12話 スキル
結論から言うと僕が扱えそうなスキルは無し、魔術も三つほどしかなかった。
スキルはカグラの時に習得した技がある。
だからあまり目新しいものがなかった。
魔術は『魔剣創造』と『死の火炎』、『天災』くらいかな。
『魔剣創造』は魔術で剣を創造できるようになればもし武器が手元になくても戦うことができる。
便利だから覚えようと思った。
残りの『死の火炎』と『天災』は禁書庫にあったのが分かるくらい危険な魔術だ。
一つは対象を焼き尽くすまで燃え尽きない火炎。
一つは天候操作系で意図的に雷雲と竜巻を広範囲に作り出す。
どちらも使うのが怖い魔術だ。
本当にこれを覚えてもいいのだろうかと不安になる。
一方セツナの方は気になるスキルが多くあったらしく終始テンションが高い。
レクトも横についてちょくちょく解説を挟んでいる。
「くー、これできたらかっけぇんだろうなぁ!」
「そうだな」
「ちなみに実際にやってみるのは?」
「ある程度読み込んでからな。ほら、次だ」
「はーい」
あの勉強苦手仲間のセツナがのめりこむなんて……驚きだ。
僕も魔術書を読み込むためにページをめくる。
大体は難しく書かれているが異世界人特典なのか呪文さえ解読してしまえば術の事を理解していなくても行使できてしまう。
まぁ解読が面倒なんだけどね。
これがナルセならパッと解読してしまうんだけど僕はそこらへんは平凡だから無理。
それから僕とセツナは午後を使ってじっくり本を読みこんだ。
翌日。
読み込んだら次は実践だ。
しかし僕の魔術は危険すぎるため実践は無し。
セツナの実技を見守ることにした。
はずだったのだが、なぜか魔王エリウスに一人で呼び出され書類タワーのある執務室ではなく来賓用の応接室らしい部屋に通されている。
なぜ僕一人だけの呼び出しなのか分からず緊張していた。
まさか、カグラのことバレた……?
いやでもこっちに来てからカグラの姿にはなっていないし、バレるような要素はないはずだ。
そんなことを考えてる僕の前に座るエリウスは優雅に紅茶を飲んでいる。
無表情が標準装備のエリウス。
彼はここに来てから一言も声を発していない。
はっきり言って沈黙がつらい。
「あ、の……何で呼び出されたんでしょうか……?」
思い切って聞いてみる。
するとエリウスは持っていた紅茶のカップをソーサーに置いた。
「……訓練の様子はどうだ?レクトは心配ないしか言わないのだ」
そう言って僕を見る。
その目は僕の答えを待っていた。
「訓練、ですか?僕とセツナでしたら今上級スキルと魔術の習得をしている所になります」
「上級、だと?」
エリウスの片眉が上がる。
どうやら禁書庫の事、エリウスには伝えていないみたいだ。
レクト、ご愁傷様。
「はい。思っていたより戦力になると言われスキルの技術書を見せてもらいました」
「そうか……それは、ついこの前まで攻撃型じゃなかったセツナもなのか?」
「はい」
僕は頷いた。
するとエリウスは額に手を当てて何かを考えているようすになる。
「……セツナは本気で第二期派遣隊に入るつもりなのだな」
「みたいですね。戦えることが嬉しいみたいです」
何を悩んでいるのか、エリウスは小さく頭を横に振った。
その際角についた細かい装飾がぶつかり合いチリンと音を立てる。
「あの、心配なら様子を見に行ったらどうですか?」
「そんな暇はない。わかるだろう?」
あの書類の山の事を言っているのだろう。
諦めたように目を細める。
「でも、こんな風に僕に割く時間があるならその時間を使うべきです」
「っ!だが……!」
僕に言われて言葉に詰まる。
なんでわざわざ僕にセツナのことを聞くんだろう。
自分で見に行けば確実なのに、だ。
「ちなみに今日は実践してみるといって楽しそうに意気込んでました」
「そう、か……」
「なぜ彼女の心配を?」
僕も一応第二派遣隊に入る予定なのになぜかエリウスが気にかけているのはセツナのほうだ。
何か気になることでもあるんだろうか。
「セツナは、私が保護した異世界人で無力だった。それがいきなり戦闘をし始めれば心配にもなるだろう?」
「なるほど、そういうことだったんですね」
つまりセツナは最近までは無力で守らなければならない対象だった。
それがいきなり危険な所に突っ込もうとしているから心配になっているのか。
そんな状況なら僕でも心配する。
「わかった。今から様子を見に行く、ついてきなさい」
「え?あ、はい!」
エリウスは意を決したように立ち上がると扉を開けて歩き出す。
その広い背中を追いかけた。
広い背中を見て、本当に成長したなぁと懐かしい気持ちになる。
前は僕とそんなに変わらない背丈だったのに。
五年という月日はこんなにも人を変えてしまうんだな。
歩いて訓練場まで来ると、丁度セツナがレクトと戦闘でスキルを実践しているところだった。
いつの間にか戦闘を始めているとは、二人とも実は戦闘好きだったりするのか?
エリウスはその様子を訓練場の外周からそれを見つめる。
「あれが、本来のセツナの力なのか……」
ぽつりと呟かれた言葉。
「あんなに生き生きとしたセツナは初めて見たな」
「まぁ肩身狭いって言ってましたからね。きっと役に立てるようになって嬉しいんだと思いますよ」
「そうか……」
そう答えてエリウスは踵を返す。
「セツナにも伝えてくれ、三日後にほかの希望者と共に入隊テストを行うと」
「三日後ですね。わかりました」
それだけ伝えるとエリウスは戻って行ってしまった。
しかし僕は心なしかその背中が満足そうな雰囲気をまとっているように感じたのだった。