6・俺、戦場に行けってさ
「召喚者は本営と共に同行の事」
部隊編成やらどの部隊がどこへと言った具体的な指示が出される中で、俺たちの居場所がそう告げられた。
本営と言えば姫様が直轄する幕僚たちや文官の居る司令部って事になるのか?それ、戦場に出す気がないって事なんじゃね?
まあ、仕方がないと言えばそうだろう。
チェスカー神殿の望みなどマルッとお見通しの姫様にしてみれば、俺を最前線へと押し出し、あろうことか先日のようにジェネラル級であるとか、下手に巣を発見してクイーンなどを狩られては困るのだから。
そんな事になってしまえば神殿の名声が高まり、政治的な権力まで増してしまうだろう事は想像に難くない。
あまつさえ、いくら当人が否定したところで、ユージンが神殿の野望に燃えていない保証もない。
可能だとは思えないが、予想される最悪の事態は神殿が魔族を支配下においてしまう事だろうしね。
そうでなくとも俺やユージンがジェネラル級の首級をポンポン挙げたんじゃ困るだろう。そのくらいの事は分かる。しょせんは権力争いなんだから。
「ま、国の危機って状況でも権力争いしてるってのは、まだまだ余裕があると見るべきか、もはや末期とみるべきか・・・・・・」
俺はそんな事を独り言ちりながら、本営がいつどの船で移動するのか、俺たちがどの船に何時乗るのかといった説明を受けていた。
それからさらに移動までには数日の時間を要した。
まず出発した先遣隊はその日のうちに。
輜重隊も順次川を北上しているようだが、本営の移動はなかなか始まらない。
五日経った日、ようやく本営の第一陣が出発していった。
「俺たちの番はまだかな」
どんどん城から人が減り、残っているのは文官が目立つようになったころ、ようやく移動の声がかかった。
運河を通って直接城の船泊へと横着けされるデッカイ屋形船、日本でいえば安宅船と言ったか、そんな感じの屋敷丸ごと川に浮かべたような船が停泊しており、姫さまたちが乗るらしい。
「ほら、あの大きな船に乗るみたいですよ」
ユージンがそう言った通り、幕僚一行と共にそれに乗り込む。
こんな屋形船がよく沈まないなと考えてしまったが、ここは川だった。海の様な波が襲ってくるわけではないので大丈夫なのだろう。
「それにしても、一階は水面が近いな」
乗り組んで部屋へと案内されたのだが、そこは一階部分、水面が驚くほどに近かった。
「三階建ての王室専用船ですよ。こんな大きな船に乗る機会などそうそうあるもんじゃありません」
天使は大はしゃぎしているが、島かと思う様な数万トン級の船から比べれば、しょせんは小船にしか思えない俺が居た。確かに内装は豪華で、きっと二階や三階ともなればもっと豪華なんだろうが。
この船を引っ張るのは、大型のイルカが5頭なのだという。
船首には御者台よろしくイルカを制御するための場所が設けられており、船員以外は立ち入り禁止。船の前方を見たければ三階の王室専用スペースからと言う話だ。
「ま、俺なんかが立ち入れる場所じゃないんだけどな」
また船で何もやることもない日々が三日も続く。大型船と言うだけあって歩みは遅く、横を抜けていくような非礼な事態こそ起きてはいないが、多くの船はこの御座船が湊に停まったり、中州に差し掛かる船泊に停まる度、次々と追い越していく姿が見られた。
他の船なら二日の行程らしい船旅を、さらに一日追加で楽しんだ後、プリチェット砦へと到着した。
さっそく砦では周辺貴族が姫様を出迎え挨拶を交わすが、素っ気ない態度であしらい、足早に作戦会議を行うように指示を飛ばしている。
貴族たちはブツブツ陰口を叩いているが、よくそんなに暢気なものだなと呆れるしかない。
「あれが神殿が用意した召喚者か?」
「隣の美少女は何だ?なかなかの美形。夜に招待したいものだ」
「あんな中年崩れが役に立つのか?神殿は我らと手を取り合う気がないのか」
などなど、政争と夜の話にしか興味を持ち合わせていない連中は作戦会議の席にこそ着いたが、まるで興味なさげにユージンや女性騎士などを視姦して鼻の下を伸ばしている。
戦況報告によれば、まだプリッツ岩と打楽器岩の村は陥落していないらしい。岩の名前をつける割に、この周囲には大きな岩などは存在せず、ここから余程離れているのだと推察される。
「報告!ビュトー伯爵、ジェネラル級と思われる魔族に拘束されました!」
伝令が張り上げた声に会議は騒然となった。
「双剣が魔族に捕らえられただと?」
「なぜ伯爵がジェネラルと戦っているのだ!」
「伯の陣はプライマーでは無かったのか!」
ざわつく部屋に
「鎮まれ!報告は途中だ」
そんな姫様の凛とした声が響き、シンと静まり返ると、伝令が報告を繰り返している。
「ビュトー伯爵がジェネラル級と思われる魔族に拘束されました。場所はパーカッションロック北方、防衛陣地です。伯は領軍劣勢の報に陣へと急行、嗅ぎ付けたジェネラル級個体と思われる巨大魔族と交戦し、双剣を弾かれ拘束されて御座います。なお、魔族は伯並びに男性護衛を連れ撤退していきました」
との事である。俺には場所も状況もさっぱり分からないのだが。
「フリントロックの状況はどうなっている?」
幕僚からの質問に詰まり、何も答えられない伝令。
「まあ良い、下がって休め」
姫様の言葉でホッとした顔で部屋を出ていく伝令兵。
「伯爵には悪いが時間を稼いでもらおう。その間にフリントロックに迫る魔族を潰す!近衛、並びにドーカネ!」
気を抜いている所をいきなり呼ばれて飛び上がってしまったが、皆がこちらを見ているので下手な態度は取れない。
「はい」
平静を装って返事をすれば
「すぐさま出撃準備を整えフリントロックへ向かえ。速攻で潰し、伯爵を貪るもう一団の討伐に向かう」
うん?
ここから近いん?




