卒業式
第15話 卒業式
1
オストニア王国、巨壁山脈東麓地方中部にある王城ウラジオ城。その3階にある国王臨席専用会議室で、1組の男女が密会していた。
「本日は、陛下にご報告いたしたいことがあって、参りました。」
「そのような他人行儀は不要だ。ここには私とお前しかおらん。」
国王ドラク2世は平素、臣下の前では「朕」という一人称を使う。自らを「私」と呼ぶ以上、それだけ心許せる間柄ということである。
「それでは、お言葉に甘えまして。お兄様、今日罷り越しましたのは、私の、騎士の中の騎士としての去就に関することでございます。」
女性、当代騎士の中の騎士であるァレンニッサ・アウレリウスが言った。
「いよいよか。」
「はい。チェストも成長し、ダモクレスを乗りこなしつつあります。今産休を頂いているエヴィータが復帰するタイミングで、チェストに騎士の中の騎士の称号とダモクレスの魔法騎士の座を譲ろうと考えています。」
「ようやくお前も役目から解放されるのだな。18年か。ご苦労だったな。」
「勿体なきお言葉。」
「お前が望むなら、王女として、王室に復帰させても良いと、私は考えている。」
レニは国王の妹であり、元は王女だった。ただ、彼女が王女でありながらアウレリウス本家の血を引いており、騎士の中の騎士となったのには、複雑な事情がある。
「お兄様のお申し出は、有り難くございますが、まだ、発展途上の子どもたちを、母として、先代として指導してゆかねばなりません。王室への復帰は、難しゅうございます。」
「そうか。」
国王は残念そうだ。本当のところは、国王はこれを機に、可愛がっている妹のレニを、アウレリウス家から取り戻したかったのである。
「全ては、血の定めです。お兄様も、私も。」
「そうだな。」
絶対君主である国王だからこそ、それがどうにもならないことは理解している。
「ともあれ、お前が騎士の中の騎士である間に、その力を使う機会がなかったのは僥倖であった。」
「そうとも限りません。私は、エカテリンブルに住む、不死なる竜の母娘が気になります。もう1人生まれ、3人になったとか。あの方々を疑いたくありませんが…。」
「不死なる竜か。あれの処遇はお前の決めた通りで良かろう。」
「私もそう思いたいのですが、どうにも自分の決断に自信が持てず。」
「後から悩んでも詮ないこと。自信を持て。」
「はい…。」
国王は、精一杯の言葉でレニを励ました積もりだったが、生来心配性のレニは、結局浮かない顔のままだ。
「それでは、陛下、失礼いたします。ご機嫌麗しゅう。」
「レニ…。行ってしまったか。」
最後に国王から距離を取るような態度を示して、会議室を辞去したレニの背中を、国王はただ見送るだけだった。
2
4月からアテラも初等部4年生になる。4年生になるとそれまでとは色々変わる。科目は、算数、西方史、魔法座学、魔法実技、武術の共通科目と、各学科の実習科目だ。共通科目は、教養が火曜から金曜に1日2コマ、魔法と武術は土曜に固まっている。このような時間割になったのは、表向き、義務教育が3年から6年に伸びた際、各学科ごとの実習の時間を多く確保することで、初等部のうちから将来の進路を見据えた教育をするという王立魔法騎士学園の理念をより確かなものとするためとされている。が、その裏では、児童の数が急激に増えるため、共通講義棟の教室が足りないという事情があった。4年生から6年生は、同じ教室を交替で使うことになる。
アテラの所属する家政学科の実習は、手芸と調理だ。調理についてはほぼ問題ないだろう。なにせ、アテラは、サヴォルの閉店時間後、リルと一緒に厨房に立ち、翌日の茶菓子の仕込みをしている。すでに客に出して代金を取れる出来だ。それに菓子作りは料理のエッセンスがつまっているとも言われている。強いて心配な点を挙げれば、包丁を持つ機会が少ないことだが、それも小さな問題に過ぎない。
手芸に関しては、全く未経験である。アテラの正体は不死なる竜で「人化」の魔法で、身につけるものを作れるから、手芸をする必要がないのだ。リルは、アテラが4年生の実習で困らないように、春休みのうちに、アテラに手芸の基礎だけでも教えておくことにした。リルは、その気になれば、糸紡ぎ、染め、機織り、裁縫、編み物と、服飾に関することはほぼ何でもできる。
学園前商店街の1番大きな服屋には、手芸用品を扱うコーナーがある。この店は、リルが人間だったころは、釦屋だった。その名残だろう。リルは、アテラを連れてやって来た。
「何買うの?」
「・・・はりといととはりやま、あときじ。」
「分かった。」
聞くと、アテラは、パパッと縫い針のセットと、黒い縫い糸、それに針山を籠に放り込んだ。リルは、端切れを見繕い、兎毛の不織布を選んだ。
「締めて50オースになります。」
この店は、定価があって、基本現金払いだ。リルは10オース銅貨を5枚払ったら、商品を持って、アテラと一緒に帰宅した。
翌日。休憩時間中に、リルはアテラを連れて、2階の寝室に移動した。
「・・・このはりのあなに、いとをとおす。」
アテラは、すんなり糸を通した。
「お姉ちゃん、できたよ。」
「・・・それからたまむすび。」
リルは、口で説明するより、実演した方が早いと思い、アテラの前で、玉結びを実演した。アテラは、それを真似て、玉結びをやる。すぐにできた。
「できたよ、お姉ちゃん。」
「・・・じゃあ、きほんのなみぬい。」
リルは並縫いも実演して見せた。アテラも真似して、布を縫った。縫い目もまっすぐな綺麗な並縫いが出来ていた。
「・・・まずは、これだけできればだいじょうぶ。」
「えへ、お姉ちゃんに褒められた。」
リルは、あてらはゆふぃちゃんとちがってできるこ、と思った。リルは、昔、義姉のユフェミッサが、襁褓を縫おうとして、挫折したことを思い出していた。
新年度が始まる4月。新聞を読んでいたリルの目に、ある記事が止まった。国庫繰越金が相当額貯まっているので、それを「ふるさと創生事業」と名付けて、各貴族領や国王直轄領(天領)が行う地域振興事業に国庫支出金として配分するというのだ。それも10億オース単位でだ。多くの貴族領や天領では、この事業で、大規模な箱物を作るらしい。リルは、めがひかるおっきいしゃこうきどぐう?と思った。国家予算のバラマキだとの記者の追求に、総理大臣は、煙に巻くようなコメントをしたらしい。言語不明瞭意味不明。
新学期開始に先立ち、武術の実技で使用する得物を選択する書類が届いた。現在のオストニアでは、街で暮らしている限り、魔獣と遭遇することは皆無だが、武術の授業は、オストニアで義務教育が始まった、主な理由でもある。今でも全学科共通で、武術の基礎を学ぶ実技科目がある。そして、武術の授業で用いる武器は、各自の得意な物を選択できるのだ。
「・・・なにがいい?」
リルは、アテラには、取り扱いやすいナイフがいいと考えていたが、勝手に決めるのも横暴なので、本人の希望を聞いて決めることにした。
「お姉ちゃんと同じの。」
アテラは、迷わず答えたが、リルの得物は槍だった。リルは、右手から槍を出し(「人化」の魔法の応用である)、
「・・・それだと、やりになる。」
と言った。リルは、正直、生まれてこの方、荒事と無縁の世界にいたアテラには、槍は大仰過ぎるし、何より難しいだろうと思った。
「じゃあ、槍。」
アテラも譲る気はないらしい。アテラは何をするにも「お姉ちゃんと一緒」なのだ。こうなると、説得は難しい。リルは、しゅういちじかんだけだし、まあいいか、と思い、アテラが授業で槍を使うことを認めることにした。
「・・・どらごん・すけいるのやりは、きれあじがするどくてきけん。・・・がくえんで、きのやりをかりてつかうこと。」
「はーい。」
ということで、リルは、アテラの得物を槍として、書類を提出した。
3
で、いろいろあって、新年度の授業が始まった。アテラは4年生なので、1、2時間目は、共通講義、4~6時間目は学科の実習だ。アテラのいる家政学科は、被服室と調理室があるので、学園の中でも結構な広さを占拠しているのだが、現在中等部に9人、初等部には5人しかいなかった。初等部の5人の内訳は、6年生2人、5年生2人、4年生はアテラだけ。アテラの入学後、家政学科は2年連続で入学者なしだったので、この年の1年生から募集停止になり、アテラの卒業と同時に、学科廃止が決まっていた。
最初の実習は、裁縫で、エプロンを作るというものだった。教官1人に対し、児童1人。文字通りマンツーマンの授業だ。最初に作ったエプロンを、この後の調理実習でも使用することになっている。ところが、アテラは、それが気に入らなかったようだ。
「お姉ちゃんが作ってくれたエプロンの方がカワイイ。そっちがいい。」
と、だだをこねて実習をサボタージュしたのだ。ちなみに、アテラは、サヴォルのウェートレスの制服から、エプロンを外した格好で普段から登校していた。リルのように、お出かけの時は、別の服装に「変身」する、ということはしていない。
困った教官は、
「仕方ありません。エプロンは、お姉さんが作ったものを使っていいですから、この裁縫の実習はやって下さい。」
と、折れるしかなかった。
結局、アテラは持ち前の器用さと、要領の良さで、最初の課題であるエプロンの裁縫を、予定より大分早く片付けてしまった。余った時間は、堂々と寝ていた。たった1人の児童がこれだと、教官も手持ち無沙汰だ。
授業が終わって帰宅すると、アテラはやっぱり、
「ただいま。お姉ちゃん、お勉強♪」
と言って、リルをテラス席に連れ出してしまう。エルマも、アテラの行動を黙認しているので、リルもアテラの勉強に付き合った。
4年生では、算数は三角形や円など、長方形以外の図形の面積や、分数の四則演算が範囲だ。西方史は、リルが初等部の児童だったころと同じで、テーマごとの通史を勉強し、編年体的に全時代を追うことはしない。扱うテーマも、リルが1、2、3年生の時扱ったテーマと、現在の4、5、6年生が扱うテーマは同じである。要するに、変わらないと言うことだが、各テーマとも、最後の方に、リルが初等部を卒業した後の事件が加わって、教科書も厚くなっている。リルが驚いたのは、各テーマの最初に、文字のない西方歴紀元前の事実も、口伝や考古学を頼りに判明した限りで教科書に追加されていたことだ。リルは、こうこがくだけにしゃこうきどぐうも、と思った。ちなみに遮光器土偶は、西方史の授業には出てこない。
「・・・さいしょにまほうをつかったのは、ばるばるぞく。」
「ふむふむ。」
「・・・でも、ほかのみんぞくにばるばるぞくからまほうがつたわったのか、どくじにまほうをはっけんしたかは、まだわかっていない。」
「すごーい。お姉ちゃん、物知り。」
「・・・とーぜん。」
こんな遣り取りは、昨年までと変わらない。
新年度最初の土曜日。土曜日は、全学科共通の魔法と武術の授業が固められている。1時間目は魔法座学。ただ、アテラは、幼いころにリルから魔法の原理を習っているので、授業は当然のように聞き流していた。
2時間目は魔法実技。やはりアテラは、初等部で習う程度の魔法は難なく使えるが、面倒だったので、適当に教官に言われたことだけやった。
3時間目は、武術。槍を選択した者は、アテラ以外は全員騎士学科で、4人。騎士学科は、武術の実技をすでに何度かやっているので、5人の槍グループの中で、アテラだけスタートラインが違う。しかもアテラは、槍の構え方も知らない全くの素人だ。教官は、他の騎士学科の児童に、2人1組で型の稽古をさせ、自分はアテラにつきっきりになった。アテラは、授業全般に対するやる気が欠けるので、全然槍の扱いを覚えなかった。
その日の放課後。土曜日は半ドンなので、アテラは昼前には帰宅する。
「ただいま。お姉ちゃん、槍ってどう使うの?」
と、アテラはいつものようにリルを連れ出そうとしたが、これから店が混雑する時間である。さすがにリルが抜けるわけにはいかない。
「・・・ひるすぎのきゅうけいじかんになったら。」
「分かった。待つ。」
ところで、すでにアテラは、今10歳だが、小柄なリルより大きくなっていた。リルは、アテラに、
「・・・そろそろ、うぇーとれすのおてつだいも。」
と、話を向けると、
「分かった。する。」
と、アテラも素直に、リルの言うことを聞いた。ただ、アテラは、リルに手が届く位置以上に離れようとしなかったので、リルの代わりにお盆を持つくらいはしたが、エルマとリルの2人の時と、仕事の効率はほぼ変わらなかった。リルは、まあ、まだこのくらいでいいか、と問題を先送りすることにした。
昼の混雑が一段落して、エルマが、目配せで、そろそろ休憩に入ってもいいと伝えてきた。
「・・・あてら。」
「うん。お姉ちゃんと、槍のお稽古♪。」
槍は長物なので、路地裏で振り回すには不便だ。なので、リルは、アテラを抱き上げて、サヴォルの屋根の上に、ひょいと飛び乗った。
「お姉ちゃん、力持ち。」
ちなみに「人化」の魔法は、重さまでは変えられないらしく、アテラは見た目に反してとても軽い。
「・・・まず、やりをかまえて。」
リルは、右手から槍を出し、アテラのお手本になるよう、基本の構えをして見せた。アテラも、リルを見習って、槍を出して構える。「お姉ちゃんと一緒」であることに関しては、完璧なアテラは、見事にリルがしている通りの構えを見せた。
「・・・それから、きほんのかた。」
「はーい。」
リルは、槍の型の内、特に基本的と思われるものを披露していった。アテラも、リルの動きを寸分違わずトレースする。リルは、このくらいできれば初等部の共通授業は乗り切れるだろうと思われるところまで、型を披露した。アテラの真似も完璧だ。りるは、あてら、まねっこじょうず、と思った。
「・・・これだけできれば、じゅうぶん。」
「分かった、お姉ちゃん。」
そろそろ店に戻らないといけない時間だったので、リルはアテラを抱えて、路地に飛び降り、店に戻った。
翌週。アテラに槍の扱いを教えていた教官は、1週間で別人のように上達していたアテラに、度肝を抜かれた。
そんなこんながありつつ、日常が流れ、前期試験があった。アテラは、筆記試験は全科目満点だったが、実技科目は態度がよくないという理由で、ちょっと減点された。
4
前期試験の成績発表が終われば、夏休みである。エカテリンブルの街では、ふるさと創生事業の交付金を使って、屋内水練場の整備が進んでいた。市内から出るゴミを燃料に水を温めるので、夏以外でも水練ができるとの触れ込みだ。ゴミを燃やした灰も、周辺の農村で、肥料として使うらしい。
夏休みの初日に、リルは、アテラに夏休みの宿題を確認した。
「えーとね、算数ドリルと『夏休みの敵』だよ。」
4年生になると、読書感想文はないようだ。「夏休みの敵」は、西方史と魔法座学の問題集だった。それぞれ100題、一問一答形式の問題が出ている。どれも春学期の復習なので、リルが見ていなくてもアテラひとりでできるはずだが、アテラは、
「お姉ちゃん、私が勉強するとこ、見てて。」
と言って、サヴォルのテラス席にリルを連行して、宿題をやった。
さて、それはそうと、夏休みの学園前商店街は暇である。リルは、飽きもせず、いつもの古本屋にやって来た。勿論アテラも一緒だ。
「玄人姉妹のお出まし。来ると思ってたぜ。」
リルは、行動を先読みされたことに少しイラッとしたが、リルが表の世界に戻って来てから、毎年夏休みの始めに古本屋に来ている。読まれても仕方がない。リルは、いつも通り無言、無表情で、本棚の本を選んだ。
「さて『世界は要らない物で溢れている』『48時間』『新オストニア風土記』に『アマチュアリズム~余暇の流儀~』か。どっかから怒られそうな本ばっかだな。新しい本だから、4冊で1000オースだな。」
リルは、それをうるみせがいうこと?と思いながらも、100オース札10枚を支払って、店を出た。
「毎度。また来てくれよ。」
その後の夏休みは、とくに何事もなく終わった。売り上げも例年通りいまいちだ。
5
秋学期が始まっても、リルたちののほほんとした日常は続いた。アテラは、学園から帰宅するなり、
「ただいま。お姉ちゃん、お勉強♪」
と、リルをテラス席に連れ出す。アテラは相変わらず、授業は聞き流しているだけで、頭に入っていないようだ。賢くてもやる気がない。
勉強が終わると、リルはアテラを連れて、ウェートレスの仕事に戻るのだが、アテラはやっぱりリルに手が届く距離から離れようとしない。アテラにウェートレスのお手伝いをさせても、店の戦力が増えることはないのであった。
高原の長い冬が訪れ、年末年始の休暇を寝て過ごし、年明け授業が1ヶ月ほどあって、アテラの学年末試験である。筆記は、リルが教えているので、いつも通り満点。実技科目は、授業態度に改善が見られないと言う理由で、前期より減点された。
学年末試験の成績発表のあとは、春休みである。長期休暇中は、どうしても客が少なくなる。客のいない時間、エルマはカウンターの中で、器用にも立ったまま寝ていた。リルは、なんとなくエルマがいつも眠そうにしているのが気になった。
春休みのある日、新聞を読んでいたリルに、ある記事が目に止まった。以前「冷めたピザ」と酷評されていた内閣が、懲りずに新たな政策を打ち出したのだ。今回も、国庫繰越金が貯まりすぎたためそれを吐き出すのが目的らしい。リルは、ぜいきんのとりすぎ、と思った。
新たな政策は「地域振興券」という金券を、15歳未満の子どもがいる世帯に配るというものだった。アテラが10歳なので、対象である。地域振興券は、通貨ではないので、居住している地域でしか使えない。それから有効期限も半年。
その後、商店街の組合に尋ねたら、地域振興券を使えるお店は、事前に領主に書類を提出して、登録し、かつ地域振興券が使えることを掲示しないといけないらしい。学園前商店街の店は、ほとんどが登録するそうだが、リルは手続が面倒だったので、サヴォルでは地域振興券は、使えないことにした。
4月に入って、実際にアテラの分の地域振興券が届いた。無料で配られた物で、しかも有効期限があるので、使ってしまわないと勿体ない。リルは、アテラに、
「・・・ほしいもの?」
と聞いたが、アテラは、
「うーん。特にない。お姉ちゃんが使っていいよ。」
と答えた。リルも本くらいしか思いつかなかったので、いつもの古本屋に行った。
「地域振興券?うちは登録してないぞ。」
リルは、うちとおなじ、と思った。ただ、有力な使い道が1つ減ってしまった。そこで、リルはまだ行ったことのない、新刊書店に足を運んだ。当然ながら、エカテリンブルにも普通の本屋はあるのだ。
初めて行く本屋は「反省堂」という屋号だった。リルは、ひととはかりてちゅうならざるか、ほうゆうとまじりてしんならざるか、ならわざるをつたうるか、と思った。一緒に着いてきたアテラは、?を浮かべている。
本屋に入って、すぐ右の本棚を見たら「民商法1~7」や「刑法総論・各論」など、法律専門書ばかりだった。何故かどれにも、背表紙に銀杏のマークが付いている。そのまま目線を上に上げると「法学」と棚に書かれている。この本屋は、大学の近くなので、大学の教科書も売っているのだ。リルは、ここはちがう、と思った。ただ、法学の棚に何故か「強制の作法」という本があったので、気になって手に取ってみたら、値段が3000オース以上した。地域振興券は券面100オースが5枚綴り。桁が違う。
気を取り直して、リルは、入り口から左の一般書のコーナーを見た。「シェフの友」や「首都公論」、「平々凡々」などの雑誌が並ぶ棚を過ぎると、様々な書籍が整然と並んでいた。本棚の手前に「1984上・下」というハードカバーの本が平積みにされている。上下セットで、505オース。値段的にはちょうどいいが、なんとなく気に食わなかったので、買わなかった。その他「反省堂」では、これ、と思う本に出会えなかった。
翌朝。リルは、アテラと一緒に日課の散歩をしながら、地域振興券の使い道を考えていた。すると、いつも新聞を買っているキオスクに「地域振興券使えます」という掲示がされていた。リルは、!と思った。急いで地域振興券を取りに戻り、券面100オースの地域振興券1枚で、その日の新聞を買った。リルは、しんぶんいつかぶん、と思った。
6
西方歴3001年4月。アテラは初等部5年生になる。なぜかこの1年でアテラの身長は伸びなかった(「人化」の魔法で作った仮の姿だが)。
5年生の科目は、4年生と変わらない。平日の3、4時間目が共通講義で、1、2時間目と5、6時間目が実習になる。算数は、立体の体積や、割合、速度などの概念を勉強する。西方史は、テーマはリルが初等部の児童だったころと同じだが、やはり西方歴紀元前の出来事が考古学などのに基づいて、教科書の記述に加わっていた。リルは、どぐうせんしはざらきをとなえた、と思った。ちなみにこの世界に相手を即死させるような危険な魔法はない。戦略級以上の魔法はある意味もっと危険だが。
土曜日は半ドンで、5年生は、1時間目に武術、2時間目に魔法座学、3時間目に魔法実技という日課である。アテラの能力なら、武術も含め、これらの科目は特に問題あるまい。
放課後、アテラが帰宅するなり、
「ただいま。お姉ちゃん、お勉強♪」
と言って、リルをテラス席に連れ出すのも、今まで通り。アテラが授業を聞き流しているだけなのも、今まで通り。
6月のある日。
「ただいま。お姉ちゃん、三者面談だって。」
帰って来るなり、アテラが言い出した。リルは、そういえば、わたしがにねんせいのときもあった、と思った。念のためエルマの方を伺うと、任せると、目配せで伝えてきた。三者面談には、保護者としてリルが出席することになった。日程を確認するために、アテラから連絡のプリントを受け取ると、前期試験ギリギリのタイミングだった。リルの記憶では、三者面談は、学科毎に順番に行っていたから、人数の少ない家政学科は、最後に回されたようだ。
三者面談当日。リルは予定の時間に合わせて、学園に向かった。面談の会場は、家政学科の被服室だった。並んでいる机の数から、往時はこの学科も相当数の児童がいたのだろうと推測された。ただ、今は家魔もあるし、良妻賢母的な価値観も薄れつつある。2年後に迫る家政学科の閉鎖は、時代の変化を象徴している様な気がした。
アテラは、先に座っていて、リルが被服室に入ってくると、
「あ、お姉ちゃん。こっちこっち。」
と、リルが座る保護者席を指さした。リルもアテラに従い、席に着く。
程なくして、家政学科の教官が入って来て、三者面談が始まった。
「あ、えーと、あなたが保護者?」
「・・・ちいさいからこどものまちがわれるけど、もうおとな。」
「そうそう、お姉ちゃんは大人なのに小さいんだよ。」
「お姉さん?お母さんは、いらっしゃらないのですか?」
「・・・」
「ママは、お店で忙しいんだって。」
話し出すタイミングを取られた。
「分かりました。それでは、本題です。アテラさんの今後の進路ですが?」
「お姉ちゃんとママと一緒にサヴォルで働く。」
「と、本人は言っていますが、ご家庭の方針も、その通りで?」
リルは無言で頷いた。
「中等部への進学のご予定は?」
「早く、学校卒業したい。」
「と、本人は言っていますが?」
「・・・うちはがくれきふもん。」
リルの言葉をどう解釈したものかと、教官は少し悩んで、
「中等部へは進学されないと?」
と、解釈することにした。リルは無言で頷いた。
「それで、アテラさんの授業態度のことなのですが。各教官から、言われたことしかしない、と報告を受けています。私の担当の実習でも、課題が終わると、寝てしまいます。」
リルは、よそうどおりのはなしがでた、と思った。
「・・・あてら、せんせいのいうこときいてる?」
「うん、聞いてるよ。」
正確には、聞き流している。
「・・・ならもーまんたい。」
「あの…。分かりました、保護者の方がそれでいいのでしたら。それで、共通講義の教官からは、指名しても『ふにゃ?』としか返ってこないと苦情が出ておりまして。」
リルは、これもよそうどおり、と思った。
「だって、先生の授業より、お姉ちゃんとお勉強する方が楽しいよ。」
「・・・ということらしい。」
リルとアテラの態度に教官は頭を抱えた。
「分かりました。筆記試験は、ちゃんと成績を残していますし、ご家庭ではしっかりご指導をお願いします。」
「お願いします。」
「・・・おねがいされます。」
こうして、あまり実りのない三者面談は終わった。リルとアテラは、被服室を並んで退出する時に、
「・・・」
「失礼します。」
また話し出すタイミングを取られた。
三者面談が終わると、すぐに前期試験の期間に入った。アテラは、例によって、筆記は全て満点だが、実技科目は、態度が全然改善しないと言う理由で、前年以上に減点された。
前期試験の成績発表が終われば、夏休みである。屋内水練場は、いよいよ形になってきて、来年中には開場するそうだ。
夏休みの初日に、リルは、アテラに夏休みの宿題を確認した。
「えーとね、算数ドリルと『夏休みの敵』だよ。」
前年と同じである。どれも春学期の復習なので、リルが見ていなくてもアテラひとりでできるはずだが、アテラはやっぱり、
「お姉ちゃん、私が勉強するとこ、見てて。」
と言って、サヴォルのテラス席にリルを連行して、宿題をやった。
さて、それはそうと、夏休みの学園前商店街は例年通り暇である。リルは、飽きもせず、いつもの古本屋にやって来た。勿論アテラも一緒だ。
「毎度。」
今回は、古本屋の店主の出迎えもシンプルだ。リルは、いつも通り無言、無表情で、本棚の本を選んだ。厳選した4冊を、会計に持って行く。
「さて『糾問法廷傍聴録』『貧困の哲学』『オリエンタル紡織殺人事件』に『織工哀史』か。相変わらず堅気じゃないねぇ。4冊で500オースだな。」
リルは、これをうってるみせもかたぎじゃない、と思った。100オース札5枚を支払って、店を出る。
「毎度。また来てくれよ。」
その後の夏休みは、とくに何事もなく終わった。売り上げも例年通りいまいちだ。
7
秋学期が始まっても、リルたちののほほんとした日常は続いた。アテラは、学園から帰宅するなり、
「ただいま。お姉ちゃん、お勉強♪」
と、リルをテラス席に連れ出す。アテラは相変わらず、授業は聞き流しているだけで、頭に入っていないようだ。ある意味、三者面談で宣言した通りだ。
勉強が終わると、リルはアテラを連れて、ウェートレスの仕事に戻るのだが、アテラはやっぱりリルに手が届く距離から離れようとしない。アテラは5年生になっても、ウェートレスとして店の戦力にはならなかった。
長い冬が訪れ、年末年始の休暇を寝て過ごし、明けて西方歴3002年。年明け授業が1ヶ月ほどあって、アテラの学年末試験である。筆記は、いつも通り満点。実技科目は、授業態度の悪さが目に余ると言う理由で、前期より更に減点された。
さて、そんな中、(1年の前期を除き)筆記全て満点という驚異的な成績を残しているアテラの、飛び級卒業が、5年生担当教官の間で議題になった。学年主任の教官がまず発言する。
「これほどの成績は、万能の天才オルティヌスの妹以来だそうだ。何故かその妹の名前が記録から抹消されていて、不明なのだが。」
「しかし、主任。アテラ君は、授業態度が悪すぎます。予習もほぼしていない様子ですし、指名しても『ふにゃ?』としか言いません。」
算数担当の教官が反対意見を口にした。
「家政学科担当はどう考えている?」
「はい。学科担当としましては、言われたことしかしない態度にとても苦労させられています。それに私情を挟んで恐縮ですが、アテラさんは初等部家政学科最後の卒業生になります。ちゃんと6年間面倒を見てあげたいと思っています。」
家政学科担当教官の意見を聞き、学年主任の教官は、
「やはり消極意見が多いな。では、アテラ君の飛び級卒業を教官会議の議題に上げるのは止めるぞ。」
とまとめた。居並ぶ教官からは、
「異議なし。」
の声が聞こえる。ということで、アテラは4月から6年生に進級することになった。
学年末試験の成績発表のあとは、春休みである。
この年の春休み、学園から1通の通知が届いた。水練場が完成するので、学園でも本格的に水練をカリキュラムに取り入れることになった。ひいては、水練で使用する水着を用意されたいという内容だった。
いきなり水着と言われても、ピンと来ない。そこで、リルは、商店街で1番大きな服屋に、水着を見に行くことにした。勿論アテラも一緒だ。
服屋に入ると、これを商機と捉えたか、入り口の正面に水着を着たマネキンが堂々と展示されていた。マネキンを見たリルは、すくみず、と思った。
「お姉ちゃん、これが水着?」
「・・・ん。」
リルの「ん」は大体肯定である。それで、形さえ分かってしまえば「人化」の魔法で再現できるので、物を買う必要はない。リルは、ひやかし、と思って、何も買わずに店を出た。
「お姉ちゃん、買わなくていいの?」
「・・・まほうでさいげんできる。」
「そっか。」
その晩、リルとアテラは「人化」の魔法で水着を再現する実験をした。まずポフンと、リルの姿がスクール水着姿に変わる。
「すごーい。じゃあ、私の番。」
アテラも、ポフンとスクール水着姿に変わった。
「できた。あれ、お姉ちゃんのおっきいのに、私はツルペタだよ?」
「・・・おとなとこどものちがい。」
「じゃあ、私も大人になったら、おっきくなる?」
「・・・たぶん。」
などと、益体ないことを言いながら、2人だけの水着ショーは終わった。
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6年生になっても、科目は変わらない。平日の5、6時間目が共通講義で、1~4時間目が実習になる。算数は、簡単な1次方程式や、平均など統計学の初歩を勉強する。西方史は、テーマはリルが初等部の児童だったころと同じだが、やはり西方歴紀元前の出来事が考古学などのに基づいて、教科書の記述に加わっていた。リルは、いまにみていろはにわげんじん、ぜんめつだ、と思った。なお、西方の紀元前の遺跡で埴輪が出土した事実はない。
土曜日は半ドンで、5年生は、1時間目に魔法実技、2時間目に武術、3時間目に魔法座学という日課である。アテラの能力なら、武術も含め、これらの科目は特に問題あるまい。
放課後、アテラが帰宅するなり、
「ただいま。お姉ちゃん、お勉強♪」
と言って、リルをテラス席に連れ出すのも、今まで通り。アテラが授業を聞き流しているだけなのも、今まで通り。ただ、リルには、アテラが4年生になったころから見た目の成長が見られないことを不思議に思っていた(それでもリルより頭半分くらい大きい)。
前期試験も間近な6月下旬。武術の時間を利用して、初めての水練の授業が行われた。武術の時間は、使う武器によってグループ分けされているが、水練は学年全員合同で行う。児童は全員、水練未経験だからだ。
オストニアにも、川や湖はあるが、水棲魔獣が棲息しているので、泳ぐには向かない(生身で魔獣と戦える戦闘力があれば別であろうが)。エカテリンブルの街の近くにも川が流れていて、上水道の水源にもなっているが、泳ぐ人は今までいなかった。屋内水練場が出来て、オストニア人も、泳ぐ練習が出来る環境が、歴史上初めて整ったことになる。
水練の授業が始まると、準備運動の後、児童たちはおっかなびっくり水の中に入るのだが、ここで事件が起きた。アテラだけ、水に浮いてしまって、水中に入れないのだ。水の上で、足を投げ出して座る長座(テディベアのような座り方)状態だ。それもそのはず、アテラは、見た目は魔法で誤魔化せるが、質量は、本来の姿である幼竜体の時のままなのだ。幼竜体でも、水に浮くほど軽いので、それが人間大になったら、比重はとても小さくなってしまう。
「先生、沈まない。」
「む。こんなこともあるのか。仕方ない。アテラ君は、上がって見学していなさい。」
我々から見たら超常現象だが、幸か不幸か、水練の経験は教官たちにもない。目の前で起きている異常事態を、異常と認識できなかった。結局、アテラは、おっかなびっくり水に顔をつけたり、背面浮きをする同級生たちを、ぼんやり眺めていた。
その日の放課後。ことの顛末をアテラから聞いたリルは、このくだり、りゅうとうだび、ふしなるりゅうだけに、と思った。
王城ウラジオ城にある小さな執務室。そこに1人の影が現れた。
「報告します、室長。」
室長と呼ばれた男は、書類仕事を続けながら、耳だけ影の方に向けた。
「例の、不死なる竜の母娘のことです。」
「話せ。」
「これまでの調査で、不死なる竜が魔界からこちらの世界に現れた理由につながる手がかりは得られませんでした。本当に、人間としての生活を楽しみたいだけなのかも知れません。」
「分析はこちらの領分だ。」
情報調査室には、シアン、マゼンダ、イエローの諜報員の他に、情報分析を専門的に担う人員もいる。慣例的に、諜報員のことは調査員、分析官のことは室員と呼ばれていた。室長は、調査員のトップであるシアン0、マゼンダ0、イエロー0の上長だが、室員からの叩き上げで、情報分析を主な任務としている。
「引き続き監視を続けろ。」
「了解。」
影、マゼンダ0は、音もなく執務室から消えた。代わりに別の影が現れる。
「報告します、室長。」
「今度はイエローか。何だ?」
「国際奇特教団というのをご存じでしょうか。」
「唯一神ヤーウェを崇拝し、その他の神を邪神と呼ぶ、奇特な連中か。」
「はい。あれが、西方で勢力を伸ばしています。」
「所詮はカルト教団だ。問題があるようなら西方諸国が対応するだろう。」
「は。」
「報告がそれだけなら、早く任務に戻れ。」
影、イエロー0は、音もなく執務室から消えた。代わりに別の影が現れる。
「報告します、室長。」
「1日で3色揃うのは、私が室長になってから初めてだな。何だ?」
「現在、出島に滞在しているグランミュールの商人の中に、先ほど話に出ました、奇特教徒がいるようです。」
「そんなこと、無視して構わん。」
「は?」
「他の商人と同様に、通常の監視をすればいい。分かったな。」
「了解。」
影、シアン0は音もなく執務室から消えた。
「カルト教団が、我が国に入り込む余地はあるまい。そんなものに気を遣うくらいなら、もっと有用な情報を取ってこい。」
水練の授業のがあった次の週から、前期試験の期間に入った。アテラは、例によって、筆記は全て満点だが、実技科目は、このままの態度では将来が心配と言う理由で、前年以上に減点された。
前期試験の成績発表が終われば、夏休みである。 夏休みの初日に、リルは、アテラに夏休みの宿題を確認した。
「えーとね、算数ドリルと『夏休みの敵』だよ。」
前年と同じである。どれも春学期の復習なので、リルが見ていなくてもアテラひとりでできるはずだが、アテラはやっぱり、
「お姉ちゃん、私が勉強するとこ、見てて。」
と言って、サヴォルのテラス席にリルを連行して、宿題をやった。
さて、夏休みの学園前商店街は例年通り暇である。リルは、飽きもせず、いつもの古本屋にやって来た。勿論アテラも一緒だ。
「らっしゃい、今年も来たね。」
リルは、ことしもきた、と思った。リルは、いつも通り無言、無表情で、本棚の本を選んだ。厳選した4冊を、会計に持って行く。
「さて『暴坊天狗』『一揆』『魔脳戦艦デビウス』に『武士の挑戦状』か。この本の山からよくこれだけの本を見つけられるもんだ。4冊で500オースだな。」
リルは、てんしゅでもどこになにがあるかはあくしてないんだ、と思った。100オース札5枚を支払って、店を出る。
「毎度。次は春休みか。」
その後の夏休みは、とくに何事もなく終わった。売り上げも例年通りいまいちだ。
9
秋学期が始まっても、リルたちののほほんとした日常は続いた。アテラは、学園から帰宅するなり、
「ただいま。お姉ちゃん、お勉強♪」
と、リルをテラス席に連れ出す。アテラは相変わらず、授業は聞き流しているだけで、頭に入っていないようだ。リルもすでに、アテラの態度が改善するとは期待していない。
勉強が終わると、リルはアテラを連れて、ウェートレスの仕事に戻るのだが、アテラはやっぱりリルに手が届く距離から離れようとしない。アテラは6年生になっても、ウェートレスとして店の戦力にはならなかった。
高原の長い冬が訪れ、年末年始の休暇を寝て過ごし、明けて西方歴3003年。年明け授業が1ヶ月ほどあって、アテラの最終試験である。筆記は、いつも通り満点。実技科目は、授業態度の悪さが最早お手上げと言う理由で、前期より更に減点された。
最終試験の結果、アテラは、初等部家政学科を無事卒業できることになった。
2月30日。初等部、中等部、高等部関係なく、この日を以て学園を去る学生のために、卒業式が催される。卒業生にとっては、社会へと巣立つ、大事な節目だ。
式は午前中、最も多くの学生が入れる講堂で行われた。出席するのは、卒業生と教官、それに在校生有志だ。保護者は、式には参列しない。
学長の短い訓示の後、在校生たちに見送られながら、卒業生は学園を正門から去る。講堂から正門に至る道の両脇には、高等部魔法騎士学科の実習機が立って、道の上で剣を交差させて、花道を作る。リルが学園を卒業したころからあった、学園の伝統だ。ちなみに、現在学園の実習機は、第4世代型のスコピエスⅱで、「魔法鍛冶士泣かせ」と呼ばれる、疑似竜鱗の扱いに、高等部の魔法鍛冶士たちも、四苦八苦している。
花道を足早に通り抜けたアテラは、寄り道せずサヴォルに帰ってきて、
「ただいま。明日から、ずっとお姉ちゃんと一緒だね。」
と、喜々としている。リルは、なんとかろくねんかんあてらのしょうたいをかくしきれた、と安堵した。
これから、母娘3人の長い時間が始まる。




