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11話 世界史

真面目な話をしてレクトと別れた後自室に戻りシャワーを浴びた。

この世界は水関係の魔導技術はかなり発展していて炎の魔石を使った魔術式のおかげで好きな時に好きなだけお湯を使うことができる。

この魔石、魔物から得るものと鉱山から産出するものの2パターンが存在する。

たいていこういう生活の場で使われている魔石は鉱山産のものだ。

魔石に術式を刻み込みそれを起動式の刻まれた蛇口をひねるなりすれば発動してくれるというとても便利な技術である。

というのは前回旅をした魔導士の女の子が教えてくれた知識だ。

その子の名はナルセ・ナツミ。

まるで日本人のような名前だが正真正銘のアルトリア人である。

捨て子だったところを大魔導士であるオババに拾われて魔導士として育てられたのだとか。

そんなナルセはなんと10歳にして宮廷魔導士になったエリート中のエリート魔導士なのだ。

前回はその類稀な才能を発揮して魔物との戦闘をとても楽にしてくれた。

5年も経っているのだからナルセは今15歳か。

好奇心の塊のような女の子だったけどどんな風に育っているのか気になる。

そういえばこの世界に来てからナルセの話を聞いていない。

5年も経てば大魔導士として活躍していそうなものだけど……


そんな昔の事を考えていたらだいぶ時間が過ぎてしまっていて、慌てて食堂にご飯を食べに行く。

その際、食堂でワイワイしていたリンドウさんを見つけて午後はレクトと一緒に勉強会をする旨を伝えた。

リンドウさんも勉強が苦手なのか頑張れよと肩を叩かれた。

急いで昼食を食べて宿舎の入口に行くと僕と同じくシャワーを浴びて着替えたらしいレクトとセツナが待っていた。

「遅いぞリン!」

「悪い悪い」

セツナがちゃんとリンと呼んでくれることに感謝しつつ謝った。

「ちょっと遅れたがまぁいいだろ。どうせ時間に追われてるわけじゃない」

そう言って歩き出すレクトについて僕とセツナも歩き出す。


そうしてレクトに連れてこられた図書室はガランとしていた。

「誰もいない……?」

「今は司書をする余裕のある魔族はいないからな」

僕の言葉にレクトは言うや司書机からチャリンと鍵を取り出す。

「こっちだ。ついてこい」

そう言って歩いていく方向には見覚えのある術式の刻まれた扉が見える。


あれって確か禁書庫の扉じゃ……


「なんだあれかっけー!」

一体何のスキルを覚えさせるつもりなのかと僕の心配をよそにセツナはテンションを上げている。

カチャリと鍵を回して扉を開けた。

「本当は面倒な手続きが必要なんだが今回は特例だ。入れ」

そう言われて僕とセツナは扉の中へ入る。

薄暗い部屋の中にたくさんの本が本棚に収められているのがわかった。

中には異様な存在感が半端ない本なんかもある。

「スキルの技術書はこっちだ」

先を歩くレクトが手招きをした。

「魔法系はそっちの棚だな」

「あ、じゃあ魔法系は僕が見るよ。セツナはスキル系を見て。良さそうなのがあったら最後に見せ合おう」

「お、了解ー」

「俺は本が苦手だからここで見てるな」

レクトは言うや壁に背を預けて見る姿勢になる。

勉強が苦手なのはレクトもだったか。

僕は手の届く範囲の本から手を付け始めた。

といってもタイトルで適当に選んでいる。

なぜならどれもこれも中級魔術ではなく上級魔術の技術書だからだ。

いくらなんでも全部見て覚えるなんてできるわけがないので、適当に選んでパラパラめくって比較的簡単そうなやつを床に積んでいく。

すると途中で本の分類が変わった。

魔術の隣に世界史の本があったのだ。

興味を持った僕はそれを手に取って開いてみる。


『世界は創造主フィルリアーネの嘆きから生まれた。涙からとても美しい世界が生まれたので創造主はとても喜んだ。女神は喜びから知性ある生き物が生まれたので世界を美しく保つよう命じ、天高くから世界を鑑賞している。知性ある生き物は女神の声を聞くために神殿をつくった。』


最初の一文からぶっ飛んでいた。

読み進めるとその後、知性ある生き物は姿かたちが違うというだけの理由で人族、魔族に別れ領土の問題で戦争が始まった。

いつごろからか神殿は女神からの言葉を伝えなくなったことも書かれている。

時間がかかってしまったが最後まで読んでみた所『女神』シンティグレーアの名前は一つの出てこなかった。

彼女は自分から女神と名乗った。なのにも関わらず女神と認識されていない。

一体どういうことなんだろう。

隣にあったもう一冊の世界史も開いてみるがそこにも女神の名前はフィルリアーネとなっていた。


もしかして、存在を隠されている?

だから助けを求めている?


もし隠されているのであればどうやって見つければいいのか……あの白い部屋は一体どこにあるのか。

とにかく、現状を少しでも変えるには彼女と再度接触する必要がある。


「おーいリン」


そこまで考えた所で名前を呼ばれた。

そうだ、ここには一人で来たわけじゃなかった。

「図書室では静かにするように」

そう注意してから僕は走り寄ってくるセツナに魔術の技術書を数冊渡す。

「うわ、こんなに?」

「スキルの方はどうだったんだよ」

「それはレクトさんに持ってもらってる」

言われてレクトの方を見れば確かに何冊か本をもっている。

「お前の選んだ本も数多いじゃんか」

そう言えばセツナはあははと笑う。

「気になるものがおおくってな!」

「そうか、がんばろうな?」

「うーん、俺魔力量少ないらしいからなぁ……」

「やってみてから考えよう」

僕が言うとセツナは頷いた。

「そうだな!せっかくの異世界なんだ魔法も使ってみたい!」

そう叫ぶ。

僕はそのおでこにデコピンした。

「図書室では静かに」

「いてぇ……」

「はは、本当に仲がいいな二人は。さぁ、通常書庫のほうにテーブルがあるからそっちに移動しようか」

僕たちのやり取りを見ていたレクトが楽しそうに言う。


先頭を歩くレクトについて歩き出すセツナ。

僕はさっき読んだ世界史の本を持ち出すか一瞬悩んで、やめた。

ここにあるということは持ち出してはいけないもののはずだ。

人族と魔族がもとは同じ知性ある生き物だったという事、多分これが禁書庫にしまわれている理由だろう。

だって前回でも聞いたことない内容だったからね。

安易に持ち出して誰かに読まれでもしたら大変だし、そのままにしておこう。


そう考えてから僕を呼ぶセツナの声に返事を返して歩き出した。


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