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プロローグ

※2022.6.26 最初の部分、付け足しました_(._.)_




 それは、とてもとても暑い日。


 朝見たニュースでは、キャスターがお得意に「今年一番の猛暑日になるでしょう」なんて言っていた。キャスターの言うとおり、野球場ではむせ返るような熱気が立ち込めていて、今までで一番の歓声が響き渡っていた。


「──いいか、このイニングさえ乗り切ればきっと勝てる!」


 ベンチからの指示を伝えに来た伝令がそんなことを言う。しかし、そんなことはここにいる誰もが分かっている。


「齋藤、大丈夫か?」


 キャッチャーマスクをかぶった青年、石垣(いしがき) 康太(こうた)が、マウンドでやたらと足元を気にしている少女、齋藤(さいとう) もみじにそう尋ねた。女子が野球をやっていること自体珍しいのに、彼女の背中には「1」の背番号が縫い付けられている。


「大丈夫……問題ない」


 もみじは既に肩で息をしている状態だった。


 それもそのはず。

 場面は0-0。七回裏一アウト二、三塁。中学野球は七回が最終回なので、この回三塁ランナーが生還すれば、その時点で安岡中の敗北が決定する。


 そんな精神的に疲れる場面で、迎えるは相手の四番打者。圧倒的に厳しい状況下に置かれていた。


「そうか……。このイニング、野田(あいつ)さえ抑えれば何とかなる。気を引き締めていくぞ」


 石垣はそれだけ言い残してマウンドを去っていく。


 野田(のだ)(つよし)。強豪・縞黒(しまぐろ)中のなかでも群を抜いて能力の高い選手だ。この試合、もみじたちは彼に対して徹底的に勝負を避けてきた。そして、一点も与えられない状況で一塁ベースが空いているこの局面。勝負を避けるには条件が揃いすぎていた。


「……歩かせようって言うと思ったけどなぁ」


 もみじは、マウンドの足場をスパイクで(なら)しながらそう呟く。別に誰かに向けて発したわけではなかった。


 ──プレイ!!

 

 主審の大きな声がグラウンドに響き渡ると、スタンドから再度大きな歓声が沸き上がる。決勝戦まではそこまで観客もいなかったのに、今日はTVカメラや野次馬客が大勢駆けつけていた。ただでさえ熱いグラウンド上に、更なる熱気が立ち込める。


 もみじはプレートに足をかけ、野田と対峙する。

 左打席ですでに構えている彼は、中学生ながら180㎝近い身長にがっちりとした体格をしており、まさに強豪校の四番打者といったところだ。


 もみじは、彼から発せられるプレッシャーに少し身震いしつつ、石垣の出すサインを見る。


『初球、直球をインサイドに』


 もみじの心臓が大きな音を立てる。

 セオリーなら緩い変化球か外にストレートもしくは変化球といったところだろう。内側へのストレートはバットに当たりやすいコースであり、サヨナラ負けの考えられるこの場面では少しリスキーな選択だ。理想は見逃しもしくは空振り。外に逃げる変化球で引っ掛けさせ、内野ゴロで打ち取るといったところだ。しかし──。


 ──ただ、それだけに相手の頭にはない、か。

 

 大きく鼓動する心音を何とか沈めつつ、もみじはセットポジションに入る。


 ちらっと三塁ベースを見ると、緊張の面持ちをしたランナーの顔がある。緊張しているのは何ももみじだけではない。そのことを再確認するかのように一瞥したあと、大きく左足を挙上させる。ゆったりと上げられた左足は、くの字を呈して体はホームベース方向へ傾倒していく。そこから抵抗するように引き戻された上体から突き出す左腕は、一直線に捕手のミットへ向かい、もみじはこれから投げるボールの軌道を思い描く。


 左足が地面に着くと同時に、一気に腰をひねる。すると、それにつられて程よく力が抜けてしなった右腕が体の前へと移動していく。


 ボールが指先から放たれる。

 理想的なフォームから放たれたそのボールは、彼女の思い描くコースをなぞりつつ石垣のミットへ進んで──。



 ──カキーンッ!!



 乾いた金属音が響き渡る。

 もみじから放たれたそのボールは、石垣のミットに到達する前に野田のバットによって弾き返された。


 もみじは、その打球の行方を見ることはしない。

 無言でその打球の行方を目で追う味方ベンチと、今日一番の大歓声が沸き上がる相手ベンチ。そして天高く突き上げられた野田の拳。視界の端には、今にもホームベースに到達しそうな三塁ランナーの姿があった。


 もみじは、静かに天を仰ぐ。


「──思ったより曇ってる」


 朝は雲一つない空模様だったのに、少しずつ滲んでいく視界がとらえた今の空は、いつの間にか曇っていて今にも雨が降り出しそうだった。



プロローグではありますが、最後まで読んでいただきありがとうございます。


「野球」というテーマは、「小説家になろう」では珍しいように感じて書いてみることにしました。設定を凝る必要もありますし、試合の展開や野球の知識等、少しスローペースで物語は進行しそうです。


それでも、分かりやすい文章を目指して投稿していきたいと思っています!


誤字脱字等ありましたら「誤字報告」にて教えていただけるとありがたいです。また、何か感想等ございましたら送っていただけると本当に嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『プロローグ』拝読しました。 文章が軟らかくて、とても読みやすい印象です。 女性主人公の野球のお話、興味深く拝読しました。 情景描写が細やかで、もみじの置かれた状況、心情が手に取るように…
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