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見えない服を売る仕立て屋  作者: 北田 龍一


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笑う仕立て屋

 さて、そのころ仕立て屋さんはというと……別の国に次々と『賢い人にしか見えない服』を売って回っていました。仕立て屋さんは、服を売る相手を選びます。

 例えば、王城の上で胸を張る王様。

 例えば、すごい発見をした学者さん。

 例えば、たくさんの薬を作る魔女の人。

 そして……胸を張って、自信満々な人に向けて仕立て屋さんは売り込みに掛けます。


「どうです、立派な服でしょう?」


『何もない』豪華な入れ物を見せ、仕立て屋さんはニッコリと微笑みます。不審そうな顔をしていた相手も、次の一言で黙ってしまうのです。


「この入れ物の中には、特別な服が入っています。『賢い人にしか見えない服』が、ここにあるのですよ」


 そう仕立て屋さんが説明すると、相手は慌てて服を褒め始めます。しめしめと仕立て屋は、胸の中で笑いました。

 そうして、相手に見合った値段を示し……適当に値下げして売り払います。ただの豪華な箱と、ありもしない『賢い人にしか見えない服』を売った金で、次の国を目指します。


「けっけっけ……見栄っぱりから金をブン獲るのは簡単だぜ」


 仕立て屋さんは笑いが止まりませんでした。どんな国にも町にも、行けば必ずと言っていいほど、この方法に引っかかる人がいるのです。

 自分が偉いんだ。自分は立派なんだ。自分は賢いんだ。

 本当に偉いかどうかではなく

 本当に立派かどうかでもなく

 本当に賢いかどうかでもなく

『自分はすごいんだ』と考えている人が、仕立て屋さんの標的でした。


「そんなに相手を見下ろしたいのかねぇ……ま、こうして騙されている奴を『間抜けめ』と笑ってるオレも、そんなに変わらないんだろうなぁ……くわばらくわばら」


『賢い人にしか見えない服』を見た人間の反応は二つあります。

「服が見えない」と素直に言って、首を傾げる人と。

「服が見える」と嘘をついて、必死に服を褒めちぎる人がいるのです。

 どうして嘘をつくのか……それはすごく簡単な事でした。


『自分はすごいんだ』と思っている人は――「服が見えている事にしなければ、自分は賢くない、偉くない」と、認める事になってしまいます。『自分がすごいのだ』という考えが、間違っていると思いたくないのです。

 だから嘘をつくのです。だから見栄みえを張るのです。自分は立派ですごいから、服は必ず見えるはずなのです。そうでなければ……今まで偉そうにしていた分、誰かからこう言われそうで……怖いから。


『なんだい、あんなに偉そうにしているのにあの人は、『賢い人にしか見えない服』が、見えないじゃないか。あの人は自分が言うより、全然全く大したことがないぞ』


 それは自分が偉いと思うほど、大きくなる怪物です。虚栄心、というその心の中にいる怪物は、素直に『服がない』『何も見えない』と言えなくなってしまいます。そして買って、服を着たと言い張り、外に出で人に裸を見せびらかす事になっても……虚栄心の怪物が、こう囁くのです。


『周りのみんなは服が見えない、裸だって指さすが……本当に馬鹿なのはあいつらだ。『賢い人にしか見えない服』が見えてないから、あいつらはずっとずっと馬鹿なんだ』


 素直に考えれば、正直になれば、見栄を張らなければ、本当はすぐにわかるはずなのです。見えてなくても服を着ているのなら、肌に触れる感触があります。風が吹いたら寒いと感じる事も出来るでしょう。

 けれど、自分が騙されたとは、決して認める事が出来ません。そんな風に少し考えて、実は自分が騙されたんだと、ちらりと思ったとしても……また怪物が耳元で囁くのです。


『騙されただって? そんな訳ないじゃないか。自分は賢くて立派なんだぞ。詐欺にあったなんてみんなに知られたら、思いっきり馬鹿にされてしまうじゃないか。だから、ここに服はあるんだ。『賢い人にしか見えない服』は、絶対にあるんだ。そうでなくちゃならない』


 こんな風に考えてしまうから、誰も仕立て屋を訴える事が出来ません。そうして悩んでいる間に、仕立て屋はさっさと次の国に移るのです。豪華な空の箱と、いくつかの普通の服を運びながら。

 仕立て屋は怪物を飼っている人、飼っていそうな人を探して、積極的に声をかけます。そうした何十人と『賢い人にしか見えない服』を、売りつけてきたのです。


「実際に賢い奴も、本当は頭がよくない奴も、偉そうに踏ん反り返っているなら『お客様』さ。大体偉い奴は、カネも持っているし良い客になるけどな。へっへっへ……」


 仕立て屋は悪どく笑いますが、ある王様の事を思い出して、顔色を悪くしました。上手く売れたのですが、今までの偉い人と違ったのです。


「王様はみんな見栄っ張りと思ってたのに、あの国の王様は『服が見えない』って、素直に言った。学者には売りつける事が出来たが、あの国はもう行かない方がいいだろう。なぁに、自分は賢い、自分は立派だ、自分は偉いと思ってる奴なら、どこにでもいくらでもいるからなぁ……あの国に拘る事なんてないさ」


 仕立て屋はニンマリと笑います。その瞳で、怪物を飼っている人を探して、今日も『賢い人にしか見えない服』を売りつけるでしょう。自分はすごいんだぞ、偉いんだぞと胸を張る人を探して……

 果たして、素直になれる人がいるのでしょうか?

 果たして、仕立て屋を捕まえる人がいるでしょうか?



 怪物に、気を付けろ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「誰だいこんなとこに。また子供でも迷ったってのかい?」 「いえ、その……王様です」 「ふぁっ!?」  大笑いした。そりゃビビるよ!  魔女さいばんする側だし!?  魔女の知恵も借りる王様…
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