14話 裏切り
「まぁ、狙いはリン。お前だよ」
そう言ったセツナは何かを取り出し僕に向かって投げつけてきた。
パリンと音を立てて割れたそれは僕の足元に複雑な魔法陣を描いていく。
「な、にを?!」
魔法陣から出ようとしても体がうまく動かない。
どうやら拘束の術式も織り込まれているらしい。
「悪いな……男に戻してもらえるって聞いたら女神様の頼みを聞くしかないだろう?」
「女神様?……まさか!」
この世界でシンティグレーアは女神として認識されていなかった。
つまりセツナが言う女神様とはもう一人の方しかない。
「そう。フィルリアーネ様だよ。彼女はなぜかリンを、カグラを探してるんだ。だから会ってやってほしい」
じわじわと魔法陣が完成していく。
おそらくこの魔法陣は転移系で完成したら女神フィルリアーネの元に飛ばされるのだろう。
「セツナ、それは罠だって思わなかったのか!どんな奴かもわからない女神の願いを聞くなんて……それで男に戻れる保証はないんだぞ!」
僕の予想では女神フィルリアーネはとんでもない奴だ。
もう一人の女神の存在を隠し、自分一人だけ表世界に残っている。
これがまともな女神のすることかというとそうは思えない。
「夢の中で会ったけど綺麗な子だったよ。とても嘘をついているようには見えなかった」
「お前、綺麗な薔薇には棘があるって言葉知ってるか?」
敵地に飛ばされる。
それは望ましい事かもしれないがこの魔法陣で飛ばされた場合どんなマイナス要素が付与されるかわからない。
だから今回の招待はご遠慮願いたい。
確か前回もこんな風に魔法陣に閉じ込められたことがある。
あの時はカグラの力任せで魔法陣を砕いて壊した。
なら今回も力任せでいけるかというと、拘束の術式があるせいでうまく動けない。
だが男の状態では、の話だ。
僕は一息吐いて力を使うことにする。
『女性化』を発動すると同時にボフンと煙が辺りを覆う。
体の変化については考えず次に『超パワーアップ』を発動して拘束術式を破った。
「はぁっ!」
勢いをつけて魔法陣を殴りつける。
ビシリと音を立てて魔法陣が欠けた。
やはり女神製の陣は固い。
もう一発殴りつけようとした時にはもう魔法陣は完成していた。
気持ちの悪い浮遊感が僕を襲う。
視界がブレて違うモノに塗り替わっていく。
白と青。
そして冷たい空気。
次の瞬間、僕ははるか上空にいた。
どうやら攻撃の結果転移座標が変わったらしい。
ついで重力に従って体が落下し始める。
落下地点を見るがどうやら首都エリュシウムとは違う場所に転移させられたらしい。
美しい白の城と破壊された街並みが見える。
その城にはとても見覚えがあった。
「あの城、まさか……アウロラか?!」
最後に見たアウロラの美しかった景色と今の破壊しつくされた街並みの違いに動揺する。
絶賛落下中だがカグラの状態なのでこの程度の高さは問題ない。
今回は下段攻撃の要領で足元に風魔法を爆発させて着地する。
女の子にならないと強くなれないとかそれなんて魔法少女……
着地したのは王城の中庭だった。
整えられてた花壇は焼け焦げ、植物は灰になり見る影もなくなっている。
城もいたるところに焼け焦げた跡や崩れた柱などが放置されているのが見えた。
「嘘だろ……」
あの美しかった城がここまで荒らされてしまうなんて……
呆然としていると
「誰だ!!」
誰もいないと思っていた場所で突然の誰何の声が響く。
驚いて声のした方を見ると見覚えのある騎士服の青年が剣を構えて立っていた。
青年は僕を見て驚きに口を開けている。
「あ、え、カグラ……なのか?」
「え、あ?!うん……久しぶり、かな?」
やばい。
『女性化』の発動を解除していなかった。
「お前、なんでまた来たんだよ!」
そう言った青年は駆け寄ってくる。
その時だった。
ボフンと煙と共に『女性化』が解けてしまった。
つまり男の状態でのご対面。
「「……」」
お互い気まずい雰囲気になる。
「こ、この事皆には内緒でお願いします……!」
ダメもとでお願いしたら青年は何度もうなずいてくれた。
「あ、あぁ……それが、本当の姿、なのか?」
僕はうなずいて答えた。
「祝福の影響なんだ。この姿の時はリンと名乗ってる」
「わかった。俺もリンと呼ぼう」
「ありがとう」
とても複雑な状況だと青年、死んだと思われていたアレク・レオンハルトは理解してくれた。
「表にいると危険だ。中に入ろう」
そう言われて僕はアレクと一緒に城の中へ入る。
「外見はボロボロのままだが中身はある程度綺麗に整えてるんだ」
そう説明してくれながら歩く。
そしてたどり着いたのはアウロラ城の図書室だった。
「調べものに来たからな。ここを拠点にしている」
中に入ると何人もの人が調べものをしたり難しそうな事を話し合ったりしていた。
こんなに、たくさんの人が無事だったのか。
「皆、戻ったぞ」
「おぉ、アレク!大丈夫だったか?」
何人かの視線が僕に向いたのが分かる。
「さっきの衝撃はこいつが落ちてきた時のものらしい」
そういってアレクは僕を前に出す。
「あの、カグラの兄でリンと言います!よろしくお願いします!」
と挨拶すれば歓迎会の時のようなざわざわが起きる。
色んな視線が向けられて少し落ち着かない。
「ふ~ん、カグラちゃんにお兄ちゃんなんていたんだぁ~」
一人だけ、そう言った人物がいた。
ドキリとしたがその声の人物を見て僕はまた懐かしい気持ちになる。
ふわふわのピンクの髪に翡翠色の瞳、昔と変わらず紫のローブを纏ったその人物は向こうで一切話に出なかったナルセ・ナツミその人だった。