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探求者ロジタールの苦悩  作者: 石たたき
第二章 糸を引くもの
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第36話 門扉を抜けて

「初めまして、お二人さん。この男といると退屈には事欠かないな。さて、奴の存在は消えたが、全く安全という訳ではない。あの影は神出鬼没な所があってな、君らが向かう場所があるのなら、とりあえずこの場から離れた方がいいだろう。成り行き上、俺もしばらくは同行させてもらう」


「頼もしそうな魔導士さんね、よろしく、私はルルーゼ、こっちの忍んでそうな男はフィッシャー。さて、向かうとしても一つしかないのだけれど……」


 もともと俺たちは屋敷を目指していた。そういう意味では目的地は決まっている。


「そうだな、それじゃ改めて屋敷へ向かおう」


 フィッシャーの言葉で俺たちは再び行動を開始した。途中、広く四方に注意を向けて行動していたが、これといった異常は見当たらなかった。


 やがて屋敷の前に立ったところで、俺はロングランとフィッシャーに声をかけた。


「事態は飲み込めているだろう。重要なのはこの屋敷が、俺の屋敷なのか、それとも別の者の所有しているものかということだ。俺はここから出発したのだから俺の屋敷だと考えるのが普通だが、念のため確認しておきたい。フィッシャー、ロングラン、どうだ、この屋敷を見て何か感じることはあるか?」


「そうだな、俺は特に変化はないと思う」


「俺も同じだ。こうしてみるといつも見ている俺の屋敷とも変わらないようだ」


 フィッシャーは俺の屋敷を二度訪れて外観を確認している。そして二人の言葉が事実なら、俺の屋敷とロングランの屋敷の外観は同じ、という結論にもなるが、それは今どうこう考える必要はないだろう。


 だが、この屋敷はとにかく変なのだ。


「ロングラン、君の屋敷はどうだか知らないが、俺の知っている俺の屋敷はどういう訳か内部が広くなったりするんだ。それでいて、向こうの仲間の証言によると外見は変わらないようなんだ」


「貴様の屋敷はどこか特別なようだな、俺はそのような事を経験した覚えはない。とにかく、それならば開けてみるまでこの屋敷の正体は分からない、ということか。扉の中にはモンスターがうじゃうじゃ、なんていう可能性もある訳だ」


 ルルーゼが変なものを見るような、それでいて興味深い眼差しを向ける。


「……あなたたち、よく分からないけど変な屋敷に住んでるのね」


「俺だって住みたくて住んでいる訳ではなくて……とまあ、この話はおいおいするとして、やはりドアを開けてみるしかなさそうだ」


 門扉を抜け、俺たちは屋敷の入口に近づいていく。


「それで誰が開ける?」


 俺の言葉で皆が一様に黙り込んだ。何が待っているのか分からない以上、やはり好奇心よりも一種の恐怖が勝るというものだ。


 わずかな沈黙ののち。


「まあ、ここは持ち主だろうな」


「私は元の屋敷とやらを知らないし、リアクションが取れないわ」


「俺は言わば不意に招かれた客であって、もてなされて然るべきだろう」


 この扉の先に待っているのが、元の世界の元の屋敷の風景か。

 はたまた別の世界の屋敷か、屋敷ではない別の何かなのか。


 とにかくこの扉は何につながっているのか分からない。


 この面子はどこかネジが外れていそうで、まともな所はまともだから困る。俺は一つ力ない息を吐いて、彼らの意見に従うことにした。


「反論しても無駄なようだな、それじゃ開けるぞ」


 俺が一歩踏み出すと同時に、三人は無言で一歩遠ざかる。俺は彼らと心理的な距離を感じながらも腹を決めた。


 空気がしんと静まり返り、周囲に差し込む日差しが心なしか冷たくになったように思う。俺は午後の陽だまりのスポットライトを浴びたように、一人きり、一歩一歩と門へ歩を進める。


「よし、それじゃ……」


 俺は息をのみ、そっと扉に手を当てた。そして力を込めて扉を開こうとした。


 その時。


 ……!


 俺は即座に手を引っ込め、そしてその場から勢いよく退いた。これにはさすがの三人も血相を変えて俺に近づく。


「一体どうしたというのだ」


 フィッシャーの言葉も耳に入らないほど、俺の思考は混濁していた。


 俺は荒々しい呼吸をしながら、返事をするのも忘れて、この扉と事象について改めて考えていた。


 俺が知る限りだが、内部にいる者が内部の扉に手をかけると、それはその者の世界につながる。そしてその道が閉じるまでそのままだ。もっとも、全てがそうだという訳ではなく、例えばロングランとの世界をつなぐ別口を開いたまま、新たな扉を開くとそれらの繋がりがリセットされてしまうような事象さえあった。


 一つの仮定として、ロングランは恐らく特別な存在なのだと思う。とはいえ、これにはまだ検証が足りない。奴の事はいったん置いておこう。


 さて、先ほどの話は屋敷の中から外に出ていくときの話だ。逆はどうなのだろう。つまり、外から中に入る場合だ。


 俺が屋敷の中にいる時ならば、俺が主人としての役割を得て、外から来る者を無意識に選別するようなことがあるのかも知れない。


 そして、俺が屋敷の主人としての立場を正式に得て、このドアを外から開くのは初めてになる。そのことをもっと前もって深く考えておくべきだった。


 とにかく、俺はかつて感じたことのない違和感を覚えた。


 扉に手を付けた時、俺の中にある映像が浮かび上がってきた。映像技術なんかであるように、扉が透けて、屋敷の内部に意識と視線が吸い込まれていくようなものだ。


 その映像はこうだ。


 正面には二階へ向かう階段が広がっているのだが、そこに謎の人物が腰かけている。姿は見えない、黒づくめ、というと安直かも知れないが、そういう表現しかできない。大事なのは、その存在を認識した瞬間、俺はかつて感じたことのない恐怖に支配され、戦慄したことだ。

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