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7・俺、悟っちまった

 結論から言えば近かった。ロックとか名乗っておきながら、巨岩も無ければ岩場もない。まったく無関係に名付けられているだけだったらしい。


「まだ防衛線を突破されていないのか」


 近衛騎士団の騎士が静かな村を見て、そうホッとした様子で眺めていた時、奥の方の道を横切る巨体。


「くそ!すでに蹂躙されているぞ、掛かれ!」


 指揮官の命令に従って騎士、兵士が村へとなだれ込んでいく。


 俺もユージンを連れて村へと入ろうとしたのだが、呼び止められてしまった。


「待て、村は既に魔族が物色中だ。連中は男漁りに夢中で戦闘と言う戦闘は起こらないだろう。まだ防衛陣地に残る魔族が居るはずだ、お前たちは騎士の一隊と共にそちらへ向かえ」


 そう言われ、命を受けた騎士隊と共に村の側を抜けて北を目指して進んでいく。


 村に近づけば「男ー、男だー!」と言った叫び声が幾つか聞こえてきたが、立ち止まることなく走り抜けた。


 陣地へ向かう途中、何かを探している魔族を発見したが、練兵場で倒したジェネラル級より小さく、だいたい身長180センチ前後。顔が猿っぽくなければレスラーや力士と言って通りそうな体格をしており、素早さは幾分劣っていた。


 道すがら数体の魔族が彷徨っていただけで大した戦闘もなく防衛陣地へと到着した。


 そこは生々しい破壊の跡とこの陣地に居たであろう兵士の遺体が散見された。


「ドーカネさま、動揺している暇はありませんよ」


 俺が兵士の遺体を見て動揺していると、ユージンがそう声を掛けてくる。


 人間とは姿形が違う魔族を倒したとてそう感情が動かなかったのだが、いざ人の遺体を見るとそうはいかなかった。動揺するなと言う方が無理だろう。


 いや、魔族を斬った練兵場で、先ほど道すがらの戦闘で、実は転移時に言語理解だけではなく、何らかのバフがあったのだろうと安心していたのだが、どうやら魔族討伐へのバフであって人の遺体まではカバーしてくれていなかったらしい。


 遺体を見て動揺してばかりはいられないと足を踏み出せば、物陰でガサガサ動く物音が聞こえ、そして途絶えた。どうやら騎士が魔族を倒したらしい。

 その音で動揺を振り払い、陣地へと足を踏み入れれば、兵士を玩具にしている魔族を発見した。


 もはや意識がなさそうな兵士を弄ぶ魔族。「男―、男―」と異様な執着で弄ぶ姿には引いたが、その隙にユージンが斬りかかり、バッサリ両断してしまう。


「おい、ユージン。お前、兵士まで・・・・・・」


 ユージンが両断したのは魔族だけでは無かった。勢いのまま兵士まで斬り捨てている。


「お、おい待ってくれ、俺は正気だ。正気なんだ!」


 後ろからそんな声がしたので振り返れば、下半身丸出しで騎士に訴える兵士が居る。何をやってるんだ?と見れば、訴え掛けられた騎士が剣を突き立て、殺してしまった。


「いや、ちょっと待てよ・・・・・・」


 そうかと思えば奇声を発して走る兵士らしき素っ裸が視界の隅に映り、「うひゃひゃ・・ひゃ・・・」


 奇声を発している途中で矢が生え、倒れた。騎士が射かけたのだろう。


「ドーカネさま!」


 再びユージンが俺に声を掛けてくる。


「だって、お前・・・・・・」


 何が起きているのか分からなかった。陣地に居残る魔族の掃討に来たのではなかったのか?


 訳が分からない俺は、ユージンに引っ張られるように場所を移動し、さらに魔族を発見した。今度の被害者はまだ意識がありそうだ。弱弱しいながらも何かつぶやいている。

 ユージンが覆いかぶさる魔族の首を切り落とし、そのまま被害者の胸を突く。


「おい、何やってんだ!生きてたじゃないか!!」


 俺がユージンにそう叫び、突き刺した右手を引き上げた。


「救済しています」


 ハァ?何だよ救済って・・・・・・


 周りでも似た様な光景が繰り広げられ、魔族ばかりか男の兵士はほぼ殺しつくされている。助けているのは女性ばかりだ。


「何だよ、何なんだよこれ!!」


 俺は混乱してそんな叫び声を出すしか出来なかった。


「ドーカネさま!!」


 気が付くとユージンに取り押さえられている。


「お前も、騎士も何やってんだ!なんで人間殺してんだよ!」


 魔族の掃討だと思って来てみれば、そこはもはや虐殺の現場だった。


「救済です」


 救済?


「そんなの言い訳だろ!何で殺してんだ!」


 俺はユージンの手を振りほどいて掴みかかる。


 そんな事をしていると、またぞろ下半身もろ出しの男がこちらへと走り寄って来た。


「俺は、俺は正気だ。な!ほら、正気だろ!助けろ、助けろよ!」


 目を疑った。いや、そいつの目を見て悟った。「ダメだコイツ。もう逝ってやがる」本能的にそう悟るしかなかった。


 俺へ手を伸ばす姿はよだれを垂らして瞳孔が開き切り、顔は恍惚とし、言葉とは裏腹に正気とは思えない。直接見た事はないが、ラリった奴としか見えなかった。


「おひょ、おひょ、女かー」


 男がユージンを見てそう言った瞬間、「ああ、コイツはもうダメだ。そうか、救済か」そんな言葉が頭を過ぎる。

 ユージンへと手を伸ばし歩み寄っていく男を見ながら、俺は静かに輝鋼剣を抜き、スッと振り下ろす。痛みも感じさせないように慈悲を与え、真っ二つに救済を行った。


 それからいく体かの魔族と数人の男を救済し、周辺の探索を行った。もう、当初の様な怯えや動揺は消えていた。


 その後、やって来た増援の兵士たちと共に遺体を埋葬している時、ユージンに尋ねてみれば


「魔族に襲われた人はああなってしまうんです。なので救済するしかありません」


 と言う。


 さらに、村などが襲われた場合、被害の程度は人によって異なり、おおよそ10才以上の男はもれなく餌食となってしまうのだが、時折心が壊れていない被害者が居たりするらしい。

 軽度な被害の場合、しばらくは日常生活が送れる場合もあるので神殿が保護し、救世処と言うところで生活させるそうだ。

 うまくいけば出られる場合もあるとの事だが、それはほとんどが服を引き裂かれただけであるとか、他の人物を追いかけるのに夢中で払いのけられたといった、「ほぼ何もされていない」場合だという。

 そうではなく、襲われた場合、数日から数か月、普通に生活しているのだが、何かのきっかけで暴れたり襲い掛かってきたりするという。


「僕も神殿で何度か救済していましたので」


 そう言って俯く天使を、守ってやりたいと思ってしまう俺が居る。

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