13・俺、強敵に出会う
予期せずクイーンが居た事にしてしまったが、この場合はそれが正解だったのかもしれない。
クイーンが誕生していたという話が出た事で、マッチ村へすぐさま向かおうという方針からクイーン対策のために車輪村を拠点として復旧する事へ変更となった。
もしそうしなければ、マッチ村でも同じようにゴブリンが発生していた場合、これまでの魔族に関する常識から乖離した実態を数千と言う人の目に晒してしまう。しかし、それは避けたいというのがユージンと姫様の一致した意見だった。
「ドーカネ、お前も口外するなよ?」
ユージン、姫様、そして姫様の側近の中でもごくごく少数によってゴブリンについて話合われた席で、そう釘を刺された俺。ここじゃ天使以外に知り合い居ないから、漏らしようがないのにな?
その後、各部隊長や幕僚を集めて今後の方針が話し合われ、まずはマッチ村の偵察、そして、再度の来襲に備えた拠点の復旧と強化が正式に決定した。
妖鎧と言う名の魔導パワードスーツは、この世界の身体強化よりも力を発揮できることから俺やユージンはものすごくこき使われることになった。
それも、俺はおおむね野郎どもと瓦礫撤去や空堀の設営なのに対し、ユージンは女性陣に混じっての仮設兵舎の建設である。
この扱いの違いはどういう事だ?俺の天使を返せ!
それから数日かけて瓦礫の撤去を終え、石壁の外に空堀を追加する工事に励んでいた時の事、武器や食料を運び込む後続の輜重隊とは違う異質な集団がぞろぞろと村へと入っていくのに出くわした。
空堀を掘り返している俺たち野郎どもをゴミを見るような目で見ていく異様な集団。
姫様たち騎士団の鎧とはデザインが異なり、肩に角があったり、明らかに異常な暴力性を持った鬼の金棒としか思えないメイスらしき武器を持った、「綺麗な」世紀末連中である。
敵を効率的に殺す事を目的としているのではなく、相手を嗜虐性をもって痛めつけて嬲り殺すことを目的としたように見えるアマゾネス。
「なあ、あのヤバそうな集団は何だ?」
俺は一緒に作業している野郎どもへそう問いかける。
「しー、見ない方が良いぜ旦那。下手に刺激したら襲い掛かってきかねないんだ、我関せずで穴掘りしようぜ」
と、あえて見ないように作業に励んでいた。
そうして一日の作業が終わり、俺は姫様のいる幕舎へと顔を出した。
「ドーカネ、紹介しよう。聖女隊を率いるテティエンヌだ」
姫様の前へ赴くなり、そう言って来る。
聖女隊だって?あの、噂の狂気集団か!と、紹介された人物を見れば、どこか姫様に似た美少女だった。
「何ですの?この汚物は」
いきなり顔をしかめ、俺を蔑んだ目で一瞥したかと思うとそう言って姫様に抗議している。
「神殿が召喚したドーカネカズヨシだ」
簡潔にそう紹介する姫様。
「まあ、あの可愛らしい神官の連れが、こんな汚物ですの?汚らわしい」
コイツ、天使を汚してないだろうな?
「テティエンヌ、お前が一部の男以外を受け付けない事は承知している。だが、ここでその話は止めろ」
おい姫様、その「一部」に俺の天使は入らないよな?こんな性獣に天使が汚されるなど想像すらしたくないぞ。
「あら、お姉さま。それはどういうことですの?あの神官ならば、私の好みど真ん中でしてよ?魔族など放り出してあの子を持ち帰りたいくらいだわ」
おいクイーン級、今すぐ討伐してやろうじゃねぇか、表に出やがれ!
「済まない、ドーカネ。この性色者は性格が歪んでいるがために修道院へ押込められた異母妹だ。こんな戯言を言っているが、修道院では男と交わることは認められていない。ただの冗談だ」
姫様の説明もシャレになって無いんだが?
「あら、そんな事はありませんですわ。その様なタテマエ、私の力の前では有名無実でしてよ?」
「ここでは妾が指揮官だ。黙れ性色者」
「そんなにこの汚らわしい汚物が大事なのかしら?お姉さま」
姫様の罵倒に対し、クイーン級も負けずに煽りに来ている。
「ジェネラル級を軽々両断するドーカネとユージンは他に代え難い戦力だ。お前のオモチャとして弄ばせる気はない」
言い返す姫様。いいぞ、もっとやれ!
「そうですの。修道院と神殿の融和が成る格好の機会ですのに、お姉さまはチャンスを自ら手放すのですわね、それは残念」
どうやら力関係では姫様が上らしく、クイーン級は俺にゴミを見る様な視線を向けながら、その場を後にする。
姫様は聖女隊隊長の異母妹が見えなくなるまで睨んでいたが、姿が消えたと同時に俺を見る。
「すまないな。テティエンヌはわがまま放題に育てられたからか、抑える事を知らん。その結果が修道院入りだったが、持ち前の武技で聖女隊の隊長に上り詰めてしまった」
と、彼女の経歴をざっくり語り出した。
「では、なぜ今回呼び寄せたんです?」
そんな我が儘娘で他人の指示に従えない猛獣を呼んでしまえば、手が付けられなくなることくらい分かっていただろうに。
「カーネル級の存在だ。妾としては神殿の事を心の底からは信用できん。さらにフィズルなる未知の存在まで現れたのでは、より一層疑念は深まった。仮に妹が妾の手綱を振りほどいて暴走するようなことになろうと、『侵攻』を止めることが先決。わかるな?」
わかるな?とか言われても、さっぱり分からんのだが。俺はため息を吐く。
「そう思うのは仕方がないが、妾にはこれ以上の策が思いつかん。それで、外回りの工事は順調か?」
ため息で察してくれたらしく、ようやく今日の報告を促されたので進捗状況を報告し、姫様の前を辞す。
次に向かうは心配な天使の安否確認だ。
まだ建物は完成しておらずテント暮らしなので、与えられたテントへ向かえば、すでに俺の天使は帰還していた。
「ドーカネさま、お疲れ様です」
いつも通りにそうねぎらってくる天使。
先ほどの性魔獣に会ったかと聞いてみれば
「はい、素敵なお方ですね、テティエンヌ様。あの方が聖女隊を率いておいでなら、殿下もご安心な事でしょう」
天使よ正気に戻れ!それは色欲魔獣の罠だ!!




