手紙 1
双子は結局、クッキーを食べ過ぎて夕食が食べきれずフェリオに叱られた。
「――もしかして、血が繋がったフェリオ様が帰ってきたから、甘えているのかしら」
騎士や魔術師など遠征で長期間親が不在になる家では、親が帰ってきたときに子どもたちが一時的に赤ちゃん返りすることがあるという。
双子は今まで悪戯をすることはあっても控えめで、手のかからない子どもたちだった。
二人なりに血の繋がらないメリッサに遠慮があったのかもしれない。
「ねえ……どうして急にお風呂に入るのを手伝うようになったの?」
「――おわかりなのでは」
マーサの笑みは、まるで母のように優しい。
「初夜の準備……よね」
「その通りでございます」
メリッサはバスタブから出るとオイルを塗られ、再び良い香りのお粉をはたかれた。
「でも、一緒に寝るだけでしょう……?」
「まあ、奥様……ベルアメール夫人にお聞きにならなかったのですか?」
ベルアメール夫人は、双子に貴族社会の礼儀や作法を教えるために家庭教師として来ている。
伯爵夫人でもある彼女は、優しく穏やかで、双子の家庭教師の時間が終わるとメリッサと小さなお茶会を開いては、礼儀作法を教えてくれた。
「ベルアメール夫人には、貴族夫人としての夜の生活についてもお教えしてほしいとお願いしていたはずです」
「まあ……そんなことまで?」
「まさか」
マーサが軽く眉根を寄せた。
メリッサは首をかしげる。
「ベルアメール夫人は何と仰っていたのです?」
「お気に入りのネグリジェを着て、夫婦の部屋で一緒に寝ればわかるわ、と」
「坊ちゃ……いえ、旦那様相手にはそれでは少々押しが弱い!!」
メアリーが額に手を置いて天井を仰いだ。
押しとは……と不思議に思いながら、メリッサは再び首をかしげた。
「――いいえ、旦那様だってこんなに可愛いお姿を見れば」
メリッサは髪の毛を乾かされ、今日も可愛らしいネグリジェに着替えさせられた。
そして、枕を一つ押しつけられる。
「あの……私はルードとリアを育てるためにこの家に迎えられたのだと思うの」
「……なぜ、そう思われるのですか? 大体察しはついておりますが」
マーサが少しだけ気の毒そうな笑みを浮かべる。
「だって……手紙の返事もなかったし、そもそも最初からそう言われていますもの」
「――旦那様に聞いてみたのですか?」
メアリーがやはり眉尻を下げてそう言った。
「いいえ、まだ聞いていないわ」
「旦那様は、そこまで薄情なお方ではないはずです」
ダリアがそう言った。メリッサもほんの短い付き合いではあるがそう思うようになっていた。
「そうね……」
「「「もし仮に本当にそうでしたら、我ら三人この箒で旦那様を屋敷から叩きだしてみせましょう」」」
「まあ、あなたたちったら」
「「「それほど、私たちは奥様のことを大切に思っているのです」」」
「――ありがとう」
「「「ところで、お許しいただきたいことがございます」」」
「え? 何を許すというの?」
メリッサが感動したのも束の間、ほんの一瞬だけ侍女たちは邪悪な笑みを浮かべた――気がした。
「「「実は、奥様のベッドを誤って破損してしまいました」」」
「ベッドってそんな簡単に壊れるものかしら!?」
「「「ですから、本日より奥様の寝所はこちらになります。そして手紙についての疑問は旦那様に直接聞かれるのがよろしいかと存じます」」」
「あなたたちっ!?」
ダリアが恭しい仕草で扉を開くと、マーサとメアリーがメリッサの背中をグイグイ押した。
今夜もやはり、侍女たちのどこにこんな力があるのか――と困惑半分驚き半分、メリッサはフェリオの部屋へ押し込まれたのだった。
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