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16・俺、そんな事は知らなかった

 会議はそれから各部隊の配置などが話し合われ、解散となった。


「あら、偶然ですわね」


 決して偶然であろうはずがないお出ましの性色者(プレデター)


「何の用だ?」


 またぞろユージンの居ないタイミングを狙いやがって


「汚物に少々同情してしまいましたの」


 何言ってんだ?コイツ


「アナタ、あのオモチャに騙されていましてよ?神殿は魔族を自分たちの戦力としたい。その下地として、人と魔族の間に化物を作り出そうとしていますの」


 確かに、アレ(不成体)はバケモノと言って良いだろう。人と似ても似つかない醜悪な姿。さりとて魔族の姿にも成りきれていない不完全な失敗作


「魔族を神殿が支配できるとは思えんがな。お前も見て来たんだろう?狂ってラリった顔して暴れる野郎どもを」


「ええ、それはもう。醜悪な汚物をたくさん見せられましたわ。可愛いオモチャ以外、居なくなればよろしくよ」


「それが危険な考えだとは思わないのか?神殿が何考えてるかは知らないが、お前も十分危険だ」


 俺はゴブリンには触れず、性色者(プレデター)の危険性に話をすり替えた。そうしないとどこでボロが出るか分からんからな。


「そうかしら?わたくしは純粋にアナタ方の事を憂いているだけですのに」


 ダメだな、コイツは。完全に自分の考えが絶対だと思い込んでいる。今更どうする事も出来そうにない。


「お前の言から推察するに、神殿はヤバい事を考えているんだろう。だがな、人を積極的に殺そうとはしていない。それに対し、狂う前に男を殺すというお前はどうだ?どちらがより危険かは明らかだろう」


「話になりませんわね。魔族は男を狂わせる。にもかかわらず男は快楽を求め、あまつさえそれを操ろうと妄想する。男がすべての元凶でしてよ!」


 確かに神殿にも派閥はあるだろう。だが、主流派が魔族にぞっこんの被虐趣味という訳ではなさそうだ。もし、被虐野郎が主流であったなら、俺と言う召喚者にあんな醜悪な現実を見せることはしない。現実から遠ざけながら甘い言葉を囁きかけ、今、目の前にいるような奴が問題の元凶であると吹きこむだろう。その方が、楽に野望を実現できる確率が高くなるのだから。

 こんな無残な現実など見せてしまえば、被虐趣味の実現など叶う訳がないだろうが。


「そう考えるのはお前の勝手だ。いや、それがお前の正義なんだろう。だがな、世の中には全く違う正義がある。お前には見えない正義がな。それを見ようと努力したことはあるのか?ないだろう?それがお前の限界なんだ」


「何ですの、汚物の分際でわたしを侮辱しますのね!」


 そう言って振りかぶる魔獣


 ちょ、それは流石にヤバいだろ。妖鎧なしで受けたら死ぬ!


 殴りかかってこようとする魔獣を見て目を瞑るが、痛みは訪れなかった。


「何ですの?お姉さま」


 そんな声が聞こえて目を開ければ、魔獣の腕を掴む姫様が居た。


「何をしている。テティエンヌ」


「見てわかりませんこと?わたしはお姉さまに纏わりつく汚物を排除しようとしているだけですの」


「ドーカネは召喚者だ。汚物ではない。それよりテティエンヌ、その醜い顔は何だ?お前こそ召喚者を襲う魔族ではないのか?」


 姫様は身体強化でもしているのだろう、魔獣が微動だに出来ないでいる。凶悪なアマゾネスであるという噂を聞いた、聖女隊隊長がだぞ?


「それは侮辱ですわ!」


「お前がな。昔からそうだ。勝手に物事に結論を出し、そして、そう考える自分こそが正しいと思い込む。自分の方が優れていると令嬢から男を奪い、気に入らない貴族を罵り、武技に練達すれば力でねじ伏せようとしだす。それがすべて間違いだと言っている」


「私は正しいですわ。今回もそう。間違っているのは神殿。そして、忠告してもその危険にすら思い至れないこの汚物が間違っていますの!」


 大声で喚くものだから、離れたところから覗く顔が増えていく、ここでこのまま言い争うのは止めた方が良さそうに思うのだが


「神殿の危険、か。それには同意だ。妾も不信感しか抱けておらぬ。だが、それは聖女隊に対してもだ。戦場で魔族よりも男を殺しに走る姿のどこに信頼が置けるというのだ?救済を繰り返すお前たちはいつ、高みに至れるのだ?」


「目的を達したら至れますわよ!」


「いつだ、それは。大森林はどこまで広がっているかすら分かっておらん。森の果てまでたどり着き、魔族を討滅しつくした時か?」


「そうですわ!魔族と汚物を滅した時ですの!」


「・・・・・・そうか」


 騒ぐ魔獣に冷静な対応をしているように見えた姫様だったが、


「思い上がるな、バカ者!!」


 言うが早いか、片手でヒラリと魔獣を投げ飛ばす姫様。


「妾に伍する五百と言ったか。それだけ集めて千しか相手に出来ぬ聖女隊でしか無かろう?妾とこやつ二人で千の魔族を相手してやるわ」


 投げ飛ばされ、完全に虚を突かれた魔獣が唖然と姫様を見つめる。


「なぜ投げられたかも分からぬ様では話にならんわ。おい、見ておらんで連れ帰れ」


 姫様がこちらを窺う修道士の一団にそう声を掛ければ、そそくさと走り寄り、テティエンヌを助け起こして小走りに去っていく。


「あやつ、フィズル(不成体)の話を聞いて正気を失っておるらしい。会議の席では平静に見えたが、やはり取り繕っておっただけみたいだな。あやつら、今夜にでも抜け駆けするぞ」


 俺に小声でそう話しかけてくる。


「俺にどうしろと?」


「どうもせん。先ほど異母妹(バカ)に言った通りよ。出来るであろう?あの宝剣であれば」


 チラリとこちらを向いた姫様は悪い顔で笑っていた。いや、どないせいっちゅうねん!


 騒動が収まり野次馬も散った頃、ふらりと天使が戻って来るではないか、一体どこで何をしていたのやら


「すいません、ドーカネさま。幕僚の方が出陣前に細かな話があると引き止められておりました」


 それを聞いて納得した。性色者(プレデター)が天使を襲撃する事を懸念し、遠ざけていたのだろう。

 俺も先ほどの騒動はおくびにも出さずユージンに尋ねる。


「なあ、確認しておきたいんだが、修道院もアレ(不成体)については把握してるんだよな?」


 天使は少し考え


「・・・はい。魔族討伐は彼女たちの方がより多く経験しています。知らないと考える方がおかしなことです。フィズル(不成体)を知っているからこそ、『すべて救済せよ』という結論に至っていると考えるのが自然です」


 ま、そうなる罠。


「なら、聖女隊はどうすると思う?」


「今夜にでも、動き出すかと」


 何だ、知らなかったのは俺だけかよ。 

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