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探求者ロジタールの苦悩  作者: 石たたき
第二章 糸を引くもの
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第29話 禍々しい存在

 似ている名前、そして屋敷に巣くう者。何となくいい予感はしない。俺は口を開く気にならず、会話をルルーゼとフィッシャーの二人に任せることにした。そもそも俺はこの世界について全くの他人であり、事態の把握は二人に任せた方が良いだろう。


 穏やかな木漏れ日が降り注ぐ中、俺は二人の会話を聞きながら、その背中を影となって歩いた。


「ふむ、王子、王国など、大きな局面で違いはなさそうだな。それ以外も似た点はあるが、俺の住んでいた世界と似通っている点の方が多い」


「そうね、あなたの話を聞く限り、外面というか、外観が入れ替わった世界、という認識をしてもらった方が話が早そうね。ただ」


「ただ?」


「いえ、やっぱり止めておくわ」


 二人の間に奇妙な間が入った。フィッシャーは一瞬、考え込んだのち、おもむろに口を開いた。


「マルフォーゼ家のことか? さきほどの件、もしかすると俺の方にも失礼があったかも知れない、それを繰り返さない為にも、何か言いたいことがあるのなら話してくれないか」


「……」


 ルルーゼは俄かに黙り込んだ。フィッシャーも深く聞き込むつもりはなさそうだったが、今後の関係性の為には解決しておかなければならない問題だろう。


「ならば俺から言おう。恐らく認識違いがあるだろうが、知っていることを話す。俺の知るマルフォーゼ家は、このマダイ王国にとっての盾であり、過去、何度も部隊を率い、隣国からの侵略を矢面となって受け止めた名門だ。後進の育成にも余念がなく、私兵団でありながら確固たる軍事力を持ち、かつそれを国の為に使うという見上げた者達だ。国家の指揮下には属していないが、国王が何より頼りとする領主。それが俺の知るマルフォーゼだ」


「それが、本当にあなたの知っているマルフォーゼ家?」


「そうだ、とはいえ、マルフォーゼ家はあまりに巨大。俺のような者では預かり知らぬ部分の方が多い。これは想像でしかないが、多くの闇を抱えているようなこともあろう」


「その様子では、確かに嘘は言っていないようね。……さっきは悪かったわね、のちほど改めて、私のことを話すわ」


 俺は二人が争いごとに発展しないかと恐れていたが、どうやら心配しすぎだったようだ。空気が軽くなり、緊張感が和らいだ。ルルーゼとの出会いは予想外だったが、ようやく俺の本来の目的である封印の解除、そしてその為のキーとなる王子の調査への舵取りへとつなげられそうな気がした。


 まだいくつか心配事はあるが、今はまず屋敷に戻ることだ。そこで二人の話を聞いて、今後の方針を練ろう。


 そう考えていた矢先のこと。


 フィッシャーを筆頭に、俺たち三人は屋敷への道を順調に進めていた。だがそのフィッシャーが唐突に足を止めたのだ。


「ど、どうしたのよ」


 ルルーゼがフィッシャーに問い掛ける。


「何か、とても不吉な予感がする。おい」


 フィッシャーは振り返り、俺に意見を求めた。


 もっともな話だ、その嫌な感じは屋敷の方角から漂って来ている。


「しかし、俺には何の心当たりもないぞ」


「ならば、確かめてみるしかあるまい」

「そうね、よく分からないけど行ってみましょう」


「いや、もうちょっと慎重に行った方が…」


 俺の言葉を聞くまでもなく、二人は足並みを揃えて歩きだしてしまった。


 もしかすると、俺以外の人間は、こういう好奇心旺盛で、チャレンジ精神に溢れた人間ばかりなのだろうか。よくそんなものでこの危険な世界を生き延びて来れたものだ。


 いや、これに関しては俺の考えすぎということもある。この先に足を踏み入れても、そこまで大きな危険はないのではないということを、二人は本能的に感じ取っているのかも知れない。屋敷からは並々ならぬ奇妙な気配が漂っているように感じるが、ここは彼らを信じて歩いていこう。


 俺も彼らに合わせる形で、危険を感じながらも、何となくの姿勢で屋敷へ向かった。


 しかし、そこで待ち受けていたのは、俺たちの想像を遥かに超えるものだった。


 屋敷までもう少しという所で、俺たちは一斉に足を止め、手ごろな木陰に身を潜めた。さすがの二人も空気を変えて、慎重な態度に切り替えた。


「ちょっと、どういうこと? あれはあなたの知り合い……? 何よあの禍々しい……」


 勝気なルルーゼでさえ、たじろいでしまうようなシルエットがそこにあった。


 姿はぼんやりしている。ただ、長身で、細身で、手先やつま先などはとても刺々しく、そして禍々しかった。その身の回りの空間は、闇に包まれているかのように薄暗い。そしてそのおぼろげな闇が、そのものの持つ長い腕や足に反射する光を際立たせているようだ。


 それは実体のようで、しかし本質は深い闇のようでもあった。もや状のものと、物質とが合わさったようなもの、と言えるだろうか。足元ははっきりせず、暗闇と化して地面に溶け入っているようにも見える。


 人間に宿る本能的な恐怖。それを一心に刺激するような存在だった。


 直接には見たことはない、しかしそれはよく物語で表現される悪魔の姿、シルエットそのものだった。角にしっぽ、奇妙なほどに細長い胴体に四肢。骨を思わせる、小さくとがった翼。見ているだけで胸が圧迫され、呼吸が浅くなる。

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