11・俺、天使を守る
「神殿の秘事として伝わる話であり、僕も出立時に初めて聞かされました」
そう言えば、怯え震える神官どもから懇切丁寧な説明を受けていたのを思い出す。何をやっているのかと思えば、そう言う事だったのか。
「男が魔族と子を成せるというのは本当だったという事か・・・・・・」
姫様もそう呟き、前方の光景に固まってしまっている。
「事がどうあれ、アレを倒すしかないんだよな。それに、あんなのが居るという事は、中に伯爵が居るって事になるんだろう?まずは、ジェネラル級を倒して伯爵の状態を確かめるのが先だ」
俺はユージンと姫様を促し、館の周辺をうろつくフィz?・・・ゴブリンに似た魔族を斬り捨てていく。躊躇?そんなものはありはしない。ヤベーキメラなんて居ない方が良いに決まっている。
「ほら、行くぞ」
姫様の足取りは重い、ユージンも現実を受け止めかねているように見える。いくら話を聞いたからと言って、こんな現実は想像できはしないだろう。俺?これこそファンタジーっぽくて、ようやく異世界感が湧いてきた気がするよ。
中へ進むと打ち捨てられた遺体が無数に転がっていた。
「連れ去られた兵士や騎士でしょうか」
ユージンがそう言う。
姫様は無言でついて来てるのだけを確認した。
さらに進んでいくと、またゴブリンが徘徊していた。
伯爵が連れ去られてわずか数日だというのに、一体どういう事なんだ?
「村を占拠した時点で此処に座していた騎士や村人を襲っていたからではないでしょうか」
そして、使い物にならなくなって打ち捨てられ、一部は食料と化していたという事なのか。周りには多数の遺体が散乱しており、奥へ進むほどに増えていく。
そんな時、通り過ぎた部屋の扉が開き、ぬぼーっと何かが現れた。
「姫様!」
ただ俺たちについて来るだけになっていた姫様へと手を伸ばす物体へ輝鋼剣を振り、斬り捨てる。
「ジェネラル級か」
ハッと我に返った姫様が倒れた物体を見てそう口にする。確かに2メートル級の巨体なのでそうだろう。
開いた扉から中を覗けば、他にも巨体が蠢いているのが見え、何やら声も聞こえる。
「く、お前らなどに屈するものか。体は蹂躙されようとも、心までは屈さぬぞ」
少々弱っているようだが、そんな男の声がする。
「これでクイーン、私はクイーン。もっとだ、もっとだ」
そんな、どこか酔いしれた濁り声も聞こえる。
静かに部屋へと足を踏み入れてみれば、一人の男に2つの巨体が群がっている。先ほど斬った物を含めれば、ここには三体ものジェネラル級が居ることになる。
俺は妖鎧の性能のままに巨体へと忍び寄り、2つの巨体を撫で斬りにする。
そして、進んだ先で陰に潜んで居たらしいもう一体の姿を認めた。
「まだ居たのか。新たな男。お前も我らがクイーンとなる糧となれ」
そう言って、どこか酔いしれ緩慢とした動きで手を伸ばす相手の頭へと素早く輝鋼剣を振り上げ、頭の半分を斬り飛ばせば、男にばさりと内容物が降り注ぐ。
事態を把握出来かねている男がむくりと起き上がり、俺を見る。
「貴様は、誰だ?」
窓から差し込む光でその体が鍛え上げたものであることが分かるが、先ほどのセリフと言い、この状況と言い、どうしても受け入れることが出来ない。
こんなの普通のファンタジーなら、負けた女騎士や連れ去られた貴族令嬢と出くわすシーンだろ!
さっきのセリフもそうだ。なんで男がくっコロ騎士みたいな事言ってんだよ、気持ち悪い。
だいたい、なんでお前はゴリラの内容物や血をぶっかけられてなお、平然と俺に問いかけてるんだ?
「私はビュトー。伯爵だ」
そうじゃない。そう言う事じゃないんだ!だが、
「俺は神殿によって召喚された召喚者、銅金一義という」
「おお、召喚者か!話は聞いているぞ!」
なぜこうも普通に会話ができるんだ?格好からして正気とは思えないんだが。
「生き残りは伯爵、あなただけか?」
俺は多くの疑問を呑み込み、そう尋ねる。
「その様だな。私が連れて来られた時には、既に村に居たであろう騎士や村人は壊れているか食われていた。私と共に捕縛された騎士や兵士も次々と壊れていった。だが!私は幾ら蹂躙されようとも屈しはしなかったのだ!」
防衛陣地でみたラリッた兵士の様なオカシイ所は、ああ、素っ裸でオカシイにはおかしいが、瞳孔が開き切った異常に恍惚感のある顔はしていないし、よだれを垂らしてもいない。なにより正常な会話が成立している。再度言うが、魔族の血と内容物にまみれた素っ裸である。
「ビュトーか」
恐る恐ると言った風に姫様が声を掛ける。
「おお、これは殿下!誠に申し訳ございません。このビュトー、恥ずかしながら魔族に捕まり、このような仕儀に至ってしまいましてございます」
姫様への受け答えも朗々としており、これで甲冑なり服を着ていたならば、普通に受けごたえが出来ているように見えただろう。だが、血と内容物で汚れた素っ裸でそれをやっている姿には、違和感しか覚えなかった。
「ビュトー伯爵、少々お尋ねしたいのですが、あなたは正気ですか?」
ユージンも見かねて声を掛ける。
「おお、可憐な修道士どの、私は魔族に蹂躙されようとも心までは支配されておりません!」
30過ぎの、爽やかなイケメンが俺の天使に色目を使う姿には、腹立たしさが沸き上がって来る。正気だと?俺の天使に色目を使っている時点でお前は異常だ。万死に値する。
「そうか、ならば、外で事情を聴きたいのだが」
姫様がそう問いかける。
「いえ、私は心こそ支配されておりませんが、もはや魔族に蹂躙され果てており、人の身とは言えません。かくなる上は、姫様やそこな修道士を味見した後、果てる所存なれば!」
俺から、そう口走る奴の顔は見えなかった。だが、そんな事は関係ない。俺の天使に手を出そうとした時点で処刑は確定している。
「大味のディナーでは物足りないからと、新たに見つけたデザートで口直しするような感覚で、何を言っているんだ?」
俺は伯爵にそう問いかける。
「召喚者よ、やはり私の心は魔族に奪われていたのだろうか?」
口から血を流しながら、振り向きざま、苦しそうな表情でそう語る伯爵。
「素っ裸で姫様に拝謁できる時点で、お前が正気であるはずがないだろう」
俺がそう返せば
「・・・・・・ゲホ、そう言われてみれば、そんな・・・気も・・・して・・・く・・・る・・・」
伯爵はそう言うと崩れ落ち、輝鋼剣が重くなったので引き抜けば、姫様の足元へと倒れていった。
「ドーカネ。この件は妾に預けよ。気が狂った伯爵を救済したのは妾と言う事にする」
どうやら正気に戻ったらしい姫様が俺にそう言って来るので頷いた。俺だって貴族殺しなんて言われたくないからな。




