10・俺、ヤバいモノを見てしまう
おっかない話を聞いた俺だったが、クイーンが平原に出てくる可能性があるという事で、ファンタジー用語でいうスタンピードが頭を過ぎる。
無数のゴリラが村を席巻し、はては街にまで這い寄って来るとなれば、まさにスタンピードではないだろうか。
ただ、この世界における氾濫とは、村や町を拠点に営巣し、周辺に魔族をまき散らす事を指すらしく、俺からすればダンジョン化の様なものに聞こえてしまう。
俺のイメージするファンタジーとこの世界には少々乖離があって、そこに突っ込んだり文句を言っても仕方がないのだろう。そこは受け入れるしかない。
そんな事を考えながら姫様たちに付き従い、ようやく設営が出来ようとする本陣を出て、前線へと向かった。
少し歩みを進めれば、多くの兵士や騎士の姿が見え、その先には立派な石垣の様なものが垣間見えている。
「ホイールロック村は砦を兼ねた構造になっていて、北部最初の防衛拠点のひとつでした」
ユージンにそんな補足説明を受けながら主力部隊の指揮官の元へと向かう。
「殿下!なぜこちらへ?」
指揮官は驚いた様子で姫様へと声を掛けるが、それをまったく意にかえさない姫様。
「カーネル級出現の疑いがあるそうだな?」
「はい。コマンド級やキャプテン級の様な散発的な攻撃ではなく、組織的な抵抗が行われており、男性部隊への反応が鈍っております」
堂々と男をエサにしている事を口にする指揮官。何だよここは。
「そうか、ならばこやつ等を先頭に妾達魔剣騎士が突入し進撃路を啓く、お前たちはその後についてこい」
姫様の提案には唖然とさせられた。それはもはや作戦などではなく、ただの力技である。部隊の運用よりも個人技が優先する世界だったのか?ここは・・・・・・
「そう言う事だ、ドーカネ、神官。喜べ、お前らが先鋒だ」
振り向きざまにそんな事を言う姫様。
だが、勇者召喚とはそう言うものかと落胆しながらも腹をくくった。
たしか、ゲーム上の設定であれば、この妖鎧が自分の魔力と同等以上の攻撃を受けない限りはノーダメージであったはず。今はそれを信じて突っ走るしかないんだろうな。
組織的な抵抗が行われていると言っていた通り、村に入るための城門はその辺りにあった部材でもって塞がれた厳重なバリケードをなしており、容易に進入出来そうにない。さらにその後ろには多くの魔族がたむろし、手には棒きれや武器、石などが握られている。
「行け!ドーカネ」
喜々としてそう叫ぶ姫様。
俺はユージンを連れ、城門へと走る。
魔族による投石は鎧に一切のダメージを与えることなく、俺たちはバリケードによって閉ざされた門へとたどり着き、輝鋼剣を振るって難なくバリケードを粉砕する。
「ドーカネに続け!!」
後方では姫様がそんなことを叫び、従えている魔剣騎士と共に走り込んでくる姿が視界の端に見えた。
俺は襲い来る魔族を次々と切り伏せていく、と言っても豆腐でも切るかのようにあっさりと両断できてしまうのでイマイチ斬っている感覚を覚えることがないのだが。
集まって来た魔族の身長は180センチ前後であり、上位個体が混ざっている様には見受けられない。
俺とユージンが魔族を斬り伏せていると、姫様たちもやって来て内へ内へと魔族たちを押し込んでいく。
さらに侵入口が啓いたことで兵士たちも殺到してきたことで、俺たちは魔族を払いのけながら村内へと走り込んでいった。
「姫様、どこへ向かえば良い?」
魔族を斬り払い、押しのけて何とか姫様たち魔剣騎士と合流した俺は次の指示を聞く。突入前に村の構造など聞かされていないのだ。どこへ向かえばよいかすら全く分からないのだから仕方がない。
「村の中心には騎士館がある。この道をまっすぐ進めば堀に囲われた場所があるからすぐに分かるはずだ。まずはそこを目的地とする」
姫様は小柄な体に似合わない大剣を振り回しているが、振り回されている感じはしないので、どうやら身体強化の使い手なのだろう。
さらに魔剣と言うだけあって切れ味も良いらしい。と言う事は、謁見した時のアレは、魔剣に魔力を通していなかったか、俺に倒させるために敢えて攻撃しなかったんだろうか?
そう首を傾げながらも襲い来る魔族を斬り伏せながら、姫様の指示した方向へと進んでみれば、なるほど、堀で囲われた建物が存在する。
その向こうには堀を掘った分の土を盛ったのだろう土盛りがあり、村の割に立派そうな屋根が見えている。
堀には陸橋があり、中で知的な魔族が指揮していたとしても落橋の心配はなさそうだった。
「行け!」
姫様の声に従い、館の扉を蹴り破って進入すれば、
「なんじゃ、ありゃあ!」
館内にはこれまで見て来た見上げるような魔族ではなく、人間の小学生低学年程度の小型な個体が複数徘徊している。大きな個体は見当たらなかった。
「フィズル・・・・・・、まさか、そんな・・・・・・」
それを見たユージンが固まる。
「どうした、ジェネラルでも居たのか!」
走り込んで来た姫様が俺たちに尋ねるが、目の前の光景を見て口を閉ざした。
「お前たち、そこで待て。魔族の進入を許すな」
そして、後方へとそう指示を出し、ユージンへと声を掛ける。
「あれは何だ?幼体のように見えるが、どういうことだ。オスがすでに現れ、中にクイーンが居るとでも言うのか」
ユージンは答えに窮してしまっている。
「神官!」
姫様が更に声を荒げると、恐るおそる口を開いた。
「ジェネラルが子を産む体を作るために人を襲い、子を産める体になって為した個体がアレ、神殿ではフィズルと名付けているものになります」
「待て、お前は何を言っているんだ?人と魔族で子を為せる訳が無かろう!」
そう、種の違う生物同士なのだから、子がなせるはずがない。そのはずである。
「魔族でなければ、そうですね。しかし、魔族、中でもクイーンやジェネラルは必ずしもそうではありません」
それを聞いた姫様も黙るしかなかった。




