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和彦

和彦―――


俺はあさ美の事が好きだ。だから告白した。でも振られた。どうやら他に好きな人がいるらしい。振られた後からは話す事も少なくなった。あさ美は俺が告白した後も何もなかったように教室で普通に過ごしている。楽しそうに笑っている。ロングのサラサラの髪が風になびいてキラキラ光っている。あさ美から目が離せない。でも、俺はあさ美に振られてしまった…。

俺はあさ美なんて好きじゃない。大嫌いだったんだ……。そう必死で思い込んだ。


「うわっ!」

俺はわざと大きな声で叫び飛びのく。あさ美と教室の入り口でぶつかりそうになったのだ。

「キモッ」

俺はあさ美に聞こえるように言う。

あさ美は聞こえていたのか聞こえていなかったのか無反応だ。俺はまたイラつく。

「和彦、どしたん?」

クラスメートが声を掛けてくる。

「あさ美とぶつかりそうになってさ。アイツマジでキモくね?」

「?」

クラスメートは特に反応なく、離れていった。

何で俺に同調してくれないんだ?一緒に悪口言ってくれよ。ノリ悪いな。


「和彦、勉強はどうだ?」

父親は大学の教授。俺に自分の大学に入学してもらいたいようだ。もちろん俺もそのつもりで勉強している。

「和くんなら大丈夫よね。でも、英語をもう少し強化した方がいいかしら?誰かいい先生いたかしらねぇ。」

心配性の母親。この人は正真正銘のお嬢様育ち。私立のカトリックのお嬢様学校に幼稚園から大学まで通っていたからか、敬虔なクリスチャンだ。生まれてこれまで真綿でくるまれて外の世界に触れる事なく生きてきたんじゃないかって思う位頼りない。父親の言う事は絶対だと思っている。


俺も裕福な家庭で育ち今まで困った事はない。何でも手に入れてきた。あさ美以外は…。


「俺、そろそろ勉強してこよっかな。」

そう言って自分の部屋に行く。勉強と言えば親は部屋に近寄ってこない。

俺はベッドに横たわり、グループメッセージを開く。クラスの数人でやってるグループに入るとやり取りが始まっていた。

「和彦、遅い」

「ごめん、ごめん」

ほとんどくだらない話をしているだけだ。

課題の範囲、先生やクラスメートの悪口など。

俺はここでもあさ美の悪口を書き込んでしまう。

「あさ美ってウザくね?」

「何処が?」

「ぶつかりそうになったのに謝らないし、デブだから邪魔なんだよ」

「あさ美はデブじゃないじゃん。胸がデカイからそう思うんじゃないの?」

「確かに、あさ美胸デカイよなぁ。顔も可愛いと思うけど。」

クラスメートはあさ美を擁護する。

あさ美は可愛い――、あさ美は胸がデカイ――。

そんなの知ってるよ。俺の方がお前らよりあさ美の事ずっと見てるんだから。

「あさ美、付き合ってる奴いんのかな?俺、狙っちゃおうかな~。」

そのメッセージに俺は吐き気をおぼえ、メッセージの画面を閉じた。


「和彦君、課題出して欲しいんだけど。」

俺はビックリした。あさ美から声を掛けられたからだ。ただの課題提出の催促だが、俺は凄く嬉しかった。

「……」

「和彦君?」

あさ美が俺の名前を呼んでくれている。これが彼氏と彼女だったらどんなに幸せなんだろうか…。でも俺は振られている。付き合える可能性なんてほぼない。


ガタンッ。


俺は大きな音を立てて椅子から立ち上がり、課題のノートを黒板に向けて思い切り投げつけた。ノートはバサバサと音を立てて床に落ちた。


「うるさい!いちいち声かけてくんな。ノート拾って出しとけ。あさ美、お前ウザいんだよ。」

教室が静まりかえる。

自分でも止まらなかった。あさ美を傷付けたい訳じゃない。俺はあさ美に優しい言葉、愛の言葉をかける事はできない。その資格がない。それがとても悔しい、悔しい。


「ちょっと、和彦、酷くない?あさ美、大丈夫?」

あさ美の友だちがやってくる。あさ美の方をチラッと見ると目に涙がうっすらとたまっている。

「和彦のノートなんて出してやんなくていいよ。事情は先生に話せばいいしさ。」

あさ美は俺の机から離れていった。それでも俺の投げたノートを拾い上げてみんなの課題を職員室に届けに行った。


「お前があさ美の事嫌いなのはよく分かったけど、ノート投げるのは駄目だろ。」

「あ~、俺も引いたわ。嫌いなら無視すりゃいいんじゃね?」

グループメッセージに俺を非難するメッセージが届く。女子からも、

「最低」

だの

「あさ美を泣かすな」

だの

「あさ美に謝れ」

だの猛攻撃を受けている。

俺が悪いのは分かってる。はぁ~っと大きなため息をついた時、

「思ったんだけど、お前あさ美の事好きなんじゃねーの?だから意地悪して気を引こうとしてるとか?」

「だったら分かるわ。お前があさ美の事悪く言い出したのつい最近だし。好きなんだったら優しくしてやれよ。」

俺は核心をつかれてビックリして何も返信できなかった。でも、でも、何か言い訳しないと…。

「ない、それは絶対ない。あさ美の事なんて好きじゃない。」

本当は好きなのに。大好きなのに。

「ノート投げたのは悪かったとは思うけど、あさ美だって俺が嫌っている事分かってるはずなのに声掛けてくるからムカついちゃってさ。」

少し間を空けて返信がくる。

「俺はお前はあさ美の事好きなのかなと思ってたんだけど…、あのさ2組の奴に頼まれてたんだけど、お前ラブって知ってるだろ?」

「ラブ?あ~田中?」

田中愛と書いてタナカラブと読む。凄い名前だなと思って覚えていた。

「そう、田中。あいつお前の事ずっと好きだったみたいで、仲取り持って欲しいって言われてたんだよ。だけどあさ美の事どう思ってるか分からなかったから…」

「あさ美と俺は全く関係ないから!」

「ラブはさ、ちょっと抜けてるけどいい奴だから一回遊びに行ってみてくんない?」

俺はあさ美の事を好きだとこれ以上疑われるのが嫌でラブと遊びに行く事にした。


俺はラブと付き合う事になった。

はっきり言ってタイプでも何でもないが、ラブは俺の事を好きだと全力で伝えてくる。休み時間になると俺の教室にやってきて抱きついてきたり、やたらスキンシップが多い。俺はあさ美の方を伺うが、あさ美は普段通りだ。此方を見る事なく友だちと楽しそうに喋っている。俺とラブが付き合っているのはみんな知っている。少しでもヤキモチを焼いてくれないだろうかという俺の気持ちは宙ぶらりんだ。


俺はその気持ちをラブにぶつけた。ラブが俺の事を好きな事を利用した。

ラブを抱いた。何度も何度も抱いた。あさ美の代わりに、やっぱりあさ美が好きだなと思って抱いた。何度も、何度も…。


俺はあさ美を避けるようにしていた。

教室でもすれ違わないように…、近付かなければあさ美を傷つける事もない。

ノートを投げつけて怒鳴り散らしてからは女子が結託して俺にあさ美を近寄らせないようにもなっている。影であさ美が賢いから妬んでいるだの、「DV野郎」とか呼ばれているのはクラスの女子が聞こえる位大きな声でわざわざ言ってくるから嫌でも聞こえてくる。


ラブが妊娠した。

あれだけ抱けば妊娠もするだろうと俺はぼんやり考えていた。(勿論避妊はちゃんとしていたけど。)

ラブはニコニコして、「赤ちゃんを産みたい、和君と結婚する。」と言っている。

俺たちは高校生。流石に無理だ。それにおれは最低だがやっぱりラブの事は好きじゃない。

どうしようもなくなり、各々の両親に話した。俺は父親からボコボコに殴られ、母親は放心状態で泣き続けていた。そして両家で話し合い、泣きじゃくるラブをなだめお腹の赤ちゃんは中絶してもらった。両親はラブの両親にずっと謝罪していた。俺もラブに寄り添った。中絶の処置をする時も病院まで付き添った。

ラブは泣きながら俺と別れたくないと言った。俺も別れないと答えた。ただ先の事は誰にも分からない。俺の口から出た言葉はその場しのぎのラブを黙らせる為だけに発せられたものだった。


ラブの親が中絶の件を学校に話してしまった。慰謝料は充分払ったはずなのに、何かが納得いかなかったのか学校に全てバレてしまった。俺の両親は激怒していたが、その怒りは俺にも向いた。父親は俺を自分の後継者として育てたかったようだが、もう俺はいらないそうだ。高校を卒業したら、家を出て働くように言われた。家には帰ってこなくてもいいと言われた。母親は泣いてばかりで「お父さんの言うことは絶対だから…。」と味方にもなってくれない。

そしてもっと最悪なのが、学校だ。ラブの中絶の件はあっという間に広がり今では俺は「妊娠中絶男」と呼ばれ男子からは冷やかされ、女子からはゴミを見るような目で見られている。俺とぶつかりそうになった女子は

「うわっ、妊娠させられちゃう!」

と飛びのいて逃げていってしまう。

はっきり言って凄くムカつくし傷つく。

俺はこんな酷い事をあさ美にしていたんだな…、因果応報ってあるんだなと思った。












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