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5 浅賀旺士郎



 妹の双葉に野球を教えているという高校生の「お兄ちゃん」が、どんな人物なのか知るために、もみじは友人の一華と河川敷のグラウンドへ向かった。


 しかし、そこで目にしたのは、つい最近「雑誌」でみた天才・浅賀旺士郎の姿だった。







「浅賀旺士郎って有名人なの?」


 もみじは、一華の質問にようやく我に返る。そして、自分が眉間にしわを作るほど驚愕の表情を浮かべていたことに気が付いた。


「……うん。U15の日本代表選手に選ばれた『金の卵』だよ」


 まさか双葉に野球を教えているのがそんな人物だとは想像だにしていなかった。それに、どうして彼がこんな田舎のグラウンドにいるのかも分からない。


「へぇ~。イケメンで優しく、野球も上手と」


 一華は値踏みをするような表情で浅賀を見つめる。そして、ある一つの事に気が付いた。


「あれ? U15の選手なら、高校生じゃないんじゃ……」


 驚愕の表情を浮かべてそんなことを言い放つ。一華は、基本的にはしっかり者だが、変なところで天然を発揮する。








「お姉ちゃん! この人が『お兄ちゃん』だよ!」


 双葉は浅賀の手を引きながら、少し離れた所にいたもみじの元へと連れてくる。そして、もみじに浅賀を紹介した。


「どうも、あなたが噂の『お姉ちゃん』ですか?」


 浅賀は初対面のはずだが、もみじのことを知っている様子だった。


 もみじは、すぐにその噂の発生源であろう元凶に視線を送る。すると、その元凶は視線を左右に動かしている。



「……はぁ、私は双葉の姉、齋藤もみじ。同級生だから敬語なんていらないよ。()()()()()くん」

「なんだ、知ってたんだ」


 浅賀は、もみじの言葉を受けて彼女が自分のことを知っていると確信する。


「あれ? お姉ちゃん、知り合いなの?」


 もみじが浅賀の事を知っていることに、双葉は意外そうな表情を浮かべる。おそらく、双葉は誰に野球を教えてもらっているのか理解していないのだろう。


「……私が個人的に知っているだけよ」


 もみじは視線を少しそらしながらそう呟く。


「俺も知っているよ。『齋藤もみじ』って、安岡中のエースで有名人らしいし」


 もみじは双葉の方へ再度(いさ)めるような視線を向ける。しかし、双葉は首を横に振る。


「……どこで聞いたの?」


 その視線は浅賀の方へ向かう。しかし、浅賀は特に気にした様子もなく、さっきまでと一切変わらない様子で淡々と答える。


(うち)のばあちゃんが言ってた。なんでも『安岡のスター』だって」

「……なに、嫌味?」


 日本代表のエースに言われると嫌味以外の何物でもない。しかし、浅賀は少し目を大きく開いた。


「別に、嫌味を言ったつもりはなかったんだけど……」


 そう言って、浅賀は困ったような笑顔を見せる。どうやら本当に嫌味を言ったわけではないようだ。


「なぁ、兄ちゃん! これ本当に貰っていいの!?」


 浅賀の後方から、少年の大きな声が届く。

 浅賀が持ってきた大きな鞄から野球道具を引きずり出し終えた少年たちは、すでに道具の配分を決め始めていた。


「もう使わない道具だから、気にせず持って行っていいよ!」


 浅賀の言葉に少年たちは嬉しそうな声を上げる。思っていたより多種多様な道具があるようで、少年たちは自分に合うサイズのスパイクを探したり、めぼしいグローブの争奪じゃんけんを繰り広げる。


「あ、紗月ちゃんの分が先だからね!」


 双葉はその様子を見て、思い出したように少年たちにそう言い放つ。すると、少年たちは一旦争奪戦を停止する。


「……紗月ちゃん、お姫様だね~」


 静かに見守っていた一華がそう呟く。

 確かに、紗月は可愛いし内向的な性格は男子に人気だろう。


「おっと、自己紹介が遅れたね。私はもみじの親友の後藤一華。一華って呼んでいいからね」

「分かった。じゃあ、一華と呼ばせてもらうよ」


 浅賀は、一華の挨拶に対して綺麗な笑顔で応える。その笑顔はとても垢抜けていて、田舎の景色ともの凄いギャップがあった。


 挨拶が済むと浅賀は少年たちの方へ向かう。どうやら素人である紗月の道具選びが難航しているようで、少年たちはそれを待っている状況下が続いていたようだ。


 浅賀は紗月に色々と助言をしていき、てきぱきと道具選びを進めていく。


「……あれはモテるね」

「それは同感」


 一華の感想に、もみじも同意の意を示す。

 顔よし、性格よし、おまけに器量もよいときた。正に非の打ち所がない彼が、モテない理由など一つも考えつかなかった。


「じゃあ、俺帰るから」


 いつの間にか、道具選びは終了しており、浅賀はもみじ達にそう言って帰っていく。


「兄ちゃん! 大事に使うから~!」


 少年たちは大きな声でそう宣言する。それに対して、浅賀は笑顔で手を上げて応える。


「……そういえば、浅賀君ってどうしてここに居たんだろうね」

「言われてみれば、動揺してそこは聞いてなかった」


 もみじはまさかの事態に動揺しており、どうして浅賀旺士郎がこんな田舎にいたのか聞くのを忘れていた。


「まぁ、おばあちゃんの家がここら辺にあるんでしょ」


 もみじは浅賀言っていた内容を振り返って、そう結論付ける。確か「ばあちゃん」がどうのこうの言っていたはずだ。


「……本当にそうかな~。もしかして、転校してきたとか?」

「ないない」


 一華の冗談に、もみじは笑いながら否定していく。一華もそれに対して「そうだよね~」などと笑顔で返答した。






今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


誤字脱字等ありましたら「誤字報告」にてにて知らせていただけるとありがたいです。また、何か感想等ございましたら、そちらも送っていただけると嬉しいです。お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『5 浅賀旺士郎』まで拝読しました。 『お兄ちゃん』の正体が解って、はじめは警戒していた様子のもみじでしたが、 一華の言うように「顔よし、性格よし、おまけに器量もよい」とくれば、 これは…
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