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見えない服を売る仕立て屋  作者: 北田 龍一


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賢い魔女の答え

 不気味で薄暗い森の奥、そこに魔女の住む家があります。

空は青空なのに、森には光がほとんど差しません。ギャアギャアとカラスが泣き喚き、薄暗い道はよく見えません。王様は少し怖くなりましたが、ここまで来て引き返すのも嫌でした。

 やがて王様は森の中に、煙をもくもくと吐き出す立派な家を見つけました。こんな場所にあるのが不思議なぐらい、頑丈そうな茶色のレンガの家です。王様は恐る恐る、扉を二回叩きました。


「誰だいこんなとこに。また子供でも迷ったってのかい?」

「いえ、その……王様です」

「ふぁっ!?」


 扉から顔を出したのは……フードをかぶり、伸びに伸びた鷲鼻の老婆でした。杖を突いて歩いていて、しわくちゃの顔と肌が見えます。宝石のようなエメラルドの瞳が、王様の姿を見てびっくり仰天していました。魔女のおばあさんは言い返します。


「あのね。ワタシが魔女って呼ばれているからって、からかうんじゃないよ。王様を騙るなんて、いい度胸じゃないか」

「はぁ……どうしてそう思うのです?」

「王様がこんなところに用事なんてないよ。あの人はお金を払えば、大体の物は買えるじゃないか。ワタシに頼む前に、商人なりお医者様なりにお声がかかるね。今はそんな噂は全くないよ。今ワタシに、王様が尋ねてくる理由なんてないんだ。分かったら帰った帰った」


 態度の悪い魔女のおばあさんですが、王様はむしろ期待を膨らませました。王様に知恵を見せた老婆に、王様は豪華な箱を見せました。


「それが……実はこんなことがありまして……」


 事情を話した王様は『賢い人しか見えない服』を、箱の中から取り出しました。魔女のおばあさんも見えるだろうと、王様は楽しみにしていました。

 ところが、魔女のおばあさんは眉をひそめて言いました。


「なんだいそれは? 空っぽの箱じゃないか」


 おや? と王様は首を傾げました。賢そうな魔女なのに、どうやら服が見えていないようです。王様はもう一度訪ねました。


「本当に、服が見えないのですか?」

「ワタシの目は良くないが……ちょっと待ってておくれ」


 魔女は道具袋から虫眼鏡を取り出して、箱の中を入念に調べていきます。しかし魔女はため息をつくばかりです。王様ものぞき込みましたが、やはり何も見えませんでした。


「ダメだね。服なんて見えない。透明になるマントや服なら知っているが……賢い人間にしか見えない服は、ワタシも聞いた事がないよ」

「しかし……町の学者さんは見えたと言っています。同じ服を着ていたとも」

「うん? それを王様は見たのかい?」

「私に服は見えませんでしたが、服を着ているらしい所は見ました。なので、上半身裸な姿を見ています。他にもこの服を売った仕立て屋は、色んな国を旅しながら、色んな王様に服を売っているそうです」


 その言葉を聞いた魔女のおばあさんは、急に大笑いをしました。王様は訳が分からず、ぽかんとしています。すべてを知った魔女のおばあさんは、王様に真実を伝えました。


「はっはっは……! それは仕立て屋に、どいつもこいつも騙されたのさ! しかし王様、アンタだけは引っかからなかったみたいだねぇ」

「どういう事でしょうか……?」


 ニヤリと笑って、魔女のおばあさんは答えます。


「その仕立て屋は、『賢い』『立派だ』とされている人に向けて、商売をしているに違いない。その『賢い人にしか見えない服』は詐欺だよ。立派な人たちのプライドの高さを、狙い撃ちにしたのさ!」

「と言いますと?」

「学者や王様なんてのは、周りから立派だの偉いだの言われてるからね。『賢い人にしか見えない服』を、まさか『自分には見えません』なんて言えない。それは『自分は賢くありません』と、仕立て屋に言う事になるからね」


 王様には、魔女の言うことがよくわかりませんでした。思ったことを、王様は魔女に言います。


「素直に言えばいいじゃないですか。見えないものは見えないでしょう」

「あらま。物腰の低い王様だね。だからアンタは引っかからなかった」

「?????」

「プライドの高い人はね、みんなみんな見栄っ張りなのさ。自分が馬鹿だと、誰かに言われるなんて耐えられない。だから服が見えなくても『見える』『いい服だ』と褒めちぎって、何とか買うしかないんだよ」

「……でも、すぐにバレてしまうのでは? 本当に何もないのなら……」


 王様の問いかけに、チッチッチと魔女は指を振りました。


「それがこの詐欺師の上手い所だね。存在しない服を着て、周りに裸を見せたとしても、こういう風にプライドを守れる。

『これは賢い人にしか見えない服だ。私が裸に見えている人間は、愚かな奴なのだ』……って、買ったやつは思ってしまう。そう思うしかない。でないと、自分が騙された間抜けになってしまうからね。見栄っ張りや、プライドの高い奴を狙い撃ちにする……よくできた詐欺だよ」


 しかし王様は納得できませんでした。学者さんは騙されてしまったようですが、賢くないとは思えません。王様は腕を組んで考え、魔女に言います。


「けれど……学者さんは本当に賢い人です。いっぱい勉強もしていますし、私の知らない事もたくさん知っている。悪い人ではないと思うのですが……」

「本当に頭がいいか、賢いかどうかの話じゃないんだよ、王様」


 魔女のおばあさんは、しわがれた鋭い声で言いました。


「これはね、『自分は賢いんだ』『自分は偉いんだ』と思っている奴が引っかかるんだ。本当は愚かでも、本当に賢くとも、ちょっとでも意地を張って、見栄みえを張った奴は誰だって引っかかってしまうんだ。ワタシも他人事じゃないかもねぇ……」


 そういって魔女のおばあさんは、にやりと笑い王様に服のケースを突き返しました。扉を閉めて消える前に、最後に一言おばあさんは忠告しました。


「ま、王様は変に見栄を張らないから、大丈夫だったみたいだけど……王様の周りの人には注意してあげるんだよ。『俺はこの国を支えているから偉いんだ』なんて考えていたら、この詐欺に引っかかって、どいつもこいつもお偉いさんが半裸になっちまう」

「それは大変ですね……みんなにも教えておきます。ありがとうございました」

「いいよいいよ、ワタシも勉強になった」


 王様はもう一度お礼を言って、森の魔女の元を去ります。

 あの仕立て屋がまた来るかは分かりませんが、魔女の忠告は正しいものに思えます。王様は急いでお城に戻り、みんなに気を付けるよう言いました。


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