第3話 盗賊狩りは財布が幸せになる
今にも夢に見る。
初めてクレイモアにあったあの日を・・・・
「クレイモア・・・・・・フランベルジュです」
あの子は初めて勇者パーティーに来たときは今のように元気でお喋りな子ではなく根暗で物静かな子で頻繁に泣く子だった特に夜泣きが多かった。
私は唯一彼女の過去を知っていた。
状況は違えど大して私と境遇は変わらなかった。
襲われたのが魔族か野党の違いくらいだった
だからこそ彼女に私は自分自身を重ね合わせてしまったのだろう。
「グスッ・・・・お父さんお母さん」
その日の夜は魔王四天王と戦闘があり私達は満身創痍だったのでクレイモアの夜泣きはないと思っていたが夜泣きが始まってしまった。
何時もは放置していたのだがこの日だけは自然とクレイモアの小さな体を抱擁していた。
「大丈夫・・・・・」
「うっ・・・・」
多分、あの子はその時起きていたのだろう。
あの子の小さな腕が私の温もりを求めるように抱きついてきた。
その夜は雪が降る寒い夜だった。
✖
「何があったらあんなおっぱい星人になるんだか」
その日以降からクレイモアは私によく懐くようになり胸を揉むようになった。
育児をしている主婦の皆様の大変さが身にしみてわかった。
「さてとクエスト行きますかと」
私はベットから抜け出し昨日の夕飯の残りのカレーを食ったあとはシャワーを浴び歯を磨いて装備を整える。
「そ・の・前・にぃ♪」
私はマスターに隠しているヘソクリならぬ酒クリを【空間魔法】から取り出す。
今日飲むのは銀貨一枚のちょっとお高めの赤ワインだ。
アルコール度数は低めだが風味とかは途轍も無いらしいのでラッパ飲みでいく。
「プハァ〜!やっぱたまんねぇな仕事前の酒ってのはよぉ」
風味とかは良く分からないがスピリタスやウイスキーより度数が低くて飲みやすいのでいい酒だ。
昨日、ウイスキーの二日酔いで大変だったことを教訓にし学んだことだ!
※昨晩彼女はウイスキー一瓶をラッパ飲みしています
取り敢えず私は店の方に降りて中に入り厨房で昼の仕込みをしているマスターにクエストに行くことを報告する。
「ちょっと盗賊狩りしてくるね」
「おう、気を付けろよ」
「もっとなんかないのぉ〜」
「ねえ!さっさと行け」
「ヘイヘイ」
本当にマスターっていけ好かない人だから会話が弾まない。
だから、まだ独身なんだよ
「ユー・・・・今、俺のこと独身って言ったか?」
「イッテナイヨ!」
裏戸からマスターが顔を出していたので適当にはぐらかして厨房に押し込む。
無駄に独身って言葉に敏感なんだよなぁ
「【飛翔】」
私は【飛翔】で宙を浮きそのまま盗賊団のいると言われているキョンプまで遊覧飛行を楽しむことにした。
途中ツバメの羽が生えた魔族が襲ってきたがハエたたきで迎撃してあげた。
どっかで見たことあるような気もするが多分気の所為だ。
ツバメの魔族は可売部が無くて一銭にもならないので特に気にすることはない。
✖
〜廃墟の村〜
其処にはSランク指定盗賊団の【龍の瞳】の人間達が嬉々として襲撃した馬車と商人の亡骸から金品を強奪し自分達の馬車に詰め込み終わり火を囲んで宴会を開いていた。
「お頭あの商業馬車なかなかいい額の金銀財宝やらなんやらたくさん積んでて良かったですね」
「ハッ!俺様はあらゆる情報屋から仕入れた情報を照合して今日、この日に襲撃すれば確実だという日時を割り出しているのさ!」
「「「「流石、お頭スゲー!」」」」
「そうだろそうだろう!今日の俺は機嫌が良い野郎ども給金だ受け取りやがれえええええ!」
そう言うと【龍の瞳】の頭であるドラコマニンが袋いっぱいに詰められた金貨を袋から乱雑に握り取り空に向かって投げる。
まるで金の雨だ。
子分たちは頭の太っ腹具合に歓喜し投げられた金貨を拾い集める。
「お前何枚拾えた?」
「えーと私はね20枚!」
「お前スゲェな!ってお前誰だ!?アビャッ」
その言葉を最後に子分Aは頭部を輪切りにされ絶命し両手いっぱいに握られた金貨を地面に落とすが彼女はそれを嬉々として地面に落ちる前に神業とも言える早業で拾い麻袋の中に入れる。
「あんたの分も含めて21,22,23」
「野郎ども殺っちまえ!」
「「「「「わっかりやした!」」」」」
子分たちは抜剣するとその彼女に襲いかかるがそれも一瞬で全員が絶命する。
そして、金貨の入っているポケットのみが引き千切られる。
「コイツラの分も含めて50枚だ!やりぃ」
「お前!何者だ!賞金稼ぎか」
「どこにでもいる冒険者です」
彼女はローブを脱ぐとと金髪は揺らめく炎に煌めきその抜群のスタイルは男女ともに羨みそして、一度見たら忘れることのできない美貌の持ち主
「【勇者】ユー」
「元【勇者】ね」
「なるほど【勇者】であればその強さも納得できるがお仲間さんはどうした・・・・捨て猫か」
「パーティーを追放されたから捨て猫でも合ってるのかなぁ?」
ドラコマニンは不敵な笑みを浮かべながらユーに躙り寄る。
これは彼の最も得意とする戦法だ相手の注意を自分自身に引きつつ
ドガッ!
後ろから忍び寄らせた子分に相手を奇襲させる戦法だ。
この戦法で幾度となく自警団や各国の騎士団や賞金稼ぎ、冒険者を殺してきた。
今回も彼は上手くいったと確信した。
たとへ【勇者】といえども不意打ちをされれば元も子もない。
「バグゥッ」
子分の頭が吹き飛んだ。
たった一発の軽い裏拳で・・・・
ユーは後頭部を擦りながら恨み言を吐き散らす
「いったいなぁ。なにすんだテメェ!」
ドラコマニンの計画は完璧だった子分の使っていた混紡はタングステン合金から造られた混紡だ。
その気になればゾウの頭骨すら容易く砕くことのできる程の重量を持つ品であるのに目の前にいる【勇者】には痛い程度の感覚しかない。
「お前!あの棍棒はゾウの頭骨すら砕ける混紡だぞ!?なんで死なないんだ!」
「聞かないねぇ!【勇者】だから」
「そんな事があってたまるかァァォァァアアアアアアアアアアアアアア!」
ドラコマニンは自身の大剣を抜剣するとユーに向かって振り抜く。
大振りな剣技ではあるがその剣圧は周りの建物を切り裂き警戒態勢を取っていつでも援護に出れる子分たちをも切り裂いた。
「あーあー子分達皆死んでるよ」
「どうやら手も足も出ない用だな!これでも俺は剣術大会では負けなしなんでね!」
「へーそうなんだね。スゴイスゴイ」
ドラコマニンはある違和感を覚えたこの【勇者】を名乗っているこの女からは凱旋パレードで見たような覇気を感じない。
まるで抜け殻と対峙しているような感覚に陥った。
だが、先程の殴打の無効化はどうやったのかは簡単に説明がつく【結界魔法】で後頭部を保護していたからだ。
ドラコマニンの中で全てのピースがハマった瞬間だ
ドラコマニンはユーを無理矢理吹き飛ばすと体勢を立て直す
「お前!【勇者】の影武者だなあ!!」
「へ・・・・?」
「本物の【勇者】はこんなところに来るはずがないからなぁ〜」
ドラコマニンはユーの反応を見て確信したこいつは【勇者】の影武者だと!
✖
いや、この人マジで何言ってんの?
影武者だとかそっくりさんだとか本人目の前に罵詈雑言も酷いよね。
私だって女の子だから傷付いちゃう
金は馬車の中か・・・・まぁ、逃げられないように先に馬車にいた連中を静かに殺しといて正解だったかな
確かあのオッサン賞金首で懸賞金は生死問わずの金貨600枚だっけか
「今夜はパアッと行きましょうかねぇ」
「そんなことはない!!幸いお前は顔と体が良いからなここで俺の奴隷になるんだからな!」
「今のご時世それセクハラになるよ。あれ?セクハラって権力がないといけないからこれは只の痴漢なのか?」
私は残像が残る程の加速をしオッサンの首を獲りに行くがオッサンも中々の手練れらしく大剣でガードしたが・・・・
「無意味なんだねそれが」
「なんだとッ」
「あ〜あんたのお陰で残ったローン返しても全然余裕で懐が潤う。ごっつぁんです」
「お前・・・・本当に【勇者】かよ!?」
大剣を掌底で粉砕し首をそのままもぎ取り血が出てくる前に【空間収納】に放り込む。
だって汚いじゃん一応グローブしてるけどさ
だけど、さっきオッサンが死ぬ前に本当に【勇者】かよって言ってたけど猫被ってただけだしなぁ〜
✖
私は馬車の中の金銀財宝全て【空間収納】に放り込む。
途中途中に年代物のワインやら絵画や彫刻が出てきたけど朝イチにワイン飲んでみたけど美味いのかよく分からなかったからマスターにこのワイン一式は押し付けて。
絵画と彫刻とかのアート作品は・・・・・オークションに出せばいいか。
「こ、これは!?」
私はワインの中に紛れ込んでいたベントリュージュ地方のみで製造されている最高級ウイスキーβ601ウイスキーを発見する。
このウイスキーはグレードチェンジの影響で既に製造自体が止められていて今じゃ瓶しか残ってないと言われていて中身が未開栓状態のものは金貨60000枚は優に超える伝説級のウイスキーだ。
「ずっと飲んでみたかったんだよ!このウイスキーしかも未開栓だから飲めるしやったね」
これは【四次元収納】に綺麗に包装し他の酒達とともに入れておく。
今晩の晩酌用だ。
「A5ランク大和牛の牛スジ買って〜それをマスターに赤ワイン煮込みにしてもらってそれをつまみにウイスキーを飲む!最高の日にさりそうな予感♪」
商業用の馬車引き馬を逃して上げてと
私は荷物をまとめてその場を後にしようとするが
ドガァアアアアアアアアアァァァァァァァァンッ!
「今日みたいな素晴らしい日にはあんただけには会いたくなかったよ・・・・」
腰まで届く黒い髪を満月の透き通る月光に煌めかせながら空から襲撃しその場に巨大なクレーターを作った張本人。
そいつはその整った顔に獲物を見つけた飢えた猛獣のような猛々しい笑みを浮かべている。
全く風情がありゃしない汚い奴だ本当に・・・・お前だけは会いたくなかったと本能からそう思うやつ
ソレに襲撃された人間は全員口を揃えて言う『美女の皮を被った悪魔だ』と震えながら涙を流しながら言い放つ
確かにその意見には私も異論はない。
「この日を待っていたのだユー」
「私はあんたとは出来れば会いたくなかった。本気で」
「お前と本気で命の取り合いを出来るこの時を」
「勝手にチンピラ狩りでもしてろ戦闘狂が」
「俺はお前に今日こそ勝つのだ」
「いい加減諦めてくんないかねぇ」
彼女は顔を上げ月光のもとに素顔が晒される。
紅い瞳は魔力の影響で発光しただでさえ薄気味悪いのに顔に貼り付いた狂気を孕んでいる笑顔が更に不気味さを引き立てる。
そして、背丈の5倍はあるかと思われる巨大な鉈を軽々しく振り回すその彼女こそ勇者パーティーの私を除く4人目のメンバーであり唯一【勇者】の称号を持たない人物
「ラザイン・・・・・」