4・俺、とある結論に至る
俺は初めて人型の生物を殺した。
生活環境の問題なのだろう、日本人は魚介類に対しては殺生の嫌悪を有していない。しかし陸上動物の殺生に対する嫌悪が強い民族であるらしい。もちろん、歴史的な事もあって地域差もあるのだろうが。
そう、初めてなんだ。
そのはずなのに、ドラマや漫画の様な恐怖や動揺やらが襲ってこない。血が流れる事への恐怖だとか、命を奪う事への恐怖だとか、身体が切り裂かれて内臓がこぼれ出す事への嫌悪だとか。
まるで猟師や武将が仕事として行うように静、無しか存在しなかった。
「大丈夫ですか?」
綺麗に真っ二つになって崩れ落ちる魔族なる獣を見届け、姫様へと目を向けながらそう声を掛けた。
どうやら魔族が傷つき死に絶える様に、何の痛痒も感じていないらしい姫様。それはそうだろう。こんな時代のこんな場所で、こんな役目を果たしているのだから、弱い人間な訳がない。
「お前に心配されるようなことはない」
姫様は二つに分かれた魔族を見ながらそう口にし、周囲へと視線を走らせる。
「どうやら、チェスカー神殿は使える召喚者を寄こしたらしい。わが軍への従軍を許す」
そう言って練兵場を後にする姫様。
俺はここのトップが危険にさらされたことで大騒ぎになるのではないかと身構えたのだが、全くそんな兆候は見せず、身構える俺を余所に魔族の片づけを行う人々が遺体へと駆け寄って来る。
「ほら、邪魔だよ」
粛々と動く人々にそう場所を追われ、寄って来たユージンに促されるままに妖鎧を収納し、何事も無かったかのように騎士に案内されて先ほどとは違う部屋、姫様ではなく実務者が座す所へと案内された。
「どうかしましたか?」
全く当たり前のようにユージンに問われ、戸惑う事しか出来ない俺。
普通、こういうことが起きれば騒ぎになって、誰が原因だ、誰の責任だと責任のなすり合いや派閥抗争みたいな物が起るんじゃないのか?
そんな挙動不審のまま実務者を待てば、やはり妙齢の女性騎士が現れた。
「なかなか良いモノを見せて貰った。我ら騎士団の有する魔剣をも超える宝剣。殿下のおっしゃるように従軍に問題はないであろう」
騎士は俺にそう言って座るよう促してきた。
「先ほど倒した魔族はジェネラル級と言われるモノだ」
騎士がそう言う。大型個体で大きな群れを率いているためそう呼ばれ、その下の下級個体がソルジャー級やコマンド級であるらしい。
魔族を見た感想を聞かれたのでありのままに答えると笑われてしまった。
それも仕方がない。ゴリラと答えたのだから。
「ハッハッハ、それは的確な答えだ。まさに大猿だよ。物を扱う猿。山のドワーフ族のように言葉が通じる相手でもなく、意思疎通ができないのだから、それで間違ってはいない」
騎士はそう笑い、魔族の詳しい説明を聞かされた。
魔族は森に棲む魔獣の一種という認識なのだが、獣と言うより人に近い格好をし、道具も使うし火も使える。そして、魔法も使える。
日本のファンタジーに当てはめるならば、それはオークやオーガが近いのだろうか。
「時に召喚者、アレに欲情できたりはするかね?」
騎士は改まってそんなことを言い出した。
正直、何を言っているのか分からない。そんな事が可能なのは、よほどの被虐趣味の持ち主か、意識他界系と言って差し支えないと思われるのだが。
「意識他界系とは中々な表現だな。だが、世の中にはその様な連中が居るのだよ」
騎士はユージンへと視線を向けながらそんな事を言う。え?俺の天使ってヤベー奴?
「さすがにそれは、神殿内部でもごく一部かと!」
ユージンが頬を赤らめて騎士に反論する。
「そうあって欲しいものだ」
姫様が神殿を毛嫌いしていた理由。この騎士が毛嫌いする理由。
「時に神官。貴殿は魔族の群れについての知識はおありかな?」
騎士はユージンに対して試すような目を向けて問いかけた。
「もちろんです」
そう言って語り出したユージンの話は、俺がこれまで聞かされた以上のものであった。
過去に大きな街が魔族に呑み込まれたことがあり、そこで大きな群れを作っていた魔族。
ジェネラルを超える個体も存在し、魔法が使える群、武器の扱いに慣れた群などなど、もとが個において人間を圧倒している上に、魔法や武技においても高い水準にまで達していたとか。
その討伐に成功した際の事は英雄譚として物語となっているが、その真実は語られてはいないらしい。
「魔族の群れの中心は複数のクイーンによって形成され、我々人間程度の個体、つまりオスが囲われたハーレムになっているという話です」
天使はそう締めくくった。
「そうだ。そして、神殿の意識他界系共は、オスにとって代わってハーレムを支配する野望を抱いている」
騎士が続けた言葉に開いた口が塞がらなかった。
中二病なんてチャチナもんじゃ断じてねぇ、はるか斜め上に突き抜けた非現実的な欲望に思考が停止した。
しかし、俺はある種の考えに思い至る。そして口を開いた。
「それは中々に想像力が豊かで、創作意欲に満ちた話だ・・・・・・」
そう、ラノベやゲームと言えば、だいたいお決まりのようにゴブリンやオークは女と見れば襲い掛かる性獣として定義され、種の違いを超越して子を産ませている。それはハーフエルフの様な混血ではなく、純粋なゴブリンやオークを、である。
生物学などくそくらえの設定。常識的には不可能であり、それが可能なのは一部の虫ではないか。
つまり、18禁で精緻に描かれるゴブリンやオークは、卵を体内に産み付ける行為を行っている。という言う話になる。そう、女性を襲い凌辱しているかのモンスターは、実 は 卵 性 の メ ス と言う事になるのではないか?
多くの作者は勘違いして描き、読者も勘違いしたまま喜んで読んでいる。百合百合しい場面に自分達を投影しているという大いなる勘違い。
おっと、話が逸れただろうか?
だが、そんな話を聞いた騎士は声を上げて笑った。
「ブハハハハ、召喚者の居た世にも、そんな勘違い話が存在するのか!それは面白いではないか」
さすが、妙齢なだけあってちゃんと話を受け止めてくれる。
「まさにそう言う事だな。オスに成り代わったつもりになろうと、精々しばらくの被虐的な快楽しか手に入らんだろう。子が生み出せないとなれば、ハーレムに囲う意味もなく、クイーンによって排除されるのみであろうな」
俺と騎士が下品な話を続ける間中、俺の天使は顔を赤くして下を向いていた。うんうん、初々しくて良いね。




