魔界での退屈な日常
第1話 魔界での退屈な日常
1
薄暗い洞窟の中。「門」が開かれる。表の世界と魔界パンデモニウムをつなぐ門だ。リッリッサ・アウレリウスと竜王様は魔界に帰ってきた。
この場所は、竜王様の巣。悪魔たちさえ近寄れない不死なる竜の聖域である。リルは、門をくぐる時、魂が2つに引き剥がされる感覚を感じた。そして、門を通り抜けた時には、自分の中に悪魔の存在を感じなくなっていた。不死なる竜の聖域には、悪魔のリルは、立ち入れなかったようである。
「門」が閉じられると、竜王様は、洞窟の中の定位置で、丸くなって寝そべった。
「キウ。」
魔力が回復するまで、ここで休むと、竜王様は言った。
リルは表の世界に竜王様を連れて行くため「元素還元」の魔法で、竜王様の魔力を抜き取っていた。というのも、魔界の獣は、蓄えた魔力の量に応じて体の大きさが変わるのだ。表の世界で、リルたちと共に生活を送るためには竜王様の体は大きすぎた。それで、リルは竜王様の魔力を抜いて、体を小さくした上で、表の世界に連れ帰ったのである。表の世界では、毎晩リルが竜王様に「魔力吸収」の魔法を使うことで、竜王様を小さいまま維持していた。
竜王様の本来の姿は巨大である。普通の不死なる竜の大きさが体長50メートルくらい、翼長80メートルくらいであるが、竜王様の本来の姿は、それよりも一回り以上大きい。対して、今の竜王様の体は、リルの片腕と同じくらいだ。多分60センチくらいだろう。翼は小さく、とても空を飛べそうもない。竜王様が本来の姿を取り戻すまでに、相当な量の魔力が必要だと思われる。
しかも、魔界は、表の世界に比べて、魔力の元になる「エーテル」の濃度が薄い。動物は呼吸をして大気中に遍在するエーテルを取り込み、それを心臓で魔力に変えるのだが、エーテルの薄い環境下では、当然魔力が貯まるのも遅くなる。要するに、竜王様はとてつもなく長い時間、寝そべって休む積もりなのだ。
「みゃ。」
リルは、自分もそうすると答えた。リルは不死なる竜の言葉、竜語を喋ることが出来るので、竜王様との会話は、基本的に竜語だ。ただし、竜王様はとても聡明で、人語を解することもできる。
リルと竜王様の魔界でのぐうたらライフが始まった。
魔界では、日が昇ったり沈んだりしない。いつも昼だか夜だか分からない、薄闇に包まれている。竜王様の巣は洞窟の中なので、完全な暗闇だ。時間の感覚は全く当てにならない。竜王様の魔力がどのくらいの時間で元に戻るのかも分からない。ついでに、竜王様の魔力が戻った後、どうするかもノープラン。リルは、どうするかは、りゅうおうさまの、まながもどったら、かんがえればいいか、と思って、今は、竜王様と一緒にぐうたらすることにした。
体を丸めて寝そべっている竜王様の隣で、猫のように丸くなった。竜王様が、見かけによらず長い舌を伸ばし、リルの首筋をペロペロなめている。くすぐったい。
「うみゅう・・・。」
思わず声が出た。ただ、リルは少し変な気がした。今まで長い間(あくまで人間のリルの尺度でだが)竜王様と一緒にいたが、今のように、なめられたのは初めての経験だ。リルは、まあいいか、と思い、深く考えないことにした。リルは、悪魔の知識を持っているので、知識は豊富だが、考えるのが苦手である。
することもなく、だらだらしていると、急激に眠気が襲って来た。リルは知らず知らず寝てしまった。
どのくらい眠っていたか分からないが、リルは目が覚めた。
「みゅ。」
竜王様におはようのあいさつをする。竜王様が昨日?よりちょっと大きくなった気がする。いつも寝る時は枕元に置いてある愛用の槍と比較して、リルが小さくなっていないことは明らかだったから、本当に竜王様が、大きくなったのだろう。リルは、りゅうおうさま、いがいとはやく、もとにもどるかも、と思った。
2
それからも、リルのぐうたらライフは続いた。竜王様の巣の周りには森しかない。外に出ても退屈なので、竜王様にじゃれついてみたり、特技の液体化した猫の真似を披露したりした。何故が、毎日?1回だけ、必ず竜王様にペロペロなめられた。
竜王様は、リルの予想よりかなり速いスピードで大きくなっていた。以前、リルが魔界に滞在した時の感覚だと、表の世界でなら、1日休めば魔力は全快するが、魔界では、表の世界より3倍か4倍くらい魔力の回復に時間がかかる。竜王様の、エーテルを魔力に変換する能力が人間より優れているのか、それとも、意外と少ない魔力で竜王様の大きな体が維持されていたのか。いずれにしろ、ぐうたらライフは、そんなに長く続きそうにない。リルは、まかいでもできる、あたらしいたいくつしのぎを、かんがえないと、と思った。
そんなある日?のことである。リルは、例によって、竜王様に、ペロペロなめられた。すると、リルは急に体が重く感じ、呼吸も少しだけ速くなった。久しく感じていなかった、魔力切れの兆候だ。それで、リルは急にある可能性に思い至った。
「みい?」
リルが竜王様に尋ねた。それに対し、竜王様は、
「ギイ。」
と答えた。何と、竜王様のペロペロは、負属性の魔法だったのだ。リルは、さすがりゅうおうさま、と思った。
次の日?。リルは、そろそろぐうたらな毎日?に飽きてきたし、魔力切れ問題を放置もできないので、竜王様の巣の周りにある森に出掛けることにした。リルは、
「み。」
と行ってきますの挨拶を竜王様にして、巣を出た。竜王様の巣の出入り口は相変わらず狭いが、竜王様が今くらいの大きさなら何とか通り抜けられるだろう。
外の森は、前来た時と変わらず、巨大な同じ様な見た目の木が等間隔に規則正しく生えている。木は生物らしい温もりにかけ、石の柱にさえ見える。そして、やっぱり昼だか夜だか分からない薄闇に包まれていた。
魔界の森をてくてくと歩いていると、大型魔獣サイズの、8本足の軟体動物型の魔界の獣が現れた。特に名前はついていない獣である。獣はリルに気付いたらしく、うじゅる、じゅると地面を這ってリルの方に近寄ってきた。リルは、えものはっけん、と思った。獣の目玉とおぼしき2つの丸い玉のちょうど中心を、愛用の槍で貫く。獣は、地面にへちゃあと広がって、動かなくなった。その隙に「魔力吸収」の魔法で、獣から魔力を奪い取る。以前魔界に滞在していた時より、お腹いっぱいになるまで時間がかかった。ゴボゴボッと音を立てて、獣が再生を始めている。お腹いっぱいまで魔力を吸い取ったら、獣はちょっと小さくなった。獣が完全に再生して動き始めないうちに、リルはすたこらさっさとその場を立ち去り、竜王様の巣に戻った。竜王様の巣に帰り着いた時も、やっぱり辺りは昼だか夜だか分からない薄闇に包まれていた。
「み。」
リルはただいまのあいさつをして、竜王様のところに行った。それからいつも通りじゃれついた。竜王様は、リルの首筋をペロペロした。くすぐったくて、
「うみゅう・・・。」
と声が出る。その後急に眠気が襲ってきて、リルは眠ってしまった。
3
魔界、表の世界を通じて、この世界における魔法は、魔法の核となる属性式と術式の組み合わせで構成されており、属性式の周辺をグルリと様々な術式が取り囲むことによってできる紋様を「呪紋」と呼ぶ。そして、魔法はこの呪紋を思い浮かべて魔力を集中させることにより発動する。呪文の詠唱は必須ではない。ある種の強化魔法のように、無意識に常時発動している魔法も存在する。
魔法は、当初、魔界の住民である悪魔が、表の世界の住民である人間などの知恵ある者に授けた。その際、魔法の属性は、火、地、毒、水、氷、風、雷、光、闇の9種類と教えたが、これは方便で、本当はこれらに无、負、穢の3属性を加えた12属性が、魔法の全てである。
このうち、負属性は、魔力の逆流を司る属性であり、他者から魔力を奪うなどの危険な魔法属性である。リルが使用している悪魔の魔法「魔力吸収」も、負属性の上級魔法であり、1撃で大量の魔力を奪うことができる。
リルが目を覚ますと、いつも通り竜王様の側で、守られるようにして寝ていた。竜王様は昨日?より更に大きくなっている。すでに胴体の太さだけで、小柄なリルの身長を超えるだろう。ただ、それでも本来の竜王様の大きさにはほど遠い。
リルは、竜王様が本来の魔力を取り戻したら、やりたいことを思いついた。いや、やらなければならないことと言った方が適切かも知れない。竜王様の22頭の娘たち、そのうち4頭はすでに天に召されているので、残り18頭。彼らについてのことである。
ただ、竜王様が、本来の魔力を取り戻すまで、まだ時間がかかりそうである。魔界に来てからというもの、愛用する槍の稽古もしていない。特に必要性を感じなかったからだ。この日もやることが思い浮かばなかったリルは、時々竜王様にじゃれついてみたりして、ぐうたら過ごした。竜王様はじゃれつくリルの首筋を、尻尾の先を使ってナデナデしてくれた。くすぐったくて、思わず
「うみゅう・・。」
と、声が出る。そうやって過ごして、リルがそろそろ退屈してきたころに、竜王様は、リルの首筋をペロペロする。やっぱりくすぐったくて、
「うみゅう・・・。」
と声が出る。これで、リルの魔力が竜王様に吸収されたはずだ。エーテルの薄い魔界でも、竜王様の心臓と、リルの心臓、2つの心臓で魔力を作れば、竜王様がその力を取り戻すまでの期間はかなり短縮されるだろう。竜王様のペロペロで、リルが魔力切れになりそうになれば、先日?のように、他の魔界の獣から「魔力吸収」で魔力を奪ってくればいい。ごうりてき、とリルは思った。ただ、その後すぐに眠気が襲ってきて、リルは眠ってしまった。
そんな調子で、ぐうたらライフを送っていたリルだが、2度目の「魔力狩り(魔界の獣から「魔力吸収」で魔力を集めることを便宜上、こう呼ぶことにする)」に出掛ける前に、早くも退屈に負け始めていた。今のリルは純粋な人間だが、幼いころから悪魔に融合されていたため、精神的には悪魔に近いところがある。そして悪魔は退屈が苦手なのである。
人間離れした量の魔力を持つリルは、竜王様のペロペロを数回は受けても魔力切れにならない。ただ、退屈だったので、竜王様の巣から出て散歩をすることにした。
「み。」
リルが竜王様に、行ってきますの挨拶をすると、竜王様の地鳴りのような声が響いた。竜王様は、賢しき者どもに気をつけるよう言ったのだ。ちなみに不死なる竜の一族は悪魔と対立していて、悪魔のことを賢しき者と呼ぶ。それをきいて、リルは、そういえばもうひとりのわたし、あくまのたわし(おねえちゃんのまね)はどうなったんだろう、と思った。
これまで、どの方向に歩いても、森の外に出ることはなかった。竜王様の巣がある、魔界の森は、想像以上に広そうだ。それでもなんとなくリルは魔界の森の外を見たくなったので、ててててと走ってみた。リルは生まれつき足が速かった。それに、どういうわけか、悪魔のリルを引き剥がされてしまった後も、悪魔の力を使うことができた。悪魔の脚力と悪魔の体力を併せ持つリルは、我々の世界の者で例えるなら、マラソンの男子世界トップレベルの選手に匹敵する走力がある。ちなみに短距離を全力疾走すると、100メートルを10秒くらいで走れるので、こちらも男子のトップ選手並みだ。
走り始めて20分くらい、いつもより早いタイミングで、魔界の獣と出くわした。大型魔獣並みのサイズで、獅子の胴体に、獅子、山羊、鷹の頭、背中に蝙蝠の羽根、尻尾の代わりに蛇の頭が生えた、いろいろごちゃ混ぜの獣である。名前はない。以前にこの種の獣と遭遇した時は、獅子の胴体にあると思われる心臓を貫いたら1次的に動かなくなった。頭は複数あるので、多分弱点ではないだろう。今回も空を飛びながらまっすぐリルのところに向かってくるごちゃ混ぜの獣に対し、心臓があると思しき胴体の中心付近を一突き。獣は動かなくなった。せっかくなので「魔力吸収」で、魔力を頂いていこうかと考えたが、獣はゴボゴボと音を立てながら、再生を始めていた。魔界の獣は例外なく不死なので、一時的に動きを止めることしかできない。魔力を奪うのに時間をかけて追いかけられるのも厄介なので、動かなくなったごちゃ混ぜの獣を置き去りにして、さっさと先を急ぐことにした。
それからしばらくててててと走っていたのだが、後ろから、バッサバッサと、大きな羽ばたきの音が聞こえた。振り返ってみると、さっきやっつけたごちゃ混ぜの獣がまた空を飛んで追いかけてきていた。リルが考えていたより、獣が再生するスピードが速かったのだ。いくらリルの足が速くても、大型魔獣サイズの空を飛ぶ獣に追いかけられたら、早晩追いつかれてしまうだろう。リルは、よわっちいくせにめんどう、と思ったが、逃走を中断して、獣を迎え撃つことにした。
飛んでくる獣の心臓辺りを再び一突き。獣に学習能力というのはないのか、また1撃で動かなくなった。これ以上追いかけられても面倒なので、まず「魔力吸収」で獣の魔力をお腹いっぱいになるまで吸収した。それから「元素還元」で、獣の魔力をエーテルに変えてしまう。獣はみるみる相似縮小し、リルの手のひらにのるくらい小さくなった。これくらい小さくすれば、空を飛んでもリルの足には追いつけないだろう。
変な獣につきまとわれて興が冷めたリルは、まだ動き出さないごちゃ混ぜの獣を捨てると、来た道を引き返した。もりのそとをみるのは、またこんど、と思って、竜王様の巣に引き返すことにしたのだ。
竜王様の巣に帰り着くころには、やっぱり昼だか夜だか分からない薄闇に包まれていた。竜王様の巣に戻ると、
「み。」
と、ただいまのあいさつをした。それから竜王様にすり寄ると、竜王様は、尻尾を使って器用にリルの首筋をナデナデしてくれた。くすぐったくて、
「うみゅう・・・。」
と、声が出る。それから、眠くなるまで、竜王様にじゃれついた。最後に竜王様が、舌でリルの首筋をペロペロしてくれた。やっぱり気持ちよくて、
「うみゅう・・・。」
と声が漏れる。そうすると眠気が急激に襲ってきて、リルは眠ってしまった。
翌日?。リルは、今日こそ、森の外を見てこようと、少し気合いを入れて、竜王様の巣を出発した。もちろん、
「み。」
と、行ってきますのあいさつは忘れない。
ててててと走って、昨日?と同じ方向に向けて進んだ。その方向が森の出口に近いという確信はなかったが、なんとなくその方向に進むといいことがあるような気がしたのだ。昨日?ごちゃ混ぜの獣と遭遇した地点まで来たが、この日?はまだ獣とは遭遇していない。ついてる、とリルは思った。ただ、幸運ばかり長く続かない。それから半時間ほど走り続けると、
「グルルル。」
と、鳴き声がして「双頭犬」という、魔界の獣が現れた。その名の通り首が2本ある犬のような獣で、大型魔獣ほどのサイズがある。双頭犬は犬のような見た目通り、嗅覚に優れ、走るのも速い。逃げ切れないので、迎撃することにした。ただ、相手の動きを止めないと、昨日?のように、再生した獣にまた追いかけられる危険がある。そこで、リルは、双頭犬に「血液凍結」の魔法を使った。血液を凍らせ魔獣の息の根を止める、氷属性の戦術級魔法だ。氷漬けにされた双頭犬はその場で動かなくなった。さくさんせいこう、とリルは思った。ついでに、凍っている双頭犬から「魔力吸収」で、魔力も頂いた。双頭犬は凍ったままなのにちょっと小さくなった。リルは、ちょっとふしぎ、と思ったが、とけるまえにきょりをかせごう、と思い直して、進んできた方向へと再び走り出した。
そのまま進み続けたが、一向に森の外は見えなかった。しばらくして、後ろから、
「グルルル。」
と、鳴き声を上げて、さっきの双頭犬が追いかけてきた。氷が溶けて、動けるようになったのだろう。さくせんしっぱい、とリルは思った。仕方がないので、昨日?と同じ手を使うことにする。双頭犬の方に向き直ると、迫ってくる双頭犬の2つの頭のうち、右側を持っていた槍で薙ぎ払い、左側を「虚空斬」の魔法で、切り落とす。2本の首を両方切られて、双頭犬は、ドサリと音を立ててその場に倒れ、動かなくなった。動かない双頭犬に、リルは「元素還元」の魔法を使い、魔力を抜き取った。双頭犬は、みるみる相似縮小し、リルの手のひらに乗るくらいの大きさになった。その間も、ゴボゴボと音を立てて、首が再生し続けている。
このまま森の獣につきまとわれ続けるのは、めんどう、と思ったリルは、引き返して、竜王様の巣に帰ることにした。竜王様の巣に帰り着くと、
「み。」
とただいまのあいさつをして、竜王様にじゃれついた。竜王様は、時々、尻尾の先で、リルの首筋をナデナデしてくれる。気持ちよくて、
「うみゅう・・・。」
と、声が漏れた。リルは、竜王様はだんだんおおきくなってるのに、しっぽをうまくつかってなでてくれる、きよう、と思った。リルがそろそろたいくつ、と思ったころ、竜王様は舌でリルの首筋をペロペロした。くすぐったくて、
「うみゅう・・・。」
と声が出る。それから、急激に眠気が襲ってきて、リルは眠ってしまった。
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翌日?以降も、リルは、魔界の森の外を目指して、竜王様の巣を出掛けるのだが、毎度毎度、弱っちいのに恐るべき再生能力を誇る魔界の獣につきまとわれ、森の外を目指すのを断念することを繰り返した。その際に、魔界の獣から魔力を奪って帰ったので、その日以降は、竜王様のペロペロで魔力切れになることはなかった。
何度か失敗しているうちに、リル自身、森の外を見るという目標がどうでも良くなってしまい、いつしか、竜王様の巣から出掛けることもなく、ぐうたら過ごす生活に逆戻りしていた。
そんな生活を続けているうちに、竜王様の大きさも、本来の大きさに近づいてきた。竜王様の魔力が元に戻るまで、あと少し。
そんなぐうたらライフを送っていたある日、リルは、竜王様のペロペロを受けた直後、自分の呼吸が少しだけ速くなるの感じた。魔力切れの兆候である。ただ、その後急激に眠くなり、リルは眠ってしまった。
翌日?、リルは、めんどう、とは思ったが、魔力切れを放置もできないので、竜王様の巣を出て、魔力狩りに行った。魔界の森を歩いていると、大型魔獣並みのサイズの蜻蛉の様な形の獣が現れた。リルは、飛びながら突っ込んでくる獣の、複眼の中心を槍で串刺しにした。それで獣は動かなくなる。「魔力吸収」で魔力をお腹いっぱいになるまで奪うと、獣は一回り小さくなった。それから、リルは獣が動き出さないうちに、すたこらさっさと元来た道を引き返し、竜王様の巣に戻った。リルは、そういえば、りゅうおうさまのすからでると、かならずまかいのけものにおそわれる、なんでだろう、と思った。
竜王様の巣に帰り着いてからは、
「み。」
と、ただいまのあいさつをして、それからはいつも通りぐうたら過ごした。そろそろというタイミングで、やっぱり竜王様はリルの首筋をペロペロした。そうすると急激に眠気が襲ってきて、リルは眠ってしまった。
その翌日?。目を覚ましたリルに竜王様の地鳴りのような声が聞こえた。竜王様が本来の魔力を取り戻したのだ。