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見えない服を売る仕立て屋  作者: 北田 龍一


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見せて回るも

『賢い人間にしか見えない衣服』を着た王様は、町の中へ歩いていきましたが……さっそく子供たちに質問されてしまいました。


「王様! 王様! どうして裸でいるのですか?」


 子供のお母さんでしょうか……慌てて口を塞ぎます。王様は困ったように答えました。


「実は……『賢い人間にしか見えない服』を買って、今着てみているのだけれど……そうか、君にも見えないかぁ……困ったなぁ……お母さん、あなたには服が見えますか?」

「え、えぇと……すいません。見えません」

「うーん……実は私にも見えないんだ。城に住む皆も、口をそろえて『見えない』と言っている。外に出れば誰か、服が見える人がいると思ったのだがなぁ……」


 上半身裸で、王様は腕を組んで唸ります。子供が面白がってお腹を突っつき、王様はくすぐったそうにしています。お母さんが怒って止めてから、王様に気まずそうにいいました。


「王様……それは騙されているのでは……?」

「いやぁ……実は大臣たちも、同じことを言ったんだ。けれど本当に服があるのなら、仕立て屋さんを捕まえるのも悪い。そうだ二人とも、一つ聞きたいのだけれどいいかな?」

「はぁ……なんでしょうか、王様」

「あなたの知っている、賢い人を教えてくれないか?」

「それでしたら……近くにいる学者さんと、森に住む魔女でしょうか……」

「そうかありがとう。行ってみるよ」


 丁寧にお礼を言った王様は、堂々とした足取りで進みます。町の人たちは姿を見てぎょっとしましたが、その度に王様は服が見えるかどうかを尋ねました。けれど誰も、服が見えないと答えます。その中の一人が、王様にこう言いました。


「王様、寒くねぇでゲスか?」

「うーん……あまり感じないなぁ……お腹が出ているせいかな? それとも服があるからかな」

「オラにも服が見えないので、なんとも言えねぇゲスが……服があってもなくてもいいように、何か羽織っていた方が、風邪を引かなくていいと思いヤス……」

「おぉ、それもそうだね。ありがとう」


 素直に言葉を受け入れた王様は、普段愛用のマントを身に着ける事にしました。しかしあまりにこれは、自分で見て恥ずかしい格好です。ちょっと太ってツヤの良いお腹と、豪華なマントがミスマッチ。町の人たちも、くすりと笑ってしまう恰好でした。王様は頭を掻きながら、町の服屋さんに事情を話します。


「うーん……見える人はいないけど、見えない人にも恥ずかしくないようにしたい。やっぱり似合わないよねぇ」

「も、申し訳ありません王様。しかしこれは、あまりに……」

「うん。私もこれはちょっと……何かいい服はないかな?」

「それでしたら……」


 町の服屋さんは、落ち着いた茶色の上着を渡しました。それでもかなり変ですが、真っ赤でふさふさのマントよりは、王様に似合っています。その後も色んな人に尋ねますが、王様の服が見える人はいません。ようやくたどり着いた学者さんの下に来て、王様はぎょっとしました。


「が、学者さん……」

「おや王様、どうしたのですか?」

「いやいやいや……あなたこそ、どうしたのです」


 王様は、上半身裸の学者さんに驚いています。フフン、と胸を張って学者さんは言いました。


「実は先ほど、有名な仕立て屋から衣服を買ったのです。どうです? 似合っていますか?」

「まさか、その服は……『賢い人にしか見えない服』ですか?」

「まさしくその通り。しかしなんです王様、あなたの恰好は……」


 王様は頭を掻いて、素直に自分の事を話しました。


「実は私も同じ服を買い、身に着けているのですが……誰にも見えないそうなのです。かく言う私も服が見えていません。もちろん、あなたの衣服も」

「え……」


 学者さんは一瞬、顔色を変えましたが……しばらくすると堂々と言いました。


「大丈夫ですよ王様。私には、あなたの服が見えています。とてもよくお似合いですよ」

「そうですか。良かった。しかし学者さん、最初は顔を顰めていましたが……」

「それは私の着ている物より、ずっと良い物を身に着けておられたので……つい、妬ましく思ってしまったのです。申し訳ありません」

「あぁ……そうだったのですか」


 にっこりと頷く王様と比べて、学者さんは顔色が良くありません。かわいそうに思った王様は、こんなことを言いました。


「学者さん。良ければ服を交換しませんか」

「なんですって?」

「いえ、私にはどちらの服も見えないので……どちらを持っていても、見えなければ同じです。それなら、服の見えるあなたに譲ろうと思うのですが……」

「そ、それは……ありがたい話です。ありがとうございます」


 にっこり笑って王様が衣服を譲ろうとしましたが、見えない王様はどうしたものかと迷います。服が見えているという学者さんが、ペコリと一礼して服をいじります。学者さんと服を交換し終えると、王様は上機嫌でお城に戻っていきました。


「町の学者さんが服を見れたそうだ。彼も同じ服を買って着ていた」

「そうですか……」

「ただ、私には見えなかったから……どんな服かはわからない。私と同じように、上半身が裸に見えたなぁ……」


 苦笑いする王様に向けて、大臣さんは言いました。


「王様……申し上げにくいのですが、よろしいでしょうか」

「うんうん。聞かせてくれ」

「その服が本物であれ偽物であれ、賢い人は少ないでしょう。ですから、多くの人が裸に見えてしまいます。もしかしたら素晴らしい服かもしれませんが、皆に裸に見えてしまっては……」

「そうだね……この服は普段は着ないようにしよう。ところで大臣、私は森の魔女にも会いに行こうと思うのだけど」


 大臣はびっくりしました。森の奥に住む魔女は、どこか不気味な風貌で、怪しい薬を作っていると聞きます。どうにか止めようとする大臣でしたが、王様は言いました。


「うん。確かに森の魔女は不気味だ。悪いうわさも聞いた事がある」

「でしたら、わざわざ行かなくても……」

「確かに悪い人かもしれないが……薬を作ったり、自分なりに勉強をしている人だと思うんだ。きっと賢い人に違いにない。服の入っていた箱ごと、中身をちょっと見せるだけなら、大丈夫」


 王様がそう言うと、大臣は渋々頷きました。果たして魔女には『賢い人にしか見えない服』が、見えるのでしょうか。


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