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幕間 工房都市カメンスク

     幕間 工房都市カメンスク


 工房都市カメンスクは、巨壁山脈東麓地方南部にある中都市で、王立魔導従士研究所、通称ラボのある街です。本日は、私、ァレンニッサ・アウレリウスが、我が国の重要軍事拠点でもあるこの街を、ご案内いたします。

 カメンスクは、南北に走る街道によって、2分されています。街道と言いましても、オストニア街道や、シバリス街道の様に、大きな街道ではありません。魔導車が1両、ようやく通れる程度の細い街道です。この街道より西側が、主に居住区ですが、街道に面して、生活必需品を売るお店が軒を連ねる、小さな商店街があります。

 この町の住人は、商店街の方々を除いて、皆、ラボの関係者です。居住区も、ラボの研究員や鍛冶士が住む、宿舎ばかりで、ほとんどがラボの土地です。私有地は2カ所しかありません。所長の邸宅と、我がアウレリウス邸です。

 居住区は、巨壁山脈に連なる、傾斜地になっていて、西に行けば行くほど、つまり街道から離れるほど高くなっています。そして、街道の近く、低いところには、ラボ内部でも、まだそれほどの地位を得ていない人が居住し、ラボ内部で出世するほど、高いところに住めるという、都市伝説があります。実際には、街道沿いには、単身者向けや、夫婦2人世帯向けの宿舎が、高いところには、子どものいる家族向けの宿舎があり、そういったライフステージの変化と、組織内での出世がリンクし易い、というのが、真相のようです。

 街の北西側に突き出すようにして、1番高いところにあるのが、所長の私邸と、我が家です。所長の私邸の広さは、我が家より広いですが、今の所長は独身なので、広い邸宅にお1人で住んでいます。所長は、実は翼の民で、オストニアに帰化した方です。

 以前、300年ほど所長の座に居座り続け「ラボの(ぬし)」と呼ばれた、エルフの方が、いたそうです。その方が、高齢(エルフの寿命は500年ほどと言われています)を理由に引退された後、短い期間、ドワーフ族の方が所長でした。その方から今の所長に、変わったのは最近です。所長は「この椅子は亜人の指定席?」と、言っていますが、もちろんそんなことはありません。ラボは実力と実績で評価される組織なので、人間でも亜人でも、平等に所長になるチャンスはあります。ただ、翼の民の寿命は、400年ほどと言われていて、所長は、120歳くらいだそうですので、所長が引退されるのは、まだ先のことになると思います。

 一方、我がアウレリウス邸は、我が家に伝わる言い伝えによると、アウレリウス家がエカテリンブルに住んでいたころに暮らしていた邸宅の間取りを、そっくりそのまま真似た作りだそうです。この家は、当時の国王、レオン4世陛下が、アウレリウス家のために用意して下さったそうなので、エカテリンブルの家の間取りは、情報調査室に調べられていたのではないでしょうか。200年以上前のことなので、真相は分かりません。

 私たちアウレリウス本家は、現在、隠居されたお父様とその奥様(私の母は院にいます)、私と夫、下の娘のテリャリッサ(テラ)の5人で暮らしています。上の息子、次代の騎士の中の騎士(ナイト・オブ・ナイツ)になるチェストゥス(チェスト)は、もう王立魔法騎士学園に入学したので、寮暮らしです。春からは、テラも、学園に入ります。

 本家の話が出たので、少し脱線しますが、アウレリウス分家と呼ばれる家についても、説明させて下さい。

 分家の創始者は、オルティヌスの弟のマルセルス様で、歴代当主が皆、空軍司令に出世している、軍事の名門です。空軍の拠点は、王都近郊にありますので、分家の方々は、王都のお屋敷に住まわれています。王国の長い平和に貢献した功績から、伯爵の爵位を与えられています。

 レオン4世陛下の統治時代、爵位持ちの貴族は、王都に集住することが、義務づけられました。この政策により、貴族のお歴々の出費は、大層膨らんだそうです。まず、王都にお屋敷を持たねばなりませんでしたし、領地の経営を任せる代官を雇う必要もあります。そして、貴族が王都に集住していると、貴族同士で顔を合わせる機会が増えます。所謂社交界が形成されたのです。そうすると、身だしなみや、お屋敷の調度品も、爵位に見合った、豪華なものを揃えようとするため、間接的に出費は膨らむ一方でした。このころ、経済的苦境から、爵位を返上し、王都の屋敷を売り払って、ただの地主に成り下がった、元貴族の方が、それなりの数、います。そのため、現在、オストニアでは、爵位持ちの貴族は、本当の名門か、何らかの事業に成功して経済的に豊かな方々だけです。

 アウレリウス分家は、文官が多いオストニア貴族にあって、珍しい軍人の家系です。社交界とも無縁なので、先の話の例外と考えて下さい。

 分家に爵位があって、本家にないのは、騎士の中の騎士の居場所が、ッッッ指定の機密だからです。本家が爵位を得ると、私たちの居場所が、王都に特定されてしまいます。


 話を元に戻します。街道の東側には、ラボの工房群や、屋内演習場があります。ラボは、第0から第5までと錬金術工房の、合計7つの工房からなります。北から順に、第0から第5工房群が並んでいて、錬金術工房は、第1開発工房の東隣にあります。


 第0開発工房は、旧銀嶺騎士団が解散した時に、そのメンバーの受け皿として、街の北側に新設された、最も新しい工房です。第6ではなく第0の番号が与えられたのは、旧銀嶺騎士団の実績から、ラボの1工房となった後も、同じ様な華々しい実績を挙げることが、期待されたからです。ただ、それから200年が経ち、私たちが挙げられた実績は、ほとんどありません。工房の皆が歯がゆい思いをしていますが、これが今の私たちの、というより、銀嶺騎士団解散後の0工の現状です。

 0工には、開発以外に、もう一つ重要な任務が与えられています。それが、現存する最強の魔導従士(マジカルスレイブ)ダモクレス・シルフィードの運用です。ダモクレス・シルフィードは、量産機とは一線を画す性能があり、国家戦略にすら、重大な影響を与える機体です。

 あくまで仮の話ですが、その気になれば、私たちは、ダモクレス・シルフィード1機で、四大国家を除く、西方諸国の1国の軍隊を、全滅させられるだけの力があります。四大国家にしても、ダモクレス・シルフィードと渡り合える戦力は保持していません。というか、これはチーム・イエローの調査結果から明らかになったことですが、西方諸国の魔導従士の性能は、現時点においてすら、我が国の第3世代型を下回る性能しか、有していません。配備数も必ずしも多くないので、魔法騎士(マジックナイト)の腕次第では、四大国家の騎士団すら、ダモクレス・シルフィード1機で、全滅させることもできるかもしれません。

 またここで、少し脱線しますが、西方諸国で配備されている魔導従士の数が揃っていないのには、理由があります。魔導従士の心臓部、魔力(マナ)転換炉を作るには、魔獣の心臓から採取される、魔力結晶が不可欠です。ただ、西方では、400年ほど前に、魔獣を絶滅させてしまっているので、新たな魔力転換炉を生産することができないのです。オストニアで魔獣の牧畜が始まって以降は、魔獣由来の製品は全て禁輸されましたので、未だ魔獣の棲む、我が国から、魔力結晶を輸入することもできません。魔力転換炉は、半永久機関ですので、西方で魔獣が絶滅する以前に生産された、魔力転換炉を使い続けることはできるので、西方から、魔導従士がいなくなることはないと思いますが、増やすのは難しいのです。それこそ、西方大戦の準備として、帝国がとった、非人道的な方法でない限り。

 話を戻します。ダモクレス・シルフィードは、騎士の中の騎士とその配偶者の2人の魔法騎士で、操縦します。配偶者でなくても、2人直接操縦ダイレクト・コントロールを習得している騎士がいれば動かせるのですが、初代のエルヌスと妻のマルガリッサ依頼、夫婦で運用することが、慣例になっています。そのため、次代の騎士の中の騎士と、その許嫁は、幼少期から、ダモクレス・シルフィードに相応しい実力を付けるべく、過酷な訓練が課せられます。

 私は、先代女王と先代騎士の中の騎士の間に生まれた娘で、先代騎士の中の騎士夫婦には、子どもが出来なかったため、王女だった私が、父の戸籍に入り、騎士の中の騎士を継いだ経緯があります。

 私の夫は「オストニア一の富豪」ヴァルトフス伯爵の次男で、私と2人、初等部入学前から、アウレリウス式の厳しい訓練が課されました。貴族であれば、恋愛結婚や自由恋愛など夢のまた夢ですが、次代の騎士の中の騎士とその許嫁ほど早く、将来の伴侶を決められてしまう例も珍しい様です。


 第1開発工房は、魔導従士やその選択装備(オプション)の開発を担う、工房です。私たち0工のライバルということになります。これは、エルヌスに銀嶺騎士団創設を命じた国王レオン3世の意図、異質な者を同じ目的のために競わせることで、技術開発が活性化するという目的を、現在も、ラボの組織内ではありますが、維持しているためです。

 1工は、規律の緩い0工と異なり、工房長の権限が強い、トップダウン型の組織を持っています。ただ、1工も0工と同様、近年大きな成果を残していません。そう考えると、現在の魔導従士の技術のほとんどを作り上げた、エルヌスとオルティヌスの父子の、時代すら超越した天才ぶりが、よく分かります。

 ちなみに、1工の建物の上に所長室があります。今の所長は、ずぼらで、人と会いたがらないので、私は、父から騎士の中の騎士を継いだあいさつの際の1度しか、所長室には入ったことがありません。


 錬金術工房は、錬金術を用いて生産される、魔導従士や飛空船の部品の量産を担う外、錬金術による新素材研究も行っています。

 現状、オストニアの第4世代型魔導従士に使用される素材のうち、内骨格になる鋼鉄以外は、何らかの形で錬金術を使って作ります。第4世代型の従来型に対する優位性は、錬金術を用いて作られる素材にあると言って、過言ではありません。その生産を担う工房なのですから、ここには、現役魔導従士の基幹技術がつまっています。

 素材の量産の方はともかく、新素材開発は、錬金術工房も長らく、芳しい成果をあげていません。恐らく、第3世代型に用いられた、畜魔力素材の開発が、最後です。ただ、錬金の研究者たちは、疑似竜鱗フェイク・ドラゴン・スケイル黒竜血漿結晶クリスタライズド・ドラゴニック・プラズマを完成させた、オルティヌスの能力が異次元過ぎると、匙を投げた状態で、あまり開発の仕事に熱心ではありません。


 第2生産工房群は、我が軍の主力となる、魔導従士の量産を担っています。

 国王軍発足後、戦力配分の見直し、効率化が図られたので、第4世代型は、第3世代型より生産数が少ないです。しかも、第4世代型は、非常に丈夫で長持ち、おまけに国内の魔獣相手なら、ほぼ損傷なしで退治できる性能なので、新たに作り直す頻度も最小限です。そのため、2工は、現在、開店休業状態と言われています。


 第3生産工房群は、魔導従士の手持ち武器や、選択装備の量産を担う、工房です。

 3工は、本来なら、脇役部署と呼ばれていました。開発を担う1工や、主力機自体の生産を担う2工こそ、ラボの花形になるはずでした。ところが、現在、ラボの中で、最も仕事をしているのが、3工なのです。

 オストニアの魔導従士は、様々な種類の魔獣に対応できるよう、没個性で、拡張性が高いのが特徴です。魔法騎士は、任務の内容に合わせて、出撃する度に、装備形式を変えるのが普通です。しかも、魔法騎士毎に、得意な獲物は、まちまちです。剣や槍、戦槌など、用意しなくてはならない装備の種類は膨大です。しかも良くないことに、これらの手持ち武器は、魔導従士本体より、損耗が激しく、頻繁に交換が必要です。そういった理由で、3工からは、槌音が止む時間はありません。ご苦労様です。


 第4生産工房群は、魔導車や、強力従士(パワー・スレイブ)など、魔導従士と飛空船以外の、雑多な機体の生産を担います。

 強力従士については、小型で、構造も単純なので、民需用の強力鍛冶士(パワー・スミス)や、強力土木(パワー・エンジニア)強力穴掘(パワー・ショベル)など、ラボ以外でも作っています。今オストニアでは、都市部での、上下水道網の整備が、急ピッチで進んでいるので、これらの機体の需要も多いのです。4工が生産するのは、軍用の強力従士と強力鍛冶士の2機種だけです。

 一方、魔導車については、民需用も全て4工で作っています。現在、民需用魔導車の主力車種は「Г(ゲー)-07」で動輪3対のモデルです。使用する商人さんからのフィードバックを受けて、0工で6回モデルチェンジをしました。0工の数少ない成果です。軍需用は「(シェー)-01」で、動輪6対、無限軌道(クローラー)がついています。開発者は、オルティヌスの妹のモカイッサ様で、この車両も、200年以上進歩がありません。

 余談ですが、我が家でも魔導車を1両所有していまして、「(セー)-03」という、珍しい車種です。私が王都に出張する時などに、使っています。


 第5開発・生産工房群は、飛空船の開発と造船を担います。7つある工房の中で、最も大きな敷地を有しています。

 飛空船は、我が国では、用途別に、輸送艦(カーゴ・シップ)クラス、揚陸艦(ランディング・シップ)クラス、戦闘艦(バトル・シップ)クラス、飛翔母艦(キャリー・シップ)クラスに分けられ、基本的にワンオフ、同じ設計図で2隻と同じ船は作らないのが普通です。飛空船の新造は珍しいですが、一度受注すれば大事なので、2工ほど暇ではないそうです。

 これもチーム・イエローの情報なのですが、グランミュールを除く西方諸国は、今でも帝国制の、重力遮断魔法で宙に浮き、起風装置(ブロワー)で進む飛空船を使用しているそうです。飛行魔法で揚力を得て、起風装置と魔導推進器(マギ・スラスタ)を併用している我が国の船とは、蝶と蝗虫くらい、飛行能力に差があります。済みません、例えが分かりづらくて。


 以上が、工房都市カメンスクの全貌なのですが、住民の間では、もう1つの呼び名があります。「監獄都市」。それが、カメンスクの別名です。その由来は、1度入ると、外に出られないということです。

 実際には、全く街の外に出られなくなる訳ではありません。ただし、所長の許可が必要で、その許可は、容易には下りません。私は、王都への出張する時など、所長の許可が下りますが、普通の職員は、まず無理でしょう。それ以外で、許可が下りるとすれば、試験騎士(テスト・ナイト)をしている者が、子女をエカテリンブルの学園に入学させるときくらいでしょうか。

 街に入ってくるのも、軍関係者、それも総司令部か情報調査室の要員だけ、か、商店街のお店に商品を卸す商人さんくらいです。商人さんも許可された範囲以外に立ち入ると、投獄されます。

 軍事機密に関わる、とはそういうことなのです。

〈完〉

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