1-4 再会と番契約
すっかり立派に成長したツァハルトに導かれていき、王宮を進んでいく。ミリアナは必死に言い募った。
「ハルト……ねえ!わ、私と結婚するっていうの?私じゃ、貴方に釣り合わない。私、王太子妃になる資格なんてないもの!もしかして、昔にした、約束のせい……?それなら、反故にしてくれて構わないわ!」
しかしツァハルトは、全く聞く耳を持たなかった。
「竜神族は、番を一人しか作らない。俺は君としか、結婚する気はなかったよ。そのために、今まで色々と動いてきたんだ」
「そんな……!貴方は王子で、私はただの……辺境の、子爵の家の出だわ。私じゃ何も、貴方の力になってあげられない……!」
――――それに、何と言ったって、ミリアナは……この世界の原作ゲームの、ラスボスキャラクターなのだ。
ラスボス化のフラグは折ったものの、これから一体どんな危険があるか分からない。どこかでまたシナリオの強制力が働くかもしれない。
それに、ゲームのメイン攻略キャラクター……つまり、ヒーローであるツァハルトには、これから大きな困難が待ち受けているはずだ。
ツァハルトはヒロインと一緒にならなければ、その困難を乗り越えることは難しいだろう。
ミリアナの説得を聞かず、どんどん進んだツァハルトは、とある部屋に入り込んで、人払いをした。ここは彼の私室らしい。
立派なテーブルセットがある部屋から、奥に寝室が続いているのが見えた。二人きりになった後、ツァハルトはミリアナの手を引いて、ベッドのところまで連れて行った。そして掴んでいた左手を、見せつけるように持ち上げて言った。
「この指輪。まだつけてくれていたってことは、君も同じ気持ちじゃないのか?」
「そ、それでも……もう、昔と違うわ……っ!」
「俺は、ずっとミリーだけが好きだった。ミリーしか要らない」
「……!」
そんなの、ミリアナだって同じだ。数年振りに会えたツァハルトに、本当は抱きつきたくて堪らなかった。その青緑の目を見つめて、彼の香りをかぎたかった。
「ミリー。すごく綺麗になったね。……ずっと、好きだったよ。藍色のふわふわの癖っ毛も、野いちごみたいに赤い目も、昔と変わらない。もちろん、優しくてお人好しなところも、少し天然なところも、大好きだよ」
「で、でも……駄目、なのよ……」
「駄目なんて、言わせない。俺は今から、君をに口付けるよ、ミリー」
ツァハルトのはっきりとした宣言に、ミリアナは目を瞠った。彼の秀麗な美貌がすっと近づいてきて、唇に温かいものがふわりと触れる。――――キス、されたのだ。
そう思った瞬間である。二人を囲むように、琥珀色の大きな魔術陣が光り輝いた。次いでミリアナの首から鎖骨にかけて、紋様のようなものが浮き上がる。
「え…………?これ、なに…………?」
「今、番の契約をした。粘膜接触しないと、できないから」
「嘘…………!?わ、私……ハルトの、番になっちゃったの!?」
「そうだよ。竜人族が番の契約をできるのは、一生で一人だけだ。もう、逃がさないからね?ミリー」
ミリアナは青くなった。説得したら、ツァハルトの元を去るつもりだったが…………それは見透かされていたらしい。確か竜人族は、番との間でないと子を成せないはずだ。
「ミリー…………ミリー。やっと、俺のものになった。愛してるよ」
「そんな…………。私、私…………!」
「俺の元を逃げ出すつもりだったんだろうけど、もう諦めて」
ツァハルトはミリアナの顎を取り、またキスをしてきた。唇の表面を味わうように、薄い唇が這わされる。
「口、開けて」
「はぇ…………?」
「そう、上手」
思わず開けた口の隙間から、ツァハルトの分厚い舌が入ってきた。ミリアナの歯列をなぞり、怯えて縮こまった舌を絡め取られる。途中でぎゅっと抱きしめられた。ミリアナはツァハルトでいっぱいに満たされ、馬鹿になりそうなほどの幸福に浸った。やがて涙が滲んでくる。
「あっ……ふ……………………はると、はると…………っ!!」
「うん。ミリー、俺だよ」
「あっ……………………会いたかった、ずっと…………っ」
ミリアナはポロポロと涙を流しながら、本音を零してツァハルトに縋った。するとミリアナの頬にも、ぱたぱたと大きな雫が落ちてきた。ツァハルトも、泣いているのだ。必死に彼の頬に手を伸ばして、それを拭う。
「はると…………はるとっ」
「ミリー…………会いたかった。ずっと、こうしたかった…………!」
こうしてミリアナは、半ば騙し討ちのような形で――――ツァハルトの、『番』にされてしまったのだ。