか闇の気配を感じる。


「……旦那様がお帰りにならないのは、此度の問題の解決のため」

「――いえ、またやんごとなきあの方が無理難題を突きつけているのやもしれません」

「あのお方は人使いが荒すぎます! お二人の幸せな日々のため我らが一肌脱ぐべきなのでは」


 双子は空気を読まずに三人にトコトコと近づいて笑顔を浮かべた。


「「何の話ー?」」


 三人の侍女の直前までの何かを企んでいるような顔から瞬時に上品な笑顔へと変わった。


「「「完成いたしましたか。おや、ずいぶん数が多いようですね」」」

「「うん!! 見てみて!!」」


 双子は先ほど巻いた画用紙のひとつを広げた。そこには三人の侍女が描かれていた。

 侍女たちは全員髪の毛が白く上品な笑顔を浮かべていた。

 三人は青空の下、洗濯物を干している。


「「「おやおや、まあまあ」」」


 三人は目をまん丸にした。そこには、三人の姿だけでなく日頃の感謝の言葉とともに『だいすき』と書かれていたのだ。


「まさか私たちの分まで。まあまあ、上手に書けてますわね……うっ、目にゴミが入ったようですわ」

「なんて可愛いのでしょう――こ、これは嬉し涙ですわ」

「く……この婆、一生お二人にお仕えする所存」

「「わーい!」」


 無邪気に喜ぶ双子を涙目で見つめる年老いた侍女三人……とても感動的な光景だ。

 しかし、ここで話は終わりはしないのだった。


「「……あのね、これを届けてほしい人がいるの」」

「どなたに届けるのですか?」


 マーサが質問すると、双子はニンマリと笑った。


「「それはね……」」


 三人の輪に双子が加わり、再び円陣が組まれた。


「まさか国王陛下に手紙を書かれるとは」


 メアリーが目を見開く。

 リアが頬に指を当ててコテンッと首をかしげた。


「先日、子どもだけのお茶会にいらっしゃったとき、絵を差し上げたらまた欲しいって仰っていたよ?」

「お嬢様……それは」


 珍しいことにいつも冷静なメアリーが動揺を見せる。

 ルードが自信ありげに胸を反らした。


「じゃあ手紙も書くねって言ったら『願いを書けば叶えてやろう』と笑ってた」

「仰ってたよねー!!」


 二人の言葉に三人は静まり返った。

 最初に口を開いたのはダリアだった。


「――届けましょう」


 こういった場面で一番度胸があって、周囲が驚くような行動に移るのがダリアなのだ。


「「「少々作戦会議させていただきます」」」

「「うん!」」


 双子は侍女たちが作戦会議をする様子を楽しそうに見つめた。

 たぶん、これは双子にとってはお遊びの一つで、侍女たちにとってはこの家の未来を左右するほどの出来事なのだ。


「……国王陛下に手紙を届けるとなるとあの方のお力を借りるしかありませんわね。しかし、あのお方に正攻法でいってものらりくらりと躱されるでしょう」

「情に訴えると? あの厳しいお方にそれが通じるでしょうか」

「意外と涙もろいですわよ……それに冷静沈着完璧に振る舞っても、子どもには弱いですわ」

「「「確かに!!」」」


 侍女たちの会話に出てくるお方の正体を知ったなら、彼女たちの不敬さに震えることだろう。

 しかし、侍女たちとあのお方は王立学園でかつて学友だったのだ――数十年前に。


 侍女たちは決意を固めた表情を浮かべて、ルードとリアの前にひざまずく。


「「「それでは早速行って参ります」」」

「「うむ、君たちに任せた」」

「「「我ら三人、必ずやお二人からの命を完遂してみせましょう」」」


 リアとルードも鷹揚な仕草で、頷いてみせる。

 侍女たちはさっそく出掛けていった。

 二人は侍女たちを見送ると、再び向き合った。


「これで、叔父さま帰ってくるかな?」

「帰ってくるよ! そうしたらメリッサも元気になるかな?」

「その前にこの手紙読んだらきっと元気になる」

「そうだね、絶対元気になるよ」

「「じゃあ、今度はメリッサに手紙を届けに行こう!」」


 二人は無邪気に笑い合うとフェリオの部屋……いや、今は夫婦の部屋へと走り出したのだった。

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― 新着の感想 ―
侍女さん達へのお手紙は予想できても国王陛下宛てまでは思いもつかなかったですね。 あのお方はどなたかな……この家の人間はみんな変なところで度胸があるのでは……?
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