19・俺、ラスボスに回避される
俺たちは聖女隊の隊列へと突っ込み、かき分けて後方へと逃れた。
さすがに前線で戦う者たちに抗議をする余裕は無かったらしいが、足を止めた俺たちに、さらに後方に居た一団から声がかかる。
「何ですの?・・・って、お姉さま!」
刺々しい鎧を着こんだ隊長が居る。まさにヒャッハーそのものである。
「なぜ、お姉さまがここに居ますの?」
ようやく足を止めた俺たち一団は、聖女隊に囲まれていて逃げ場はない。脚を止めればこうなるのでここまで止まる事をしなかったんだが。
「バカ者が暴走しているからであろう。なぜ妾の指示に従わぬ」
キッと姫様が魔獣を睨み問い質す。
「指示?フィズルの存在を聞いて黙っていられませんことよ!この世の理を崩す事態ですの!その討伐は何よりも優先されますわ!」
場を考えずに姫様へと突っかかる聖女隊隊長。
「その失敗作なら、その向こうに居たぞ」
押し問答を不要と思った姫様は、先ほど報告を受けた話を持ち出し、さっさと話題を変え、魔獣の矛先を自分から魔族へと向かわせた。
「何ですって!」
案の定、視線は俺たちから前方で蠢く魔族の壁へ。
「突き崩しなさい!この世の禍根はすぐそこですのよ!」
すぐさまそう聖女隊へとさらなる攻勢を命じる魔獣。
「妾も加勢してやろう。行くぞ、者ども」
案の定、これ幸いと姫様がその場を離れようとている事を、テティエンヌは気にもしていない。
そう思ってふと目を向ければ、その視線は天使へと向けられ、天使もまた見つめ返していた。え?なに?どうなってんの??
「アレがどの様な存在か、見破って差し上げますわ」
「では、ご自身の目でどうぞご確認ください」
見つめ合いはそんな言葉の掛け合いで速やかに終了した。さすがに怨敵を前にしてまで押し問答をやるほどバカではなかったか。
俺たちは姫様を追って聖女隊を掻き分けて前線へと押し出る。
「幼生体を見たといったな、そこへ向けて斬り拓け」
合流した事を確認した姫様が直ぐにそう命じて来たので、先ほど見たギャグの様な存在が居るであろう場所へと一直線に蠢く魔族の壁を斬り拓いて行けば、多くの聖女隊も俺たちについてきているではないか。
おいおい、お前ら戦功をかすめ取る気か?
ふと後ろを見てそう思ったのもつかの間、キャプテンやカーネルであろう魔法を使う個体が俺たちの前へと立ちはだかり、魔法攻撃を企てる。だが、魔法を放つ寸前、隙だらけの体勢になっている連中の間を構わずすり抜けざまに両断して突き進む。
ターン制ゲームじゃあるまいに、待ってやる義理はない。
「敵だ、邪魔者だ、泥棒ネコだ」
などとうるさい魔族の叫び声が左右へと押しやられて行く。いや、泥棒ネコは違うだろ。
そうして斬り拓きながら進んで行けば、先ほど聞いた狂声が聞こえて来た。
「ほらほらクイーン。イケメーンの僕だよー、次は君かなー」
などと呑気な声が耳に届いたのである。お前、目と鼻の先は戦場だぞ?
とは思ったが、まだ多くの魔族が壁となり姿をはっきり見ることは出来ない。
「邪魔だ!」
姫様も群がる魔族を次々と斬り、払い飛ばしているがキリがない。
そうこうしていると、俺たちが細く突出していた部分を後から追ってきた聖女隊が押し広げながら展開を始めていく。
「そいつらより先へ進みなさい。我らが禍根を断つのです!」
自らも穂先に複数のウニの様な棘付き球体を揺らすメイスを振るいながらテティエンヌが叫ぶ。
どちらが先かなどと言っていられる状況では無かったが、一瞬、聖女隊の隊列の前に居た魔族の層が薄くなった。
「そこですの!」
テティエンヌの言葉に従って薄くなった部分から突出していく聖女隊。
俺たちも何とか前方に群がる魔族の群れを粗方排除した。
「ウェ~イ?、君たちは何モノかなー」
ようやく気付いたとばかりに振り向く狂気な個体、その格好はまるで赤く塗られた小便小僧みたいじゃないか、何だよその体勢。
「あれが幼生体ですわね!」
テティエンヌがそう叫び、聖女隊を狂気の小便小僧へと突っ込ませた。
「あははー」
ソレはクネクネユラユラ、こちらへと向いて小便小僧の様な姿勢で噴水を飛ばしてくる。魔術なんかじゃない、そんなチャチなモンじゃ断じてねぇ、黄色い放水銃だ。
汚物は突撃した聖女隊へと降り注ぎ、その銃撃を浴びた隊士が
「おほぉ゙っ」
「アパ、アパパ、アパ・・・パ」
「ぉ゙おぉ゙〜」
などと、美女や美少女たちが出してはいけない声を発し、ピクピク震えながら倒れてしまうではないか。
「何ですの?毒ですの?」
困惑するテティエンヌ。
「退いてください!あれはフィズルではありません」
「オスです!!」
その時ユージンが叫ぶ。その声は綺麗で鈴を転がしたようなモノであったが、その場に不思議と響きわたった。まさしくオスである!
「ドーカネさま」
そして、俺へと声を掛ける天使。
これはつまり、通常魔族の逆バージョンが発生したって事だな!
あのまま聖女隊による攻撃を続けさせれば、こちらの負けは確実と言う事だろう。あんな汚物の放水なんか掛けられたくはないが、掛かっても無事なのは俺とユージンだけという事か。
「行くぞ」
俺はユージンに声を掛け、駆け出した。
「はい!」
ユージンもついて来る。
「面頬!」
出来るだけ小便小僧がぶち撒ける汚物を浴びたくない俺は、面頬を呼び出し装着する。
「なになに?泥棒ー?」
クネクネしているソレが俺に気付いて何か血迷っている。汚ねぇモンをこっちへ振り撒くな。天使に掛けたら殺すぞ!
俺が接近して輝鋼剣を振り降ろすと、避けられた。
「何?」
しかし、予想されたバカにした様な狂声が聞こえてこない。
ふと見れば、俺が振り下ろした軌道の横へと、反対から回り込んだ天使の輝鉱剣が突き出されており、俺の剣を避けた小便小僧の後頭部から口へと貫通していた。
どうやらまた共同作業になったようで、嬉しい限りである。
「油断大敵、ですよ?」
天使はそう言って俺にほほ笑みながら、刺した刀を斬り下ろし、顎から股までを真っ二つにする。
それはエグイな、天使よ。
その間に姫様たちがクイーンを倒しており、俺たちへも二人の世界に浸る暇なく新たな魔族が押し寄せてきた。
そこからさらに掃討戦を展開していると、車輪村から千ほどの増援がやって来た。急いで編成した救援部隊であるらしい。
その部隊が加わった事で劣勢を挽回した俺たちは、夕方には掃討を終え、ボロボロになりながらも村を離れ、陣を敷いて休息する事が出来た。




