20・俺、壮大なオチにのけぞる
増援に来た千、聖女隊の五百で防御陣を組んで仮設の陣幕を整えた姫様たちは、先ほど汚物を掛けられた聖女隊の面々を前に困惑していた。
「何ですの?これは」
もっとも困惑が激しいのは聖女隊隊長である。
確かに暴れるようなことはないが、時折引付のようにピクピク動いたかと思うと苦しそうにうめき声を上げ続ける隊士。
状況からして魔族に襲われた男たちと似ており、小便小僧の噴水は媚薬の類だったのだろう。
そんな状況でなお、彼女たちはどうやら救済という措置を取る発想がないらしい。
ただ、じゃあ俺やユージンがそうすればよいかと言うと、事はそう簡単ではない。早々に遠ざけられており、外に放り出されれしまったのだから。
「これが魔族のオスなのか」
そして、持って来たオスを見る俺。
赤黒く染め上がってはいるが、それはそもそも体全体が赤らんでいたことから違和感がないグラデーションとなっている。褒めてはいないが。
「その様ですね。森から出て来たという話は記録にしかなく、僕も実際に見るのは初めてですが、記述の特徴と一致しています」
ユージンがそう説明する。
魔族のオス。それは数が少ないのか、それともクイーンが囲ってしまうからか、草原へ出てくることは侵攻や氾濫に伴ってクイーンが草原まで進出してこないと見ることがない個体らしい。
「クイーンやジェネラルと比べるとかなり小さいよな」
その個体は身長170くらいだろうか。あの不完全物体のフィz・・ゴブリンより多少大きい程度であり、確かに幼生体と言われても納得する。
「そうですね。オスが人と似た体格だから、魔族は草原へ出ては人を襲うのかもしれませんね」
「記録にあるなら、アイツらがどうなるのかも書かれているんじゃないのか?」
俺は人垣へ顔を向けながらそう言う。
「いえ、記録と言うのが討伐に関する記述しかないんです。街を呑み込み、多くのクイーンを従えていた幼生体の様な個体が居た。その身体能力は高く、簡単には倒せなかったと記録されています。その時討伐したのは、神殿が召喚した男性召喚者となっています」
それ、英雄譚の討伐記録で、実はフィクションでした!とかなんじゃ?
「いえ、それは英雄物語として演劇となっている方の話でして、演劇の中では召喚者と王女様が力を合わせて魔族を殲滅し、素早く動き非常に強力な攻撃を繰り出すオスを倒したことになっています。そちらのオスはクイーンと同様の大型魔族として描かれているので、棍棒や武器による攻撃を仕掛け、時に魔法を使うんです。演劇ですからね」
それはそうだよな、あんな攻撃をして、王女様やお付きの騎士たちが発狂してのたうち回ったんじゃ、芝居になりゃしない。実際にはどうだったんだか。
「その辺りは曖昧ですね。魔族が男を襲う事は分かっていましたから、討伐の主力は当時も女性だったと思われます。ただ、あまりに犠牲がおびただしいために召喚を行い、召喚に成功した男性が討伐を成し遂げたという内容ですね。王女様は登場していません」
何というか、必要な情報を伏せてしまっているように思えてならんのだよなぁ。
「僕もそう思います。神殿に伝わる記録における英雄譚はそうなっていますが、修道院や王家ではどう伝わっているのでしょう」
ユージンも人垣を見るが
「どうしてこのようなことになってしまうんですの?オスなどクイーンさえ倒してしまえば造作もない貧弱な代物ではありませんでしたの?!」
あちらは荒れている様だ。
「おびただしい犠牲と言うのは、まさか、ああいう事ではないのか?あれじゃマトモに水も飲ませられん。何日も持たないだろう」
「そうですね。その可能性もあります。あまりに修道院に、聖女隊にとって不都合な話であったために忘れ去られた。のかもしれません」
結論もなく、前向きな意見も出ない、ただただ悲嘆にくれているだけの聖女隊を見ながらユージンはそう言った。
「お姉さま!救済は男に行うものです!!それはただの人殺しですわよ!!」
そうしていると動きがあった。まあ、今の話でだいたい察したが。
「神官!」
姫様が天使を呼ぶ声が響く。
「はい、ここに」
ユージンが応えると聖女隊の人垣が割れ、寝かされていた隊士が動かなくなっているのが見えた。
「神殿にはこの様な症状、何と伝わっている?」
割れた人垣から姫様がそう聞いて来たので、ユージンは先ほどの話を皆に聞こえる様に伝える。
聖女隊からの異論や反論はない。
「そうか、時の王女の話はなにも残っておらんのか」
そう言った姫様。
「事が『侵攻』や『氾濫』に至った場合、王女はその身を奉げ、討伐する事が求められる。召喚が成功した場合、その召喚者に身を奉げよ。それが我が家に伝わる話だ」
それ、まんまラノベの魔王討伐モノじゃん。
「だがな、『身を奉げる』とは添い遂げるという意味ではない。最期をその者に委ねよという意味を含むのだ。どういうことか分かるな?」
そう言って周りを見渡す姫様。
「救済とは、男にのみ適用されるモノではない。オスに触れた女にも同じことが言えるのだ。教えられたはずではなかったか?テティエンヌ。これが現実だ」
どうやら返事がない。いや、崩れ落ちていてそれどころではなさそうだな。
「お前の正しさとはその程度。本当の覚悟など無かったのだろう。それが妾とお前の差だ。さて、ドーカネ。王家は約束を違える事はせん。神殿が召喚者をどうしたかは知らんがな」
「妾としても年が離れすぎておって承服しかねるが、仕方あるまい」
胸を張ってそんなことを言って来る姫様。え?何このオチ・・・・・・
それからの話をしようか。
翌日には討伐隊本隊が到着し、周辺の捜索を含めてすべての討伐を完了することが出来た。まだ活動期自体が収束した訳ではないため、車輪村を拠点として王国北部での魔族掃討戦が冬頃まで続けられ、俺たちもその中に組み込まれていた。
その間に変わった事と言えば、性食者が俺の天使に牙をむいた事だろうか。非常に承服しかねる事態なのだが、崩れ去ったアレを天使が手助けし、その後も支え続け、ヤツは聖女隊を指揮していた。
ユージン曰く、「敬愛する聖女を助ける事は誉だ」などと言っていたが、まさか、あれほどの事態がありながら呪いが解けていないとは、思いもしなかったよ。
それにだ、その後もアイツは俺に突っかかる事を止めなかったんだぞ?バカにしやがって。
「まだ根に持っておるのか?ユージンのおかげであのテティエンヌも多少はマトモになったのだ。神殿と修道院の融和。それもただ上辺の話でも無かろうに」
フランキがお腹をさすりながらそんな事を言う。
いや、天使が離れて行った悲しさでな?
冬を迎えたツァスタバ王国は活動期の終了を宣言し、討伐隊の解散を命じた。
その後は王都に凱旋する姫様たちに同行し、論功行賞が行われたのだが、そこで姫様が「侵攻」局面であったことを報告し、なんやかんやあって俺は姫様の夫になるからと、全裸伯爵の領地、つまり北方を拝領した。そのまま全裸の名と爵位を継いで、ビュトー伯爵だってよ。
「お姉さま!その泥棒猫を今すぐ追放してくださいまし!私のユージンにまた色目を使っているのですよ」
修道服が怒鳴り込んでくる。
北方に再建された修道院のトップがアレなのだ。
「院長、色目などと。そう言った類のものではありません」
神殿でも最大のマスケット救世処を預かる神官ユージンが後を追って困り顔で現れる。
テティエンヌは王女という権威に武功と言う力を持っているし、ユージンは俺の供となっている。ユージンがマスケットへやって来ると知ったアレは、自身の力をフルで使い、マスケットの街に修道院を再建させ、自ら院長に収まってしまったのだ。
なあ、お前ら独身じゃないとダメなんじゃね?
「何ですの!やはりお姉さまだけでなくユージンにまで手を出す気ですの?許しません!」
どうやらこれからもにぎやかな生活が続きそうだよ。勇者伯とかって事で、王都のゴタゴタに関わる必要はないらしいし?
ま、個人武力があり過ぎるからかもしれんが。




