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1話 ただいま異世界

理解できない響きの呪文が空間に響き渡る。

呪文に呼応するように足元の魔法陣が輝きを増した。


「……これをもって勇者送還の儀とする」


いつも偉そうにしている大臣が心なしか物悲しそうに宣言をする。

同じような表情の面々がずらりと魔法陣を囲うように立っていた。

その中には王様もいれば魔族もいるなんともいえない面々


「勇者様……本当に、ありがとうございました」


そう言った小さなお姫様は魔法陣の外側ギリギリに立っている。

その目は控えめに言っても涙で潤んでいた。

手は祈るように胸の前で組まれている。

「姫様。本当に大変なのはこれからだと思う。私はもういなくなるけど貴女の周りには貴女を支えてくれる人達がいるってことを忘れないで」

「はい……はいっ!」

私の言葉に姫様は顔を覆って泣きだしてしまった。

姫様を気遣うように一人の少年騎士が隣に立つ。

私は少年騎士の方を見る。

彼もまた、泣きそうで耐えているのが分かる表情をしていた。

「アレク。せっかく騎士になれたんだ。泣き癖治せよ」

「泣かせてくるやつがいなくなるんだから問題ない!」

「あ、そう」

そう言いつつもポロリと涙が一筋流れたが見なかったことにする。

アレクから視線を外すと視界に入ってくるように近づいてくる人がいた。

魔族特有の褐色の肌に燃えるような髪の少年だ。

「カグラ!次は負けないからな!!」

「次があればいいな?」

「いっぱい修行して絶対に勝つ!!だから弱くなるんじゃねーぞ!!」

「はいはいレクトも元気でな」

適当にあしらっているとレクトの隣に魔族の青年が立つ。

青年は翡翠色の髪の間から左右に悪魔のように角が生えている。

レクトを抑えるように頭を軽く叩くと彼は言った。

「私からも礼を言う。こうして私がこの場にいることができるのは君の働きあってのことだ」

「そんなことないよ。エリウスの努力の結果だろ?」

「後押しをしてくれたのは君だ。世界中の魔族が君の名を忘れないだろう」

「やめろよそんな恥ずかしい」

少し恥ずかしくなって頬をかく。


「そろそろ魔力の充填が終わるよ~」


会話を切るように呪文を唱えていた少女が言う。

「ナルセもありがとう」

「ふふ、カグラの頼みごとならいつでも歓迎だよ~」

私は一つ呼吸をして空気を切り替える。

ぐるりと私の事を見守る面々を見渡す。

最後に精一杯の笑顔を作った。


「じゃあ皆、あとは頑張って!!」


そう言うと魔法陣の光が強くなり視界が白く塗りつぶされて何も見えなくなる。



一瞬の浮遊感。


ストンと足が地面に着いた。

じわりと視界が戻って行くとそこは見覚えのある東京の路地裏だ。


「戻って、きたのか……」


ぐるりと自分の状態を確認する。

服装も異世界に召喚される前の私服に戻っていた。

軽く胸に触れるとCはあった胸が消えてストンとした胸板があるのが分かる。

恐る恐るそちらへ意識を向けるとズボンを脱がずとも分かるMySonの存在感。

思わず拳を握りしめてガッツボーズを取ってしまう。


「やった……やっと『男』に戻れた!!」


そう、実はさっきまで勇者と呼ばれていた僕はまごうことなき性別女性だったのだ。

どうやら異世界へ召喚されると何かしらの祝福といったスキルを得られるらしく、それがなんの女神の悪戯か僕の場合は性別が女性になり力が強くなる超パワーアップという祝福だった。

失った息子の喪失感と増えた胸の重量、そしてなぜか人に好かれるハーレム体質を備えていた状態は異世界で魔王相手に戦った一年が辛く感じた。

というか心の中で泣いた。

だから異世界から戻れたことよりも男に戻れたことの方が嬉しさが強い。

「おっと、そうだ時間を確認しないと」

傍らに落ちていたカバンからスマホを取りだした日時を確認すると僕があの世界へ召喚されてから3分も経っていない事が分かる。

「まじか」

丸一年もかかったので行方不明扱いになっていることも覚悟していたのにまさかの異世界魔王討伐3分クッキング。

「魔王もカップラーメンには勝てなかったか」

僕は遠い世界でどこかにいる魔王の事を思って空を仰いだ。



高校二年生の夏。僕は異世界で勇者になった。

異世界アルトリア。

剣と魔法があって、人間と魔族が領土と資源を巡って争っている。そんな世界。

僕が呼ばれた時、人間側は劣勢であと少しで王都アウロラまで攻め込まれようとしていた。

魔族の王、つまり魔王は人間側の降伏の証としてまだ幼い姫を差し出す様に命じ、それを拒絶した姫本人によって召喚されたのが僕『瀬名神楽』だった。

事情を聞いた僕は魔王(250歳)と姫(12歳)の年の差を知り、かわいい姫の為にかのロリコン魔王を倒さなければならないと決意する。

幸い、祝福によって超パワーアップ(+女性化)がついていたので魔王軍を退けることはできた。

王国の騎士や魔術師も協力してくれて仲間を増やした僕は撤退していく魔王を追う形で一年もの間追撃戦を行った。

結果、魔王は姫を嫁にしようとしていたことを現正妻に知られシバキ倒され常識的な思考を持った魔王の息子が後を継ぐ事で戦争は終了。

その後は魔族も協力の元、勇者送還の方法を調べてもらいなんとかこっちの世界へ帰ってこれたというわけだ。

そう、特に何のイベントも起こすことなく帰ってこれた。

まぁあの世界では女性の体だったし色んな意味で心休まる瞬間なんて全然なかったけどね。



そうして、異世界から戻った僕は平凡な日常生活へと戻り夏休みの宿題に泣いた。

1年間も戦いに明け暮れていたから勉強内容を思いだすのは魔王討伐よりも大変だった。

なんとか持ち直して成績も落ち着いた頃には高校三年生の夏休み。

休みと言っても受験生にとっては勉強の追い込みだからそこまで楽しいものじゃないだろう。

それでも息抜きに遊びに行くくらいは許されるはず。

そう思ったのがいけなかったんだろうか。


いつものように路地裏を通ろうとした僕は瞬きの間に東京コンクリートジャングルから薄暗い森の中に立っていた。

呆然と見渡すとどこまでも木々が生い茂っている。



「嘘だろ……」



サヨナラ、東京。

ただいま、異世界。

書き直しという形でもどってまいりました。

ゆっくりと直して行こうと思っていますのでよろしくおねがいします。

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