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10話 レクト

早朝の訓練を終えた僕たちは小休止を挟みながらお互いの技を出し合ったりして祝福を使いこなせるように情報を交換しあった。

そして昼頃になり一度汗を流しに宿舎に戻ることになった。

すると同じく訓練終わりらしいレクトが楽な恰好で窓際に座り風に当たっているところに出くわす。

僕がレクトに気づいたようにレクトも僕に気が付いたようで視線がこちらを向く。

ぽたりと頬を伝って落ちた汗がレクトの訓練の激しさを物語っている。

視線だけこちらに向けたレクトの姿が中々に様になっていて男の僕でもドキリとした。


「リン」

「な、なに?」

名前を呼ばれて思わずどもってしまう。

「今、丁度リンの事を考えていたんだ」

「僕の、事?」

一体何を考えていたんだろう。

その僕の疑問に答えるようにレクトは口を開く。

「正直、俺はリンがリンドウと引き分けるとは思っていなかった。いくらカグラの兄でも実践経験のないリンがあそこまで戦えると思ってなかったんだ」

「う、まぁ……普通はそう思うだろうね」

中身は実戦経験豊富なカグラそのものだけど、それは口にはしない。

「祝福も発現して次の日にはあそこまで扱えるようになってるなんてな」

「色々考えたからね」

『完全結界』、込めた魔力量に左右されるからそこまで完全な結界とも言えない事が今回の訓練でわかった。

でも攻撃に転用できることもわかったから今回の訓練は本当に受けておいてよかったと思う。

「考えた、か……リン、すまなかった」

「え?」

僕は何を謝られたんだろう。

思わず聞き返してしまった。

「お前を侮っていた事、悪かったな」

「いや、普通に考えて僕がおかしいだけだと思うよ。うん」

なんたって異世界召喚二回目だし。

「お前な……謝罪は素直に受け取ってくれよ」

「あ、うん。わかった」

呆れたように言われたので謝罪を受け入れる。

「ちなみにな、リンドウは俺と同等の実力者なんだぞ?まぁ負けたことは無いが」

「え、そうなんだ……」

つまりリンドウさんって騎士団長一歩手前の強さをもってるってことか。

一体何者?いや、異世界人なんだけど祝福込みでもすごい事だよね。

「リン、午後は俺と戦ってみないか?」

「え?!」

「冗談だ。俺はセツナの訓練があるからな」

驚いた僕をからかっていたらしいレクトは笑う。

「そうか。セツナがいたんだった。あいつはどうですか?」

「ヤキュウ、というものをやっていたらしいな。投げ物に関しては前線で戦えるレベルだ」

そう言われて僕は思った。

セツナ、獲物をボールに見立てて投げてるな。と……

「他は普通の騎士と同じくらい動けている。正直訓練する必要があるのかというとわからないといったところだ」

「そこまでセツナは強かったのか」

「リンほどじゃないけどな」

「であれば……スキル関係の技術書なんかを読ませるのはどうかな」

セツナも僕と同じく勉強は得意じゃないけれど戦いに関することならもしかしたら覚えることができるかもしれない。

そう思って口に出す。

するとレクトはぽかんとした表情で僕の方を見てきた。

「スキルについてもカグラに聞いたのか?」

「え?あ、うん。そう、そうだよ!」

レクトに言われて気が付いた。

この世界には異世界人に祝福があるように、この世界の人達が会得したスキルという技が存在する。

剣技であったり、魔法であったり、技術的なものであったり様々だ。

それはたいていは口伝だったりするが、簡単なスキルは技術書として売りに出されたりしていてだいたいの図書室にはあるはずだ。

この城の図書室にもあることは以前帰還方法を調べた時に見かけたので知っている。

あまりにもスルリとスキルの単語を出してしまったのでレクトを驚かせてしまったようだ。

慌ててカグラに聞いたということにする。

「そうか、本当にリンは色々聞いてるんだな」

「まぁ双子の兄だからね」

さらりと嘘をつけるようになってきて罪悪感が顔を出してきた。

それでもカグラであることをバラして余計な混乱は起こしたくないし、どこにいるかわからない敵にもバレたくない。

「よし、午後はスキルでも覚えさせるか」

「あ、気になるから僕もついて行っていい?」

「いいぞ。ちゃんとリンドウには言っておけよ」

そうだ。午後もリンドウさんと訓練する予定だった。

そこに気が付くなんてレクト……戦闘狂だった頃から本当に成長してるなぁ。

「うん。もちろん」

「じゃあ昼飯食ったら宿舎の入口で待ってるな」

「わかった」

そう言って僕は与えられた自室に向かうためレクトの横を通り過ぎる。


「リン」


一声。

名前を呼ばれると同時に腕を掴まれた。

何かと思ってレクトの方を見れば今までにないくらい真剣な表情で僕のことを見ている。

「エリウスの奴は俺の事を盾にしろって言ってたが、本当に危険な時は迷わず俺を盾にしてくれ」

「そんな、僕の祝福は完全結界だよ?そんな危険なことにはならないよ」

まさかの仲間を盾にしろ発言に僕は言った。

「その結界、完璧じゃないだろ……リンドウに破られかけてたじゃないか」

「う……」

完全な結界じゃないことバレてる。

あの戦いを見てそこまで気づけているなんて本当にすごい。

「頼む。お前に何かあってカグラの悲しむ顔は見たくないんだ……」

「……わかった」

あまりにも真剣な表情で言われるのでその勢いに圧されて頷いた。

もし本当にそんなときが来ても僕がレクトを盾にすることはないだろうけど。

その時は僕は本気を出してカグラとして戦うだろう。


本気を隠し続けて後悔だけはしたくない。

後悔するくらいなら秘密をバラしてしまおう。

僕はこっそり心の中でそう誓ったのだった。



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