14・俺、強敵を牽制する
俺の天使が色欲魔獣の罠にかかっていて辛い。
翌日からは仮設兵舎チームには聖女隊も加わり進捗速度が加速度的に上がっていく。
それに対してマンパワーの足りない野郎どもの進捗状況は相変わらずだった。
「汚物どもの仕事は遅いですわね。ホント、役に立ちませんこと」
兵舎が完成した事で俺たちにも部屋が割り当てられた。とは言っても個室などはなく、多くの兵士や騎士は四人から六人の大部屋である。俺は今回もユージンとの二人部屋を手に入れることが出来たのだが、そのユージンが居ないタイミングを見計らって這い寄って来たテティエンヌが蔑んだ目を向けながらそう吐き捨てる。
どうやら外周部の設備が兵舎より遅れている事を言っているらしいが、元の計画よりは早いくらいなので魔獣に嫌味を言われる謂れはない。
「そうか、それは悪かったな」
相手にしたくないのだが、向こうから絡んで来たのでは仕方がない。
「お前、なぜわたくしの可愛いオモチャと相部屋ですの?汚れが感染してしまいますわ」
なるほど、そう言う話か。しかも、本音を隠そうともしない魔獣だな。
「ユージンはお前のオモチャでは無いぞ?何を言っているんだ。俺の供としてここに来ている」
そう言ってやれば、呆れたような顔をする。
「まあ!汚物があのような可愛らしいオモチャを供にですって?呆れましたわ。身の程を知らないとは救いようがありませんわね。今すぐあの世へ向かってはどうですの?」
何言ってんだ?この色欲魔獣は。
俺が何か言い返そうとした時、スッと魔獣の雰囲気が変わる。
「これは聖女様。どうされました?」
そんな、穢れを祓う美声が聞こえたのだが、そのセリフは聞き捨てならないモノであった。聖女?コイツは性色者だ!
「これはこれはユージン様」
なんだその猫なで声は。気持ち悪いな。
「わたくしも一度、外の世から召喚されたドーカネさまにご挨拶をと思いまして、お伺いしたところですの」
何を言ってるんだ?確かに挨拶だったようだが、意味がまるで違うだろ。
その性色者の姿は、一体何層の着ぐるみによって正体を隠しているのかと、驚くほどに聖女の様な見た目に偽装されている。もはや別人と言う以外にはない。
そこから二人が言葉を交わして去り際
「では、ドーカネさま。ごきげんよう」
聖女スマイルを張り付けた顔から、当初の蔑みの視線が俺にだけ飛んでくる。無駄に器用だな、コイツ。
「本当に優れたお方ですね」
完全に騙されている天使は性色者の後ろ姿を見ながらそう言っている。目を覚ましてくれ!
声を大にしてそう言いたいのだが、残念ながらそれが逆効果であることを、俺は知っている。ここで性色者の危険性を声高に叫ぶようなことをすれば、奴の思う壺となる。
第一、ユージンはれっきとした男であり、神殿での事もあってそっちへの嫌悪が強いため、俺が下手な事を言えば、そのまま性色者に貪り食われる未来しかない。
どうにか天使が天使であり続けられるように毒牙から守らなければ。かなり難しい行動を迫られるのだが、やるしかない。
俺は悩みを抱えたまま空堀や石壁の外への防衛設備の配置を完了させた。
村だった場所が約半月ほどで砦へと完全に変貌を遂げ、続々と物資が運び込まれてくる。さらに部隊も増強された。
そうした準備が整うと、これまで数度の偵察が行われ来たマッチ村の状況に関する会議が行われる運びとなった。
あの魔獣は大戦力を擁する指揮官として姫様の隣へと腰を下ろしている。
「これまでの偵察の結果、マッチロック村にはジェネラル級のみならず、やはりカーネル級も存在する可能性が濃厚であると言わざるを得ません」
まあ、それは予想できていた事なので大きな驚きはない。
「さらに大森林側へも偵察の網を広げてみたところ、複数の魔族が村へと集まる姿を確認することが出来ています。現在のマッチロック村における魔族勢力は優に千を超えると見て間違いないと推察しております」
これは少し大きな問題だった。
森から更なる魔族が入っているというのは、草原へ這い出し、人を襲って食料を得、欲求を満たすという「活動期」の行動パターンが俺たちによって崩されたことから、マッチ村を拠点に力を蓄えているという状況にあるらしい。
「つまり、近いうちに再度の来襲が懸念されるわけだな?」
姫様が報告者に問いただす。
「はい。遠からずそうなると思われます」
「でしたら行動あるのみではないですの?座して魔族を待つ必要などありませんわ。こちらから打って出れば数の有利で踏みつぶせましょう」
姫様の隣に座す特級魔族がそう強硬論を主張する。
「待て、魔族の戦力は推定に過ぎん。少なくともひと当てして数を見極めんことには、ここから退く事にもなりかねんぞ」
姫様がそう制し、話を偵察報告へと戻す。
「威力偵察を行うとして、どのくらい必要だ?」
そう問われた報告者は、魔族をちらりと見て悩む。
「問題ありませんわ。聖女隊が向かえばよろしくてよ。魔族など一刻で全て挽肉にして差し上げましょう」
それでも強硬論を止めない性色者。
「聖女隊が妾の指揮を外れて威力偵察を行うのは論外だ。聖女隊、並びに召喚者は妾と共にあり、主力として行動する。威力偵察はそれ以外の部隊から編制せよ」
全く異母妹の意見など聞き入れることなく話を進める姫様に対し、当のテティエンヌは数枚化けの皮を剥ぎ取って睨みつけている。
「了解しました。装備の整った聖剣騎士団、並びに志願兵から五百を選び、速やかに威力偵察を実施いたします」
そうして、威力偵察に関する議題を終え、周辺の状況に関する報告を聞いたり他国への来襲状況などが報告された。
「カーネル級と思しき個体が確認されているのはわが国だけとなっており、村や砦が陥落しただけでカーネル級の誕生までには至っていないのが現状です」
それをどこまで信じて良いかは分からない部分がある。と、ユージンが補足してくれる。その瞬間、姫様の隣から視線が飛んできた。明らかに殺意が込められている。
俺の天使だ、お前に渡す気なんざありゃしねぇんだよ!と言う思いを込めて睨み返してやったのだが、すでに装甲を閉じた後であったらしく、こちらを見てすらいなかった。




